まおある ある日のひとコマ その七


 さくら編



 さくら探検隊は秘密結社ピーマンの肉詰めのボス、羊仮面を倒す事に成功した。そして、ボス討伐報酬で美味しいお菓子にミルクをご馳走になったにだった。


「お嬢様。またのお越しを、このオメガ心よりお待ち申しております」


「またにゃの。オメガ」


「クェー」


「さくら探検隊に残されたミッションは後一つにゃの」


「クェ~?」


「ペン太。ほんとにわからにゃいにゃの?」


「クェー」


「ボスを倒したら、囚われのお姫様の救出にゃの! いくのにゃの! おぉーにゃの!」


「クェー!」


 さくら探検隊は更に奥に進んでいく。


 一番奥にその部屋はあった。あったのだが、この部屋を開ける事はさくら達にできないのだった。


「最後の最後ににゃんて狡猾にゃ罠をしかけてくるにゃんって……」


 この扉の取っ手は今までの取っ手のように下方向に回すタイプではなく、握って回すタイプなのであった。さくら達には無理である。


 さくらとペン太は頭にきてさくらは肉球パンチで、ペン太は足でテシテシと扉に八つ当たりを始めた。


「はーい。ちょっと待ってくださいね」


 声が聞こえ、扉が開く。


 そこに現れたの銀髪の天使様だった。囚われていたのはお姫様ではなく天使様だったのだ。


 囚われていたのに内側から扉が開いた事は、さくら探検隊は気にしない。気にしないのだ。


「さくらちゃんにペン太? どうしたの?」


「ミャー(助けに来たにゃの)」


「遊びに来たのね。どうぞいらしゃいませ」


「ミャ~(違うの助けに来たにゃの)」


「クェー」


 レイアはさくらを抱き上げ、ペン太が部屋に入ると扉を閉める。ガチャリと……。


「ミャッ!(しまったにゃの。閉じ込められたにゃの)」


 ペン太は気にした様子もなく、部屋の絨毯にあったクッションにダイブしている。


 さくらは必死に抵抗しようとするが、レイアの胸に抱かれると余りの気持ち良さに、思考がどこかに飛んで行ってしまう。


「さくらちゃん、寂しかったのかな?」


「ミャー(さくら探検隊は冒険してたにゃの)」


「そう。ルークが早く戻って来ると良いのにね」


 一向に話がかみ合わないのは、おそらくどの世界も一緒だろう。


 さくらはなでなでチュッチュされご機嫌である。


「そろそろ、みんな帰って来る頃ね」


 レイアはさくらとペン太を連れ、さくらの部屋に向かった。


 そこでさくらは見たのである。


「ボスは倒したにゃの! にゃぜオーガがいるにゃなの。さてはラスボスにゃの!」


「お嬢様、いったい今まで、ど、こ、に、行ってらしたのでしょうか?」


 そこには怒りのオーラを纏ったオーガ、もといアルファが居た。


 流石の天使様もこのオーラには耐えきれず、そっとテーブルの上にさくらを置いたのである。


「うぇーん。優しいあるじ様、早く帰って来てにゃのー!」


 この後、さくら探検隊がオーガを倒したかは、誰も知らない……。






 シルビア編



 シルビアは相手を嫌っていた。そう、最初から。


 娘のレイアから紹介された時も、正直がっかりしていたのだ。仮にも娘が紹介したいと言ってきた男だ、まさかヒューマンだとは思ってもいなかった。


 シルビアはゾディアックの乙女座ヴァルゴの守護者だ。ゆくゆくはレイアにその座を譲るつもりだった。しかしレイアは小さい頃から、ゾディアックの一族と言う事を嫌っていた。昔の記憶が蘇ったとは危惧してなかったが、あれ程の逸材を逃すのは忍びないとは思っていたのだ。


 レイアが連れてきた男は見るからに普通。


「ねぇ、あなた彼をどう見る?」


「どうも何も、レイアがあんなのを選ぶとは信じられん」


「そうよね。それが普通よね。少し調べた方が良いかも」


 こうしてシルビア達はルークに関して調べ始めた。


 街の人々が話してくれる事は全てテイムモンスターの事だけ。彼の人となりや職業を知っている人は皆無。


「これだけ調べて何も出てこないって、何者なのよ!」


「意図的にしてるなら、うちの暗部以上だな」


 情報が集まらぬまま、その日は昔のパーティー仲間のガレディアと夕食を取る約束の場所に来ている。


「ねぇ、ガレディア。ルークくんについて教えてくれないかしら」


「なんだ、娘の彼氏が気になるのか?」


「当然でしょう」


「口が悪い、態度が悪い、が義には厚そう。それに強い」


「誉めてるのか、貶してるのか良くわからないけど……強いの彼?」


「あぁ、強い。一度やり合ったが、冷や汗ものだった。不思議な術は使うは、何故か手を抜くは。あの時マクモンが止めなかったら負けてた気がする。最後の方は背中に悪寒が走りまくってたな」


