まおある ある日のひとコマ その八

 さくら編



「今日はお知らせがあるにゃの」


「クェー」


「さくら探検隊に新しい隊員二人が加入するにゃの」


「クェー」


「一人目はカーちゃんにゃの」


「よろしくデシ」


「クェー」


 カーちゃんはポヤポヤ、ポヨポヨ? 違ったにゃのまりゅりゅのテイムされた子にゃの。可愛い弟分にゃの。何故かカーちゃんのミミを見てるとハムハムしたくにゃるの。じゅるり。でも優しいあるじにあんまりやらないであげてねって言われてるから我慢するにゃの。


「もう一人は妹のニーニャなの」


「しゃくりゃ?」


 ニーニャはまだちゃんとお喋りできないにゃの。早くさくらって呼んで欲しいにゃの。でも可愛いから問題ないにゃの。


「新生さくら探検隊始動にゃの。にゃー」


「クェー」


「おぉーデシ」


「おぉ?」


「そこで最初にみんなの実力を見るにゃの」


「クェー」


「実力デシか……」


「じちゅりょく?」


「さあ、ついて来るにゃの」


 オメガの居るクリスタルのある部屋に来たにゃの。まだ羊の被り物を被ってるにゃの……。


「これはお嬢様。本日はどのようなご用件でございますか?」


「さくら探検隊の隊員同士でバトルロワイヤルをするにゃの」


「そうでございますか。ですがお嬢様相手では他の皆様には酷かと」


 そうだったにゃの。さくらは魔王だったにゃの。たまに忘れるにゃの。


「どうでしょうか、皆様にお嬢様が合わせて差し上げると言うのは」


「それにゃの。オメガ、任せるにゃの」


「それでは不肖このオメガが審判を務めさせて頂きます」


 目の前の景色が一瞬で変わって広い空間に居たにゃの。


「それでは第一回さくら探検隊杯バトルロワイヤルを開催致します。ルール、制限時間無用のデスマッチです。それではカーン!」


 ……オメガ。カーンって口で言わないで何かを叩いて欲しかったにゃの。


 周りを確認するにゃの。ニーニャと本命のカーちゃんが向こうでり合うみたいにゃの。ならペン太が相手にゃのね。


 ペン太は……移動砲台だったにゃの。いつの間に魔法(氷)にゃんて覚えてたにゃの。氷の塊がビュンビュン飛んで来るにゃの。何とか躱してるけどいつもより体が重いにゃの。太ったかしら? にゃの。


 えぇいアイドルウインク! しかし何も起こらなかった……にゃの。


「さくらお嬢様。お嬢様のユニークスキルは封印してございます。ステータスも皆様に合わせている事をお忘れなく」


 にゃんですとー! それ始まる前に言ってにゃの。仕方ないにゃの、猫魔法幻視! 闇魔法幻惑!


 上手く掛かったにゃの。ペン太は完全にさくらを見失ったにゃの。これで勝負はついたにゃの。でも後ろ足がプルプルで力が入らにゃいにゃの。ペン太に止めを刺して少しでも回復しなきゃにゃの。




「ニーニャしゃんは未知数デシ。なんで何も見えないデシか?」


「ん?」


 仕方ないデシ。正攻法で行くデシ。自分の目に捉えられないものはないデシ。カーちゃんパーンチ! クッ、ニーニャしゃんに手で払われたデシ。やっぱり駄目デシ。体格差があり過ぎるデシ。距離を取ってウインドバレット! か、躱したデシかぁー。


 えっ! いつの間にそこに移動したデシか……僕の目で捉えられないなんて……防御も間に合わない……ニーニャしゃんの拳が迫って来るデシ……。




 やっとペン太を沈めたにゃの。混乱したペン太は手あたり次第に氷の塊を放ってきたのにゃの。ふうー、疲れたにゃの。向こうはどうなったにゃの?


