110 ニーニャ、猫集会を催す

 次はセイさんの所に行きたいが、クラン【ウィズダムグリント】場所を知らないんだな。


 更紗さんに聞いてみた。




「【ウィズダムグリント】の場所教えてもらえませんか?」



「セイの所なら本拠地は王都の中央区だね。でも実際に居るのは王都の外にある演習場じゃないかな」



 流石クランナンバーワン、本拠地は王都に置いてあるが訓練などする場所は別の所にあるそうだ。


 セイさんかニンエイさんが居れば良いので連絡してみると、セイさんは駄目だったが、ニンエイさんと連絡が取れた。午後に伺う事を伝えた。



「おーい。みんな、そろそろ帰るよ」



 周りから、えぇーだの、うそぉーだの、ブーイングが出ているが、気にしない。



「にーに!」



 マイエンジェルが走って来る、上から下までよだれだらけだ。



「す、すまないね。うちの子達が……」


「ニーニャが喜んでいるので気にしないでください」



 ニーニャに浄化魔法を掛けてから抱き上げる。



「楽しかった?」



 シッポをブンブン振りながらうんうん頷いている。それは良かった。


 残りのメンバーはカーちゃん以外、哀愁漂う疲れきった姿に見える。一応全員に浄化魔法を掛けてやる。



 シャングリラのみなさんと別れを惜しみ……九割九分九厘シャングリラの方だけどな。そそくさと中央区に向かった。


 三獣士は疲れきっていて誰も喋らない。仕方ない。



「昼飯時だが何が食べたい?」


「「「「にく~」」」」



 どこの欠食児童だ……。店で食べるより屋台の方が良さそうだ。


 中央広場でテーブルをひとつ確保し屋台を巡って手当たり次第買いまくった。結果、テーブルに乗り切らなかった分を、ストレージに入れてある。



「凄いにゃ、凄いにゃ」


「素晴らしい眺めだ」


「どんな味か楽しみですわ」


「……ダラダラ……」


「クェー」


「ミュウ」


「では、頂きます」



 皆、わぁーっと群がり食べ始めた。ニーニャはサンドイッチをモグモグと頬張っている。


 何故か、さっきから周りに野良猫が集まって来ている。よく見るとどうやら三獣士がエサを与えているようだ。綺麗な猫ばかりではなくだいぶ薄汚れた猫も居るので、周りの迷惑にならないように浄化魔法を掛けてやる。


 そう言えば、面白い事にエサを貰った猫達はニーニャに必ず挨拶して帰っていくのだ。流石、猫姫。でも、俺にはまったく挨拶無し……。


 だんだん、テーブルの上の食べ物も少なくなってきたので、ストレージから追加していく。



「これ食べても良いにゃか」



 聞きなれない声がしたので、声の方を見ると見知らぬケットシーがふたり座っていた。い、いつの間に……。


 彼らは普通の旅姿のケットシー。三獣士が特別なんだな。



「あぁ。気にせず食べてくれ」


「おぉー。では遠慮なく」


「頂くにゃ」



 足りなくなりそうだったので、ニーニャを抱っこしたまま屋台をもう一度巡って買い足してくる。またケットシーがふたり増えてるのだが……。



「お邪魔しているよ」


「食事を頂けると聞いたので」


「えぇ。召し上がってください」


「ありがとう」


「感謝しますわ」



 彼らにも浄化魔法を掛けてあげる。だいぶ埃まみれのよれよれ姿だったからだ。ケットシー達は驚いて目を丸くしたが食欲の方が勝ったようだ。


 それからも結局、ケットシーは四人増えた。結構、居るもんだな。野良猫に関しては百匹を超えたんじゃないだろうか。


 途中から屋台の人達がここに売りに来る始末。どこからかあそこに行けば買ってくれるぞと噂が流れたらしい。(街猫情報) 高く売りつけようとしてくる者もいたが、情報は既に猫から聞いているので、そう言う輩は怒鳴りちらして追っ払ってやった。


 みんな満足したようで笑顔を見せながら、三獣士達と地元ネタに花を咲かせている。盗み聞きつもりは無かったが、やはり三獣士は悪ガキ共でだいぶ里のケットシーに迷惑を掛けてたみたいだな。