「そう。あなたにそこまで言わせるの……」


「知ってると思うが、領主の馬鹿息子からレイアを助けたのも奴だ。コリンのお気に入りらしくてな、あのふたりをくっつけたのもコリンだ」


「……あのバァバァ余計な事を」


「何か言ったか?」


「そう言えば、その馬鹿息子はどうなったのかしら」


「逃げられた」


「彼は何故、レイアを助けた時一緒に連れてこなかったのかしら」


「あの時のレイアは瀕死状態だった。あいつはレイアを助ける事を優先させた。おかしな事か?」


「……いえ、おかしくないけど。後々の事を考えれば捕まえるべきだったわ」


「あの状態のレイアを見て同じ事が言えるか? レイアの体を見たか? お前は」


「……いいえ」


「未だに傷だらけだ。おそらく一生残るだろう」


「……」


 領主の馬鹿息子は色々役に立ちそうなので確保しろと、指示されてきたが難しいだろう。に逃げたのならこの辺りにはもう居ないとシルビアは踏んでいる。


 更に、ルグージュ防衛戦が始まり、シルビアはプレイヤーの凄さをマジマジと見せつけられた。今回の指令の一つにプレイヤーの評価も入っていたからだ。



 その後、ルグージュ防衛戦の夜、ルークから面白いものが見れると言われて、防壁上に上がれば目を疑うような光景がそこに現れる。それはおとぎ話に出てくるような光景だった。如何にこの国の宮廷魔術師を集めても成しえない程の大魔法が目の前で炸裂していた。


「彼は何故これが起こる事を知っていたのかしら?」


「私にわかる訳ないだろう」


「ザヴィー少しは考えなさいよ。そこについてるものは飾りなのかしら」


「……チッ」


「何故、ここにお前達がいる?」


「ルークくんに誘われたのよ」


「……そうか」


「そうかで済ませるのね。ガレディアは」


「あいつなら何をしてもおかしくない。現にプレイヤーの代表達をこの街に連れて来たのはあいつだ」


「彼は何者?」


「さあな。知らんし、知る必要もない。この街の為に動いているのだからな」


「……」


 防衛終盤にもあり得ない光景をシルビアは見る事になる。


 サイクロプス二体にルークとテイムモンスター一体で立ち向かったのである。すぐに助っ人が現れたが、それでもサイクロプスに挑むなど自殺行為である。


 しかし彼等は終始サイクロプスを翻弄し続けた。何故か最後は他のプレイヤー達に譲ったようだが、明らかに倒せていたとシルビアは見ている。


「私達で倒せるかしら?」


「悔しいが無理だ……」


「他の十三宮ならどうかしら?」


「パーティーを組めば倒せる。が、単独では無理だな」


「あのウサギ、ラッシュラビットよね。おかしくないかしら?」


「おかしい? おかしな事だらけだろ! なんなんだこの連中は異常だろう!」


「落ち着きなさい、ザヴィー。一度王都に戻るわよ。あの老害共に報告を入れましょう。魔巣窟の件もあるわ。今回の件で王国は大きく株をおとした事もね」


 彼女達はすぐに王都に戻りゾディアック一族の長老達に報告した。


「……以上が報告となります」


「だからな、僕が行けば良かったんだよ。おばば」


「殿下が出るにはまだ時期尚早じゃて、もう少しお待ちなされ。それ相応の舞台を用意致しますので」


「そうかい。なら引きさがろう。しかし、プレイヤーというのは危険だね」


「確かに危険な存在じゃて、しかし駒は使いよう。こちらの役に立つように誘導してやればよい。所詮サル共の集まり、どうとでもなるじゃろう。シルビアよ、そなたは今まで通り情報を集めよ。魔巣窟は別の者達を派遣する。あれは誰にも渡さん」


「畏まりました」


 ルグージュに戻ったある日、レイアとルークがシルビアの元を訪れ、爆弾発言を幾つも落として行ったうえ、ゾディアックに価値がないと言って去って行った。


 シルビアは混乱していた。どこからどこまでが事実でどれがハッタリなのか。


「どう思う?」


「わからない」


「ザヴィーあなたはいつもそう。あなたは夫でもあるけど従者でもあるのよ。もっと頭を使いなさい。人を殺す時だけ嬉々として、使えないわ。おそらくレイアも薄々私達が本当の親じゃない事を感づいているわよ」


