108 ケットシーの中に虎が一匹
目を丸くして固まっている三獣士を尻目にニーニャはご満悦。ニーニャにとっては動くぬいぐるみぐらいにしか思っていないんじゃないだろうか?
座布団でうたた寝していたさくらが大きなあくびをしたかと思うと、三獣士の元に走ってピョンと飛び、義経もあわやと言う八艘飛びを見せて、三獣士の頭をピョンピョン飛んで戻って来た。
三獣士に称号に猫姫親衛隊がついた。猫姫に危機が迫った時、全能力が200%UPする。使用後は三日間寝たきりになる。となっている。とんでもない諸刃の剣だな。
さくらなりの妹に対する愛情表現ってとこか。可愛い奴だ。さくらを抱っこしてウニウニしてやった。
「ミャ~」
鳴き声でやめてよ~と言ってはいるが、さくらの顔は緩んでいる。
「親衛隊になった事だしホームに移動するか」
「賑やかになって良いですね」
「ミャー」
精神的ダメージは受けるけどな。
「おーい。三獣士戻ってこーい」
「はっ……にゃんでござるにゃ」
「お前達の荷物持ってこい」
「全部持ち歩いているでござるにゃ」
「さっきのバックはアイテムボックスか?」
「そんな凄いものじゃないでござるにゃ。ちょっとだけ拡張してあるだけでござるにゃ」
「まあ良いさ。ついて来い」
ニーニャを抱き上げ、メイドドールに指示を出して降魔神殿に移動した。
大広間でファル師匠が何やら練武をしているようだ。
「また変わった者達を連れて来たのう。ルークよ」
「こいつらはケットシーの長老から預かった者達で、ニーニャの護衛をする事になってます。こちらは現拳聖のファルング様だ。敬意を持って接しろよ」
三獣士はビクビクしながらも挨拶をかわす。
「
「それから、これはうちに来た恒例の行事みたいなものだが、最初に風呂に入ってもらう」
「お風呂にゃー」
「風呂は良い」
「……嫌だ」
「楽しみですわ」
若干一名、許されない奴がいたな。これは問題だ。教育が必要のようだ。
「言っとくが、うちは女性が多い事から不潔なのは御法度だ。トラ覚悟を決めろ」
「嫌だ……」
「ほう。なら帰れ」
「嫌だ」
「嫌々ってガキかお前は、その図体は見せかけか?」
「言ったな」
トラは腰のサーベルを抜いた。意外と短気だな、簡単にのってくるとは。
「トラ! やめるでござあるにゃ」
「構わんよ。上下関係ははっきりさせとかないとな」
トラが仕掛けてくる。以外に基本に忠実な突きだ。が、遅い。ほんの少し体をひねり躱す程度で問題無い。トラはムキになって連続で突きを出すが、最小限の動きで躱していると、左手にダガーを持ち二刀流で攻撃してきた。
うーん。弱いと言うより経験不足? 戦い方がなってない。サーベルなどでの二刀流は、反対の手はソードブレイカーなどを持って防御に使うもので攻撃は余りしない。レイピアの利点が活かせなくなるからだ。
軽く手に氣を載せ掌底で剣を握っている場所を打つ。一打目でサーベルが吹っ飛び、二打目でダガーが壁に突き刺さる。
トラは両手を見て唖然としている。軽く触れられた感じしかしなかっただろう。しかし、タイガールの血が騒いだのか今度は殴り掛かってきた。
さっきと違って動きが速い。手数も多い。蹴りまで加えて攻撃してきた。良い動きだ。これが本来のタイガールの動きなのか? でも、残念ながらだまだだな。そう、これは教育なのだ。なので教育的指導が必要なのだよ。おいたが過ぎたな。
全身に氣を纏わせ殺気と共に一気に放出する。別に攻撃はしない。ファル師匠にクリスタルでやられた事を真似してみるだけ。
「
ファル師匠の声が掛かる。トラはお腹を出し仰向けで服従のポーズをとっている。そんなトラのお腹をニーニャはなでなでして、触り心地を確かめてるようだ。
「これで文句はないな。俺に従え」
「……コクコク……」
「よし、じゃあ風呂行くぞ」
女風呂は姦しい。特にメイド隊が入るようになってからはいつもだ。しかし今日は男風呂も賑やかだ。ファル師匠にデルタ、いつの間にかオメガまでやって来た。自分はミケとタマでトラを押さえつけ体を洗ってやってる。一苦労だ。やっと終わったと思えばミケが頭を洗わない事に気付き、今度はトラにミケをホールドさせ頭を洗ってやる。いつからここは幼稚園になったんだ?