 帰り際、ケットシー達にイノセントハーツとシャングリラの件を話しておいた。他の仲間にも広めてくれると言ってくれた。少しでも境遇が改善されれば良いな。


 ケットシー達は最後にひとりずつニーニャに片膝をついて挨拶をして帰って行った。



 昼食を終え更紗さんに教えてもらった場所に着くと、王都のハンターギルドより大きな建物だった。大手クランだけあって儲かってるんだな。


 中に入るとギルドのような受付になっていたので、そのひとつでニンエイさんを呼んでもらった。



「よう! ルーク。よく来たな、待ってたぞ」



 何故かセイさんが階段から降りてくる。それでなくとも目立つ自分達が更に目立ってしまった。



「どうもです。居ないって聞いてたんですけど」


「ニンエイが面白いものが見れるから戻って来いって煩くてな、急遽戻って来た」


「別に面白く無いですよ」


「何言ってんだ。既に街中で凄い噂になってるじゃないか」



 はて? なんの事だろうか? 何かしたか?



「ハァ……。取り敢えず部屋に行くぞ」



 最上階の五階の部屋に連れて来られた。フロアーの半分を要する大部屋だ。真ん中に円卓があり左右に長テーブルが並んでいる。


 既に円卓には数人座っており、長テーブルの方にも多くのプレイヤーが座っていた。



「な、なんです、これは? 我々を裁判にでもかけるつもりですか?」


「いや悪りぃー。猫姫来るって言ったら人が集まってよ、全員入れる部屋がここしかなかったんだよ」


「じゃあ仕方ないですね。ニーニャの魅力にはメロメロでしょうから」


「出たな親馬鹿」


「酷い言われようですね。事実ですよ。ニンエイさん」



 円卓に座っているのは、ニンエイにサブマスタークラスの人達だ。何人か見知った顔が居る。



「そっちがケットシーかな? ぬいぐるみみたいだね。触っても良いかい?」


「本人達に聞いて下さい。普通に会話できますから」


「それは失礼した。私はこのクランのサブマスターをしているニンエイだ。よろしく」


「ミケでござるにゃ」


「タマ・アトスだ」


「トラ・ポルトス」


「チロ・アラミスよ」


「「「「ひとりはみんなの為に! みんなはひとりの為に! 我らケットシー三獣士!」」」」



 周りでは笑いを堪えている人々が大勢いる。気持ちはわかるが、笑ってくれるな。本人達は至って真面目にやってるんだ。シャングリラでは何度もやらされていたが、本人達は上機嫌でやってたんだからな。ちなみにミケには名前は大事な人以外、全部言わなくて良いと言ってある。



「あぁー、質問なんだが……」


「質問は後日、文章でお願いします。今は受け付けておりません」


「……了解した」


「それでは後程、正式にクランより質問状をお送りする」



 ニンエイさん……本気まじですか? その目は本気まじですね。はい。


 と言う事で急遽、握手会が始まってしまった。自分がニーニャを抱っこして横に三獣士が座っている。何故かペン太とカーちゃんまで座って待っている。


 ウィズダムグリントの方々が、ニーニャから順に握手をしていく。ニーニャは身を乗り出すようにして握手にブンブン応える。最強の笑顔をと共に。いつもは厳つい顔したプレイヤー達も、ニーニャに骨抜きにされている。それに加えてケットシーとの交流である。顔がだらしなくニヘラとなっても仕方ないかのしれない。


 握手会も盛況のうちに終わり、主要メンバー以外は退出した。


 ニーニャはアポンジジュースを飲んだ所でおねむになってしまい、ウィズダムグリントの女性プレイヤー達がニーニャの寝床を作ってくれ、今はペン太とカーちゃんと一緒にお昼寝中。



「すまない。猫姫を疲れさせてしまったな」


「気にしないでください。ニーニャも喜んでましたから」


「そうは言っても、ちょっとやり過ぎてしまった。私からも詫びよう」



 そう言って他の方達も頭を下げてくる。



「さて本題に入ろうか。街中の噂になってるのを知らないようだが?」


「何かしました?」


「猫姫が街中の猫を集めて集会を開いていると報告が入っている。獣人族が遠巻きに見ていたそうだ」



 集会って猫共にだけなんですけど……。



「その獣人達からの報告によれば、ゾディアックと呼ばれる組織が動いたとも報告されている。何か心辺りがあるか?」


「そうですか……ゾディアックが動きましたか」



 確かにお膝元だからな。動くちゃー動くよな。レイアの養女とは言え娘だし。



「ここに居るみなさんに他言無用でお話しますが、漏れると不味い話なのでそちらで人選して下さい。できれば更紗さんも呼んで頂きたい」


「それ程の事なのか?」


「国王との謁見も近いと聞いています。聞いておいて損はないと思いますよ」


「わかった。更紗とは連絡がとれた。すぐに来るそうだ。そっちの女性メンバーは退出してくれ。ニンエイが代わってくれ、そこででも聞こえるだろう。他はうちの中心メンバーだから問題ない」