 ニーニャが手を叩いて喜んでいるにゃの……。本命のカーちゃんは敗れたにゃの。やるじゃにゃい流石さくらの妹にゃの。


 ぺったんこだけど姉であるさくらの胸を貸してあげるにゃの。かかってらっしゃいにゃの。


 ニーニャはテトテトこちらに走って来るにゃの。余りにも不用心にゃの。ダークバレット! 決まったにゃの。


 にゃー! にゃんでそこに居るにゃのー。ニーニャのグーパンが迫って来るにゃの……グッヘェ。気付けばクリスタルの部屋にゃの。


「第一回さくら探検隊杯を制したのはニーニャお嬢様です!」


 ニーニャはオメガに抱えられ片手を天に掲げているにゃの。妹に負けるなんて悔しいにゃのだけど、今はそこにいる事を認めてあげるにゃの。ニーニャはウインにゃあー? なのだからにゃの……。


 次回、あるのかな? 放送未定にゃの。





 ファルング編



 儂が先代様から拳聖を継いで、はや八十年が経つ。


 ここ三代はラッシュラビット族が拳聖を継いでおる。他意はないぞ。


 ラッシュラビット族は自分で言うのも何じゃが、不思議な種族で只のモンスターとして生涯を終える者も居れば。進化を繰り返し、儂のように人族の姿をとれる者もそれなりにおる。まあ、余り知られておらんがな。


 しかしそうなった者達は大抵英雄と呼ばれる偉業を残すのも事実じゃ。人型をとればハーフラビットール(H兎獣人)と見分けがつかんからな。中には先代様のように人型にならずラッシュラビットのまま過ごされる方もおる。


 儂はラッシュラビットの姿に戻ると毛の色が金色になり、悪目立ちするので極力人型でおるのじゃ。


 そろそろ弟子を取り拳聖を引継ぎたいのじゃが、なにぶんこの国を陰で支配しとるゾディアックの一族に目を付けら、逃げ回る日々じゃて弟子を取る暇がない。


 ゾディアックの一族は儂の持つ名声と力そして拳聖の称号が欲しのじゃ。難儀よのう。


 我が師である先代様の言いつけを守り、儂は魔王の痕跡を探しておる。先代様はラッシュラビット族の族長も兼任されておった頃から、魔王の動向を探っておられた。最初にお気付きになられたのは先先代様だそうじゃ。


 勇者によって倒された魔王の後、新たに複数の魔王が現れ先先代様から儂までその動向を探り続けておる。


 儂らラッシュラビット族はモンスターの中でも妖精族に近い為、過去の戦いにおいても人族に力を貸してきておる経緯があるからじゃ。


 じゃが、今回の魔王達はしたたかな者が多くなかなか尻尾を出さぬ。最近南の海でモンスター同士の争いが合ったと知り調べに行く途中じゃ。


 一刻を争う訳でもないので草っぱらで昼寝をしとった時じゃ。最初から気付いていた事は気付いておったが、まさか何の予告もなく攻撃してくるとは思わなんだ。


「なんじゃー! 年寄りに向かってなんて事をするんじゃ! これだから最近の若者はなっとらん!」


 攻撃してきたのは、ヒューマンの若造と儂と同族の小娘じゃった。


 小娘は獣光王炎雪拳を会得しとるようじゃが、まるでなっとらん。逆にヒューマンの若造の方が切れのある攻撃を仕掛けてくるうえ、おそらく内功も会得しているようじゃ。なかなか見所のある若造じゃて、惜しむはヒューマンに生まれた事じゃな。


 それに比べこの小娘は、若造に時間稼ぎさせて何をするかと思えば単なる力技。悪い訳ではないが若造と比べると……世の中とは酷じゃのう。


 通じぬとわかるとまた何かし始めたようじゃ。若造は既に力量を把握しとるようで後ろに下がっておる。という事はそれなりの技がくると言う事じゃな。ハオ。見せてみるが良い、拳聖である儂がどれ程のものか見てやろう。


 むっ。まさかこれは、無常転生なのか! 儂ですらまだ会得できずににる獣光王炎雪拳の究極奥義。こんな小娘が会得していると言うのか! 