「馬鹿な! 記憶は封印されたはずだ!」


「あの子の母親である姉は、とても感受性の高い人だった。それを継いでたとしてもおかしくなわ。だからこそあの子が欲しい。今回は姉の時のような失敗は許されない」


「わかっている。あのルークという奴はおれがる」


「あなたにできるかしら?」


「なに。正攻法だけが戦いじゃない」


「そう。ならその時は任せるわ。今回の件は私達では悔しいけど判断できないわ。またあの老害共に会うのは嫌だけど、王都に戻るわ」



 こうして、また一つの勢力が動きだすのであった……。





 オール編



 カラン、コロコロ……。


「ふざけんなよ! 運営様よ!」


 オールの足元に拳大の球体が転がって来た。


あるじ殿が荒れるなど珍しいのう」


 そう言いながら、足元の球体を拾い上げオールは硬直する。


 拾った丸い球体、それは長年月、弟子達と研究してきた課題に必要不可欠な物だったからだ。過去にも何度か手に入れた事はあったが、これ程の高品質の物は今までお目に掛った事は無い。


 オールとしては、何としてでも手に入れたいアイテムである。


 何をそんなに荒れているか知らないが、駄目元でお願いしてみようとオールは思った。


あるじ殿は何をそんなのお怒りなのかのう?」


「オールか。いや何、今回貰った報酬が間違いなく高価な物なのはわかるんだが、俺に使えない事がわかってな。これは悪意ある嫌がらせじゃないのかと思ってな……」


「このドラゴンオーブがですかのう?」


「使える人が使えばドラゴンの力の一端を得られるらしい」


「成程、そんな効果もあったのですかのう。知りませなんだ」


「オールはドラゴンオーブの事知ってるのか?」


「これでも魔道具を作り続け、はや五百年。研鑽の為に色々作っておりますからのう」


「欲しいならやるぞ。一個だけ、だけどな」


「ヘッ……最近耳の遠くなったかのう。あるじ殿は何と言われたのかのう?」


「だから、欲しいならあげるよって言った」


「ま、ま、ま、マジですかのう!?」


「いらないなら別に良いぞ」


 オールは土下座した。それもジャンピング土下座である。これ程まで機敏に動いたのは何百年振りである。


「何卒、何卒、頂きたく存じ上げますですのう」


「変な事に使うなよ」


「魔王様には絶対の忠誠を持って身を粉にし、お仕えする所存でございますのう」


 オールはさっそく弟子の元に向かった。


「見るが良い」


「これは……」


「師匠どこでこれを」


「信じられぬ」


「以前見た物がゴミに見えるな」


「これで研究が進む」


あるじ殿より頂いた」


「ルーク殿ですか?」


「価値をご存じないのでは?」


「いや、知ってなおくだされたのう」


「信じられん」


「何を考えておられるやら……」


「決まっておろう。あるじ殿は何も考えておられんよ。あるじ殿は魔王様の事以外は余り興味など無い。我らの事など使う価値がなければ、ゴミを燃やすかの如く消されると思うのう。愛らしい魔王様より恐ろしいお方じゃのう」


「「「「「……真の魔王……」」」」」


「と言っても過言ではないのう」


「確かにルーク殿が来てから、すべてがガラリと変った」


「私は今の生活は気に入っているぞ」


「お前、何抜け駆けしてるんだ」


「しかし、魔王様は愛らしく誰とでも気さくにお話してくださる」


「そうだな、あのお姿を見ると自分も魔王様の為にやってやると思う」


 ルークは完全に悪者扱いで、さくらは何もしなくとも株が上がっていく。哀れルーク。


「しかしこれだけのオーブともなると、素体も厳選せねばならぬのう」


 オール達がやろうとしている事は、アンデットドラゴンの創造である。ただのアンデットドラゴンを造るのはそれほど難しくはない。ドラゴンの亡骸か骨があれば良いのである。


 問題はこちらの言う事を聞かせられるかと言う事。下位のドラゴンであればアンデットにした後、たいてい力を持って服従させれば思いのまま使役できる。ただ、服従させられなかった場合、使役できず只本能のまま活動するのである。


 それを強制的に制御できるのが、ドラゴンオーブなのである。


 過去何度かドラゴンオーブを手に入れアンデットドラゴンを造ったが、事如く失敗している。酷い時は死者の都が半壊した事まであったほどだ。


「やるなら最高の素体を手に入れるのじゃ」


「「「「「おぉー」」」」」



 こうして、オール達は世界中のドラゴンの亡骸を探し始める。


 しかし、これによって引き起こされる悲劇の事など、この時は誰も思いもしなかった……。




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