 少し経って更紗さんが到着した。



「派手にやったみたいだな。既にうちに四人程ケットシーが来たぞ」


「そうですか。それは良かった」


「話の途中で悪いが本題に入ってもらいたい。すまないな、更紗」


「構わない。その為に来たんだ」


「あみゅーさんには後日、自分から説明するので話はしないでください」


「了解した。話が曲がって伝わるのは不味いからな」



 どうしても話と言うのは尾ひれが付くものだ。なんの情報もない状態で聞いてもらいたい。



「なあ、ケットシーはゾディアックって知ってるか?」


「知ってるでござるにゃ。使徒様の眷属にゃ」


「使徒様って誰よ?」


「使徒様は神様の代行者の事だ」


「使徒様が神様に代わって、この世界を我々に住みやすくしてくれたのですわ」


「その時の使徒様の眷属の中でも、エンジェール(天使族)の一部に与えられら名でござるにゃ」


「過去に何度かゾディアックに協力して、魔王などと戦っているぞ」


「私達は使徒様と共にあるわ」


「と、彼らは言ってますが……それは遠い過去のお話」



 猫共が俺の言葉に騒いでいるが、無視。



「どこかで聞いた事があるかと思いますが、五百年前に魔王が現れ勇者に倒されたとあります。その時の勇者がゾディアックから出ているそうです。ちなみにこのクルミナ聖王国はゾディアックが、魔王が現れる前に建国した国です。おわかりになったと思いますが、この国はゾディアックが支配しています。王は飾りです」


「何故、そう言える。根拠は何だ?」


「レイアの両親はゾディアックの幹部です。隠してるようですがね。それ以外にも、多くの情報元からも確認しています」


「情報元とは何かな? 差し支えないなければ聞きたいね」


「信頼できるNPCとだけお答えしておきます。大抵はケットシー族のように騙されてい場合が多いようですがね。そこで、二つの事実をここで公表したいと思います。質問等は話が終わってからにして下さい」



 また猫共が騒いでいる。にゃーにゃーうるさい。でも気にしない。



「魔王と戦った勇者が、相打ちになった言う話はご存知ですか?」



 大抵の人は頷いている。猫共もだ。



「実は相打ちになったのではなく、仕組まれたものだとしたらどうでしょうか? 良くある話ですが勇者のその後の話って余り聞かないですよね」


「成程、そう言う事か。えげつないな」


「魔王を倒す方法は自爆以外にもあったそうです。可哀そうに味方に裏切られる勇者。その事を知ったらなんて思うんですかね。やるせないでしょうね」


「……」


「グランドクエストは知ってますよね。そう12の魔王です。ゾディアックは魔王についても何かしらの情報を持っていて、それを隠しています。ここまで来ると味方なのか敵なのかわかりませんが、信用できない組織だと言う事はわかります。ハンターギルドの裏で手を引いているのもゾディアックですから」


「勇者の件の倒す方法が他にあったと言うのは、どういう見解で出たものだ?」


「魔王との戦いでは、多くの人族以外の種族も戦っています。その中には長寿の種族もいるので話を聞く事ができました」


「それが本当だと言う根拠はなんだ?」


「メリットが無いからですよ。嘘を教えてどうしますか?」


「ゾディアックを貶める事かもしれないぞ」


「ですから、皆さんが客観的に判断して下さい。ルグージュ防衛戦も踏まえてです。ゾディアックは名前の通り十二の守護者が居ますが、防衛戦に来たのは一人だけ、援軍もクズを送ってくるしね。酷いもんです」


「12の魔王についてはどうなんだ?」


「ケットシーからの情報ですが、おそらくこの大陸に五人の魔王が今現在います」


「目的は?」


「知りません……ゾディアックは何かしら知ってると思われます」



 この位で良いかな。後は自分達で考えてください。



「その情報を踏まえた上で、謁見の目的はなんだと思ってる? と言うより何故、断った?」



 セイさんの聞き方は尋ねると言うより、確認って感じかな。



「うちのレイアはゾディアックの一族と絶縁しました。そのうえで孤児院の運営などに協力してます。敵対している相手の所に行く訳ないじゃないですか。それに謁見の目的はプレイヤーの取り込み以外考えられませね。この世界はリアル世界の王政をおこなっていた中世くらいの政治レベルです。王や貴族は意味なく偉いと思ってる世界ですよ。王様に会えるなんて光栄だろう、だから忠誠を誓えがまかり通る世界です」



