125 オール一族の野望……もとい、阿呆

「……進撃を開始する」


 デルタの号令と共に動き出す。


 先鋒は盾持ちスケルトンが速足で敵との差を詰める。その後ろに槍を持ったスケルトン。後方に弓や魔法を使うアンデットや闇の種族が追っている。


 それに合わせ、両翼のドラゴントルーパーとスケルトントルーパーが一気に駆け出す。左右から挟み込み三方から囲い込んで殲滅を狙うのだろう。


 距離がないので、既にドラゴン、スケルトントルーパー隊は敵陣の側面に喰らいついている。


 敵は左右の攻撃を無視し、俺の居る本陣のみ狙う戦術のようで、前面のデュラハン、スケルトントルーパーで突撃する構えだ。


 デルタもそんな事、承知の上だろう。ちょっとだけ、手を貸してやろうかな。


 敵先鋒はギリギリまで引き付け突撃をする為、勇み立ち気負い過ぎている状態だ。そんな状態の奴らが不意に攻撃を喰らったらどうなる?


 敵陣の真ん前にレイバーストを落としてやる。倒す為でなく恐怖心を植え付ける為の威嚇だ。


 魔法が発動して、上空から光が地面に突き刺さり爆発する。あれだけ勇んでいた奴らが固まっている。不死身の体を持ち死と言う概念から解き放たれたとはいえ、不死身をも、消滅させる攻撃が放たれたのである。心底驚いているだろう。


 まさか、魔法(光)を使う者が居るとは、想像もつかないだろう。


 動きの止まった敵の先鋒目掛けて、デルタの斬撃が飛ぶ。



「たーまやーっ!」



 斬撃が敵先鋒に届くと骨が空に舞う。そして、慄き戸惑う。


 デルタはこれを狙っていたんだな。勇み立っていた先鋒が混乱に変わった。もう突撃どころではなくなっている。こちらの盾持ちスケルトンが敵先鋒に張り付いた。



「呆気ない幕切れだな」


「ま、まだ終わってなどいない!」


「オール。敵陣の後方に隕石を落とせ」


「既に勝敗は決まっておりますのう。そこまでする必要がありますかのう?」


「そうか。オールがやらないなら、俺がレイバーストを打ち込んでやろう。さぞかし阿鼻叫喚な光景になるだろうな」


「あ、あるじ殿の仰せのままに致しますのう!」



 オールの魔法が敵陣後方を襲う。ドラゴン、スケルトントルーパー隊は敵の退路を断っている為、逃げ場など無い。戦況は既に掃討戦に移っている。


 敵陣奥から黒い鎧の騎士が歩いて来る。


 悠然とデルタがその黒騎士の前に立ちはだかる。



「ランツェ様!」



 ランツェと言う名の通り、槍が得意のようだ。


 デルタに槍で襲い掛かるが、デルタの防御を全く崩せない。ランツェが弱い訳ではない。プレイヤー最強のカイエンさえ軽くあしらったデルタに、剣を構えさせているのだから強いのだろう。が、しかしデルタは更にその上をいく。


 デルタが剣の平部分で黒騎士の頭を強打し、吹っ飛ばす。


 デルタは黒騎士の所まで歩いていき、無造作に鎧の襟を掴みお立ち台まで引きずってきた。


 アハハ……本当に引きずってきたな。デルタ。



「……これで良いか?」


「嗚呼。ご苦労だった」


「グハッ……どこだ、ここは……」



 ランツェと言うダークナイトが、目を覚ましたようだ。



「無様だな。自称魔王」


「そうか……負けたのだな」


「ランツェ。久しいの、おぬし程の者が何故、このような暴挙にでたのかのう?」


「オールか……。お前こそ何故、その若造に従っている。己が野望も忘れる程、耄碌したか?」



 ん? また、またなのか? 話が怪しくなってきた。まさかと思うが根本から食い違ってるなんて事はないよな。……ないと言って、オールくん。


 敗軍の将とはいえ、いつまでも這いつくばせている訳にもいかないだろう。


 お立ち台から降り、テーブルと椅子を出してランツェとオール、デルタを座らせる。


 グラスを配りワインを注ぐ。熱気も冷め肌寒くなってきた。酒でも飲まないとやってられない。ほんとうはホットワインが良いんだけどな。



「飲め」


「ランツェ様! 毒かもしれません!」


「アンデットに毒って効くのか? オール」


「効きませぬのう。聖水を混ぜれば苦しむかもしれませぬがのう」


「……そ、それだ! それに違いない。卑劣なヒューマンめ!」


「黙れ、脳筋。オール飲め」


「それでは、頂戴いたしますのう」


「オール様!」


「いつもながら、あるじ殿の出される酒は美味いですのう」



 ランツェも表情を変えず、ワインを飲んだ。



「はっきりさせておくが、お前らのやった事は我々に対する挑発であり、敵対行為である。滅ぼされても文句は言えない。だが、情状酌量の余地はありそうだ。そこで幾つかの質問をする。正直に答えろ」


「何が聞きたい……」


「オールの野望? 私怨の事を知っているようだが、それが果された事は知っているのか?」


「どういう事だ? 我々アンデットを率いる王が召喚されたとでも言うのか?」



 オールを睨む。オールは目を泳がせ始めた。おい、ポンコツ骸骨。



「説明してくれるよな。オールくん」


「我も色々忙しくてのう。ちと、言うのを忘れておった……かな? てへぺろ♪」


「デルタ。こいつの首をはねろ」


「……承知」


「あ、あるじ殿、ま、待たれよ。我も歳じゃ、多少の物忘れぐらいははあるのう!」


「一体どれ程、大事な事を忘れれば気が済むんだ。いっそ自伝でも書いたら良いんじゃないか? 多少は思い出すだろう? えぇっ!」


「おぉー。そ、そうですな、じ、自伝は良いですな。我が人生を文章で綴り本にする。素晴らしい考えですな」


「そうか気に入ってくれたか、さっそく明日から執筆しろ。監視にメイドを付けてやる」


「……」



 デルタにもう良いと目で合図を送る。振りかざした状態だった大剣を鞘に戻した。やれ、と言えば本当にやったな。デルタは。



「アンデットの王ではないが、オールは禁忌の儀式で魔王を召喚した。第十三魔王だ」


「ほ、本当なのかオール。どのようなお方なのだ」


「皆を平等に扱ってくださる方じゃ。能力は間違いなく魔王級。じゃが、魔王らしからぬ愛らしさでお優しいお方じゃ。代わりに魔王様が最も信頼なさっておられる、こちらのルーク殿が、見てわかる通り全てにおいて魔王じゃのう」



 さりげなく、ディスってくれるじゃないか。なんだその、全てにおいて魔王ってのは、こんな心優しい者などそうはいないと思うが?



「私はそのような方に剣を向けたのか……」


「お前達の目的はなんだ? 何故、魔王を名乗った?」


「我々は、魔王やゾディアックに虐げられた者達を救うのが目的。それには魔王を名乗るのが手っ取り早い方法だった……」



 正直、桂馬の高上がりだったんじゃないの。言ってる事は共感できるんだけどな……。



「言ってる事と、やってる事が矛盾してないか?」


「どう言う事だ?」


「ケットシー族が我々に助けを求めて来ている。お前達に狩場を荒らされた挙句、軍門に下れと言われてるらしくてな」


「馬鹿な! 私はゾディアックに騙されているケットシー族を、我が軍に向かい入れろと……。シルト! どう言う事だ!」



 またしても元凶はオール一族なのだろうか……。


 頭が痛くなってきたな。




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