ファル師匠にデルタ、珍しくオメガまで徳利からお酒を吞んでいる。羨ましい……。
「やっと落ち着いたぁ。ふぅー」
「あのタイガールの小僧は格闘向きじゃな。剣を活かしきれておらんな」
「種族的なものですかね?」
「あのスピードにパワーそれを支える体力。剣を使うにしても大剣などじゃな」
「もう一人弟子が増えましたね。ファル師匠」
「
名より技が生きた証。流石、拳聖かっこいい事言うな。
「残りの三獣士の力量を、デルタが見てくれ。ケットシーの中では優秀な者達らしいからな」
「……承知した」
「ニーニャの親衛隊なんだから、それなりの腕が無ければ駄目だ。デルタが納得できるまでビシバシ鍛えてくれ」
「……わかった」
「オメガは親衛隊のサーコートを作ってやってくれ。おそろいのデザインで」
「承りました。ニーニャ嬢様に相応しいデザインに致します」
さあ、風呂から上がって夕食にしよう。
三獣士の服は全てメイド隊に渡して洗濯にまわしたので、浴衣を用意した。ファル師匠の更に簡易版だ。
三獣士に何を食べるのか聞いたら、にゃんでも食べると言ってきた。猫缶で良いのかな? 試しに出してみるか。
今日の夕食は自分とレイア、ファル師匠は豪勢に和牛ステーキ(A5)にしてみた。三獣士にはハンバーグに猫缶を四人で分けて味見させる。カリカリも一緒にな。ニーニャにはお子様ランチを希望された。
「美味いにゃー!」
「なんとも美味」
「こんな美味しいもの初めて食べましたわ」
「これは今まで食べてきた肉の概念を吹き飛ばされてしまったのう……」
ファル師匠に食べ過ぎると胸やけを起こすので、お替りをするなら別のものにする事を進める。レイアも驚いていたけど余り好みではないようだ。ある意味脂の塊だからな、食べ慣れてない人には無理があるかな。しゃぶしゃぶ辺りから入った方が良かったかも。
三獣士は猫缶を普通に食べていた。タマとチロはワインに合うと言い。ミケはカリカリをお菓子にゃーと喜んでいた。トラは無口だ。
ファル師匠とトラは足りなかったようで、その後Tボーンステーキの800グラムを四皿、完食した。フードファイターっか! プロには賞金は出さんぞ!
夕食が終わりニーニャはお腹一杯になり眠くなってきたので、みんなに挨拶してレイアと部屋に戻った。ちゃんと歯を磨いてから寝るんだよ。お休み、ニーニャ。
残りは各々、酒を楽しみ、さくらはアルファに抱っこされている。もう一人のお嬢様はベットの上で大の字になっていた。はしたないぞ、うさ子。
丁度良いので三獣士にあの疑問を投げかけてみる。
「なんで、四人なのに三獣士なんだ」
「それは、拙者のせいですにゃござる」
「そのござる口調も無理にしなくて良いぞ」
「駄目ですにゃ! ござる……」
ミケは三毛のケットシーだ、この世界でも三毛のオスは珍しいらしく、生まれた場合決められた名前を襲名する決まりになっているそうだ。そう、あの長い名前だ。他の三名の名は受け継ぐが決まりはなく、その時の優秀な者が引き継ぐ。
昔は四獣士と呼ばれていたらしいが、三毛のオスが生まれない時期が長く、三人の時が多かった為に三獣士に変わっていったと言う。なので、今回のように三毛のオスが生まれると四人なのに三獣士と言う矛盾が生じるそうだ。
別にその時々で良いんじゃね、と思うがしきたりなので仕方がないらしく、ござる口調も名前を襲名するとそう喋る事が決まりで止める事ができないと苦い表情をしている。
伝統、しきたり、風習と言われてしまえば、赤の他人がどんな馬鹿げた事でも口出しできないものがあるからな……。
「じゃあなんで、ケットシーにタイガールが混ざってんだ?」
「にゃにを言ってるんでござるかにゃ?」
「三獣士はケットシーだけしかなれない決まりだ」
「私達は幼い頃からいつも一緒にいるのよ。ケットシーの村にタイガールが居る訳ないわ」