 現代のリアル世界に住む我々からすれば、この世界の王族や貴族の考えはまったく理解できない。何故、自分を偉いと思えるのだろうか? くだらないな。



「自分もそう思っている。正直面倒臭い」


「私も同意見だ」


「こちらは個人で呼ばれたので断りましたが、クランでは難しいでしょうね」


「結構な数のクランが呼ばれているようだ」


「できたばかりのイノセントハーツにもきてましたよ。ひなさん、何を着てくか悩んでましたね」


「む。やはり礼服が必要か」


「さあ? ひなさんはぶっ込みます、みたいな事言ってました。あそこも国と仲良くする気ゼロですから」


「むむ。興味があるな……」



 今度はこっちの聞きたい事を聞く。



「話は変わりますが、あみゅーさんから話は聞いていますか?」


「レイアさんの事ならすまないと思ってる。私もセイもレイアさんに甘え過ぎてた」


「それは良いんです。レイアが好きでやってる事ですから。自分が危惧してるのは獣人族のNPCについてです。まだ、あみゅーさんが抑止力になってますが、いつか歯止めが効かなくなるような気がしています。そうなれば、最悪レイアやニーニャを引かせようとも思っています」


「確かにNPCは勢いづいてるな。しかし、そこまで酷いのは一部だろう? そこまで言う事か?」


「それは実際に見てないから出すね。あの憎悪のような狂った目つき、異常でしたよ」


「うむ、わかった。こちらでも注意して見ておく。しかし、レイアさんの件は少し待ってくれ。何とかGMと話が付きそうなんだ。ここでレイアさんに引かれると厳しい状況になる」



 そう言えばGMがどうとか言ってたな。



「どんな状況なんですか?」


「我々の孤児院と併設してある依頼の発注所を、冒険者ギルドとして認知してもらうつもりだ」


「冒険者ギルドですか?」


「定番だろう。第二ハンターギルドなんて手垢の付いた名前より、良いと思わないかい?」


「そうですね。更紗さんの言う通りですね」



 何事も新しく始めるなら、名前も新しい方が良い。冒険者ギルドならプレイヤーはわかりやすいだろうな。


 その後も細々した事を話し合った。ニーニャも起きてくずり始めたので退散する事にした。あみゅーさんの所にも行きたかったが後日にしよう。大事な場所がまだ一軒残っている。


 みんなを連れてルグージュのコリンさんの家に来た。


 コリンさんに猫共を紹介しない訳にはいかないだろう。



「ばーば!」


「まあまあ、ニーニャちゃんいらっしゃい。ルークくんもね」


「すみません。お邪魔します」


「あらあら、自分の家だと思ってくれて良くてよ」


「ばーばぁ」



 ニーニャをコリンさんに預け渡す。ニーニャのこの甘え方を見ると正直自信を無くす。



「今日は珍しいお客様がおいでなのね」


「コリンさんだ。ニーニャが祖母として慕ってる方だからな、礼儀を持って接しろよ」



 三獣士は定番の挨拶をおこなった所、コリンさんはいたく気に入ってくれた。


 この猫共はニーニャの護衛ですと紹介しといたら、コリンさんは一人一人にニーニャをよろしくねと、ハグしていた。



「母ちゃんの匂いだにゃ」


「母上様を思い出す……」


「ママの香り」


「……」



 そうか、母の香りか……かなわない訳だな。コリンさんは何人も子供を育ててきた人だ。レイアも俺も本当に子供を産んで育てた訳ではない。子供が感じる安心感が違うんだろうな。


 コリンさんはいつものようにお茶を入れてくれ、定番になった野菜クッキーを出してくれる。そしてまた、定番の取り合いが始まる。勘弁してください。エサを与えていない飼い主の気分になってしまう。


 たわいもない話をしてニーニャが満足するまでお邪魔してたら、もうすっかり夕方だ。今日はこの辺で降魔神殿に帰ろう。


 ニーニャのホクホク顔を見て自分もほっこりしてしまう。凄く幸せな気分だ。



 しかし、この時既に悲劇のカウントダウンが始まっているなど、誰が考えただろうか?


 いや、考える訳ないな……。




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