 まさかあのシルエットは先代様と奥方様か……よもやこんな所でお会いできるとは。


「これは先代様に奥方様ではございませぬか。お懐かしゅうございます」


 聞けばあの小娘は先代様の玄孫にあたるそうじゃ。成程、先代様の血を引いておるのであれば納得がいく。しかし良い師に恵まれず、何とかしてやりたいと思っておられたようじゃ。こうして会うたのも縁、弟子にしてやって欲しいと頼まれた。


 あの若造はと聞くとヒューマンではあるが良き若者で小娘の親友と言う事じゃ。奥方様からついでに弟子に取りなさいと言われてしもうた。昔から奥方様には逆らえぬ……。


「では、あの小娘とあのヒューマンの若造を鍛えれば宜しいのですな」


 おふたりは頷いておられる。仕方あるまい拳聖の名は小娘にくれてやろう。


 この時は、魔王との繋がりとも知らずに……。先代様は何故、あの時言って下さらなかったのであろうか。お怨みしますぞ。





 オール編




 オールと愉快な弟子達はドラゴンオーブを手に入れてからは文献や書物を漁る毎日だった。何百年も一向に進んでこなかった研究を、一気に進める事ができるのだからやる気も起きる。


 元々知識欲の高い種族であり、元は人間なのだから仕方がない。


「この白竜などどうかな」


「駄目だ駄目だ。只の成竜ではないか」


「そんな物ならいくらでもある」


「「やんや、やんや」」


 彼らはエルダードラゴン、実際に居たかは不明だがエンシェントドラゴンの亡骸を探しているのだ。


「ふむ。中々に難しのう」


「はい。エンシェントドラゴンなどは伝承では残っていますが、実際に居たかとなると眉唾ものです」


「伝承通りであったとしても亡骸は天界じゃのう」


「聖竜王が天界への扉を開けてくれるとは思えませぬ」


「何とかくぐり抜けられぬものか」


「くぐり抜けるだけなら何とかなるがのう。その先におる神兵に成す術がない。我が師ジル様のように暗黒属性でも持っておらねば、消え去るのみじゃのう」


「となれば、エルダードラゴンに絞りましょうか?」


「あれはどうなっておるかのう」


「おおよその場所の確定はしておりますが、余りにも瘴気が濃く我らが自ら行かねばならぬでしょうな」


 彼らが話しているエルダードラゴンは12の魔王の前の魔王が魔王になりえる為に殺したドラゴンの事だ。


 争い事を好まぬ竜で真っ白な竜であったと言う。名を純白竜ぺルレと言った。


 その亡骸がある場所は、魔人の襲撃に合い無念の死を迎え怨念を抱え、更には魔人が開いた扉から溢れた瘴気により美しかった山は荒れ果て地に瘴気が満ちる不毛の土地となっている。


「お前達だけで大丈夫かのう」


「お任せ下さい。師匠」


「良いな侮るでないぞ。死んでいようが生きていようが我らを凌駕する竜じゃからのう」


「十分に注意し、必ずや持ち帰ってみせますぞ」


「はやる気持ちはわかるが、良いか。最終段階の工程はこの場所で魔王様立会いの元におこなうからのう。忘れるでないぞ」


「承知しております。それでは師匠、我らはそろそろ目的の地に向かいたいと思います」


「うむ。気を付けてのう」


 行きで五日、帰りは転移魔法で帰る予定になっている。


 ドラゴントルーパーで快調に飛ばして目的地の手前まで弟子達は着いた。この先は余りにも瘴気が濃くドラゴントルーパーでは奥に進む事ができない。


 瘴気に耐性のある弟子達は歩いて山頂へと向かった。全く生のない世界。あるのは死のみの世界。異質な世界。


 弟子達は気にせず山頂近くにあった洞窟に入って行く。最奥が吹き抜けの巨大な空間になっていた。


 そしてそれはそこにあった。


 既に皮や肉などは無い巨大なドラゴンの骨。既に死んでいるはずなのに禍々しい程の重圧を発している。


「流石だな」


「嗚呼、この怨念はらすべきだ」


「我らの研究材料としては最高のものだ」


「早く試したいものだ」


「確かに。あのドラゴンオーブさえあればこのようなドラゴンでも恐れるに足らず」


「早く回収してしまおう」


 この時、弟子達はおかしい事に何も気付いていない。自分達が何人で来たかを……。もっと注意していれば他のおかしな事にも気付いていたかもしれない。


 弟子達に纏わりつく黒い霧に……。


 こうしてこれから起こる悲劇のカウントダウンが始まった。



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