112 信じられる事と信じる事、そして想い

 さくらが言うには、あのドラゴンは悔しさ、悲しさ、恨みを瘴気によって増幅され自我を保てなくなっている状態らしい。なので、さくらが魔王の力を使ってあのドラゴンは説得すると言っているが、それにはドラゴンの顔に近づかないといけないらしい。


 さくらには悪いが無理……。


 デルタが上空のドラゴンに剣を振るう。その振るった剣から斬撃の刃のようなものが放たれれドラゴンに襲いかかる。ドラゴンの胸に大きな斬痕ができたがみるみるうちにふさがっていく。


 ファル師匠はうさ子をドラゴンに向け投げつける。うさ子は両腕を伸ばした状態で炎を纏い、デルタがドラゴンに作った斬痕めがけて一直線に突っ込み、ドラゴンを突き破る。なんちゅう攻撃ですか、あの師弟コンビは……。


 ドラゴンの咆哮が響き渡るがダメージを与えているかが定かではない。与えていると信じたい。



「私がさくらちゃんをあそこまで運びます!」



 レイアが俺に声を掛けてきた。


 運ぶって言ったってどうやって運ぶつもりだ?


 レイアに声を掛けようとした時、突如レイアが光輝く。光が収まるとそこに天使が居た。レイアそっくり。って言うかレイアだな。背中に純白の羽があるが生えているのではなく、背中に浮いてついているように見える。オプション装備みたいだな。そう言えば、種族固有スキルに飛行ってのがあったな。


 さくらが自分からレイアに飛び移った。



「ミャミャッ!」


「大丈夫! 必ず連れて行きます!」


「レイア! 絶対に無理はするなよ!」


「はい。必ずルークの元に戻ります」


「さくら頼む!」


「ミャー!」



 さながら本物の天使のように、翼をはためかせふわりと浮び空へと舞い上がる。


 さくらとレイアの意気込みに応える為にも、少しでもドラゴンのヘイトを稼がないと駄目だな。レイバーストをもう一度喰らわせ、ドラゴンの注意をこちらに向かせる。ドラゴンの睨んだ目と自分の目が合う。フールマスクを被っているがワザとニヤリと笑ってみせる、奴は気付いているはずだ。更に注意を引けるだろう。


 咆哮と共にブレスが襲って来るが、健脚、軽業を総動員して躱す。MPポーションをがぶ飲みして、ライトジャベリンを放つ。ドラゴンはそのライトジャベリンを食い千切る。


 マジですか……。弱点属性だよな。そんな防御方法ありなのか?


 ドラゴンの注意が自分に向いてる事を良い事に、ファル師匠達は何かをしている。デルタが大剣を肩に担ぎ大剣の上にファル師匠が立っている。まさかやるつもりですか? うさ子の時は上手くいったが、ファル師匠の体格では無理があるのでは? デルタならできるのか?


 向こうの動きを悟られないように、攻撃を加えては逃げるを繰り返す。オールも援護射撃をしてくれているが、オールは固定砲台なのでヘイトを稼ぎ過ぎないようにしている為、攻撃力に欠ける。ドラゴントルーパーにでも乗せるか?


 そろそろMPポーションの飲み過ぎで少々気持ちが悪い。


 それでも頑張ってドラゴンのヘイトを稼ぐ。おかげでファル師匠達の準備ができたようだ。


 デルタが両腕で大剣を肩から上げ、ドラゴンに向け振りぬく。斬撃と共にファル師匠も飛んでゆくがドラゴンは気付いていないようだ。


 斬撃の刃がドラゴンンを襲いのけ反った所で、ファル師匠が背中に降り立ち、この戦闘に入ってから最高の一撃を背中に打ち込んだ。



「Gugyawoooo」



 ドラゴンの苦痛の咆哮が響き、地面に激突。大きな揺れと地面にぶつかった衝撃で土や石が舞う。落ちた事でアンデット達が周りを取り囲み攻撃し、ドラゴントルーパーが突撃を開始する。


 デルタもドラゴンの顔めがけて大剣を振り降ろす。うさ子もデルタに追従するように攻撃を加える。良い感じで攻撃を与えていると思ったが、ファル師匠の声が闇夜に響いた。



「皆! 離れるんじゃ!」



 ファル師匠は声を上げると共にドラゴンの背中から飛び降り、ドラゴンから距離を取った。


 ドラゴンが一瞬膨らんだように見え、体から黒い霧が勢い良く吹き出す。周りにいたアンデット達が吹き飛ばされ、体が溶けてゆく……。えげつない攻撃だ。何でもありかよ……。


 何事もなかったように、ドラゴンは上空に舞い上がった。



「流石にきついのう。何か策はあるのか?」


「今、さくらとレイアがドラゴンに気付かれないように上空にいます」


「ふむ。それで」


「さくらがあのドラゴンを説得すると言ってます」


「それに賭けると申すか?」


「はい。さくらがやると言ったんです。信じます」


ハオ。今少し頑張るかのう」


「さくらは必ずやってくれます!」



 MPもだいぶ回復してきた。今度はさくら達の為にヘイトを稼ごう。さくらを信じている。当たり前だ俺が信じてやらないで誰が信じる。例え誰も信じなくとも、俺は無条件でさくらを信じれる。それがさくらと俺の繋がり。


 可愛い愛猫の為、もうひと頑張りしますかね。


 魔法を放ち、大袈裟に見えるように動き回る。フールマスクを被っているからではないが、傍から見れば道化師ピエロそのものだろう。他の人なら格好悪いたらありゃしないと思うかもしれない。セイさんやカイエンさんならもっとクレバーに格好良く動く事だろう。でも俺はこれが精一杯だ、恥ずかしいなんて思わない、次に繋がるならなんだってしてやるさ。



 ドラゴンの背後にレイアが見えた。さくらを頭まで運ぶ隙を伺っているようだ。隙を作る為、なけなしのMPでレイバーストを放つ。そして、残り最後のMPポーションを飲む。


 レイバーストがドラゴンを襲うが、その目はしっかりと俺をとらえている。何と言う執念だろう。また俺目掛けブレスを吐こうとしている。意識は完全にこちらを向いている。


 この隙をレイアが見逃す訳も無く、一気にドラゴンの頭に接近しさくらを乗せた。


 上手くいった事に油断が生じたのか、ドラゴンが体を捻り尾で攻撃したのをレイアは避けれなかった。直撃だ……レイアが吹き飛ばされていく。どうしたら良いかわからない。誰もレイアに追いつける場所にいない。地面に叩きつけられれば死は確実。


 俺は見てる事しかできないのか? レイアを失ってしまうんだぞ! 


 後から考えてもその時の俺はレイアを助けたいと思う気持ちと、レイアを失う恐怖と言う二つの思いしかなかった。


 一瞬……気付いた時に吹き飛ばされたレイアを抱きしめていた。


 一緒に地面に向け飛ばされているが、考える暇もなく抱きしめているレイアにヒールを掛ける。正直、地面まであとどれくらいあるのかわからないが何度もヒールをかける。


 ベキッ! グシャ! あばらが折れ内蔵が潰れ意識がなくなった……。


 気が付くと降魔神殿の転移ゲート前だ。ニーニャに猫共、メイド隊が自分を見ている。



「にーに!」


「にゃ、にゃんですかにゃ!」


「急に現れたな……」


「不思議ね……」


「……」



 って、まだ終わっていない。急いで外に出る。



 そこで見たものは……。



「お嬢様!」



 うさ子を突き飛ばしドラゴンのブレスの直撃を受けるアルファの姿だった……。





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