「……」
マジすっか! 本気で言ってるな、こいつら。ファル師匠も一緒に飲んでいたデルタも驚いて顔でトラを見ている。どうやらトラ自身はわかっているようだな。まあ、プライベートな事なので突っ込むのはよそう。
「そ、そうか変な事言って悪かったな」
「気にしにゃいで良いにゃんでござる」
「そうだ我々の心はひとつ」
「トラはちっと大きいだけですわ、いつも言ってるけどトラも気にしちゃ駄目よ」
「……」
トラは良い仲間を持って幸せ者だ。朝につるつるヨモギ蕎麦……もとい、麻につるる蓬って事かな、おっちゃん涙が出そうだよ。
「話は変わるが、どうやって猫姫の居場所を特定した?」
「我々の情報網を侮らないで頂きたいでござるにゃ」
「我々の眷属はどこにでも居るし、どこにでも侵入できる」
「ケットシーの一族も多く旅に出ているわ」
「成程、じゃあ、ケットシーは街に入るのに問題ないのか?」
「も、問題にゃ、にゃいにゃよ、よ」
ありありのようだな。ミケは目が泳ぎ、タマは酒を飲んで誤魔化し、チロは口笛を吹いている。夜なんだから口笛はやめなさい。まあ、トラは無口だな。
「猫魔法で忍び込んでるのか……」
「「!?」」
「にゃ、にゃんでその秘密を知ってるにゃ!」
「さくらも猫魔法を使えるからな」
「ミャー」
さくらがアルファの胸から顔出して肯定の返事をしてくれた。三獣士は唖然として声が出ないようだ。
「さくら殿はケットシーに縁のあるお方なのでござるかにゃ?」
「どうなんだろうな? ユニーク種族だけにわからん」
「あれだけの力をお持ちだ。我々の祖に連なる方の縁者なのだろう」
「先祖返りって事も考えられるわ」
「……」
聞けばやはり猫魔法や抜け道などから、侵入しているらしい。
ケットシーは猫だけに好奇心旺盛の種族で、多くの者が人族の街を巡って旅をしている。
普通に入れば良くねぇっと聞いたら、お金が無いと言われた。ケットシーは例え妖精族と言えど人族としては扱って貰えないそうだ。実力があってもハンターにもなれず、物の売り買いさえままならない。
じゃあどうやって街で過ごしているか聞くと、大抵は眷属(街ネコ)が助けてくれるか、親切な人族の世話になると言う。たまに親切を装い、ケットシーを捕まえて売ろうとする者もいるらしいが、その時も猫魔法で逃げるそうだ。
なんて健気で不憫な話だ、こんな可愛い種族を無下にするなど許すまじ。
「お前ら苦労してるんだな」
「そんな事はにゃいでござるにゃ」
「我らケットシー族は自由と友を愛する一族」
「お金なんて無くたって私達は幸せよ」
「でもあった方が便利だろ。いつもいつも友の世話になりっぱなしじゃ、その友達だって大変だろう?」
「ちゃんとお土産は持っていくにゃん! ござる!」
「そうかもしれないが、それが必ずしもその人にとって良いものかわからないだろう?」
「そう言われてしまうと、なんとも言えなくなるな」
「ではどうしろと仰るのかしら?」
「だから手を貸そうと言ってるんだ。まだ、行ける場所は少ないが各街に拠点のある知り合いのクランに頼めば寝る場所くらい提供してくれるし、物の売り買いも可能になる。やる気があるなら依頼を受けて稼ぐ事もできるようになるぞ」
「クランってなんでござるにゃ?」
「うーん。大きな意味で言えば家族的な集まりかな。ある同じ考えを持った者同士が集まって、一人では厳しくても多くの仲間と一緒に頑張る集まりってとこか。三獣士の口上にあったろう。ひとりはなんちゃらって」
「「「「ひとりはみんなの為に! みんなはひとりの為に! 我らケットシー三獣士!」」」」」
「はいはい。一々言わんで良い。要するにそう言う事だ」
猫共は何か不満でもあるのかブーブー言ってる。気にしない。
「素晴らしいにゃん! ござる」
「我々の理想そのものだ」
「さっそく作りましょう。そのクラン」
「……」
「盛り上がっている所、悪いがすぐには作れないぞ」
「にゃんですとー!」
「作るにしたって、まず人族にケットシー族と言うものを理解してもらうのが先決だし、どこにクランを作る金があるんだ。人族は貨幣経済で成り立っているんだ。元手がなければ何もできないぞ」
「どうすれば良いにゃ~」
「ご助力お願いする」
「同胞の為なら何でもするわ」
「……コクコク……」
だいぶ話がそれてしまった。一番大事な本題に入ろうと思う。
「その件は後日もう一度話すとして、お前達がここに来た件の本題に入りたい。ケットシーを脅迫しているのは魔王なのか?」
「後日かにゃ……まあ、良いでござるにゃ。そうですにゃ。我々の村より北に位置する場所に拠点を置いている魔王でござるにゃ」
「ケットシー族はどこまで魔王について知っている?」
「詳しい話は長老達しか知らないにゃけど、この大陸に少なくとも六人の魔王が居ると聞いてるにゃ」
「……六人の魔王が居るじゃと」
ファル師匠が難しい顔をして唸っている。わからなくもない。三代かけて調べてほとんど手に入らなかった情報がここに転がっているのだから。
しかし六人か多いな、さくらの事も混じっているのか? としても五人の魔王か、クラークを合せれば結局六人か……。
「現状、うちはおそらくその六人以外のクラークと言う魔王と事を構えている」
「おぉー。魔王と戦っているにゃか!」
「我らも光の軍勢に加わらん」
「神よ私の剣に闇を払い給う力を!」
「……(ウォー)……」
「盛り上がり中悪いが、うちは光の軍勢でもなければ勇者も居ないからな」
光どころか真逆の闇の軍勢だしな……。
「勇者と言うにゃは、必要に駆られて自ずと現れるものにゃ。作ろうと思って作れるものじゃないでござるにゃ。気にしないにゃ」
「魔王と戦う意思が大切なのだ」
「我らケットシー族は神代の頃から使徒様と共に戦って来たのだから」
「……コクコク……」
騙したつもりはないが、心が痛む。さくらは魔王の一角だからな。
三銃士達に魔王クラークとの事を簡単に説明する。ついでにファル師匠にも聞いて頂こう。
「「「「おぉー」」」」
「おぬしらの仕業か……しかしサハギンキングを倒すとは」
倒したのファル師匠の弟子のひとりだぞ。それも筆頭な。
「もしかしてリゾートにゃ?」
「そんな話を聞いたな」
「暖かい砂浜でお昼寝し放題のパラダイス!」
「……コクコク……」
「「「「行きたい(にゃ)!」」」」
こ、こいつら。自分達の立場をわきまえろ!
「それで戦況はどうなんじゃ?」
「小康状態と聞いています。今は戦うより仲間を増やす事に重点を置いてますので、無理に戦うつもりはありません」
「では野放しにしておくつもりか?」
「ファル師匠の仰りたい事もわかりますが、相手は海の中。分が悪すぎます」
「では、どうするつもりじゃ?」
「海竜王が目覚めたら任せるつもりです。お膝元の事ですから」
「うむむ。確かに海竜王様が目を覚ます時期じゃが。それまで黙っていると思うか? 魔王とて馬鹿ではないぞ。時が経てば経つほど、分が悪くなるのは魔王の方じゃぞ」
「ですから魔王が動けないように手は打っています。ご安心を」
「どんな手じゃ」
「それは……秘密です」
「むう」
邪神の眷属のダゴン様と同盟関係にあるなんて言える訳ないでしょう! 下手すりゃ全世界が敵に回ってしまう。
まあクラークの事は今は良い。ケットシーにちょっかい出してる魔王の方だ問題は。
「どんな奴なんだ。その魔王は?」
「自称アンデットの魔王と聞いてるにゃでござる」
はい。解決した。ハァ……。
「えぇい、誰か! オールを速やかにここに引っ立てえぃ! お縄である!」
まさかの身内の友人の事だったとは……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます