107 四人なのに三獣士?

 あみゅーさんがニーニャとさくらを連れて帰ってきた。


 俺はしっかりとレイアの肩を抱いている。



「みゃまー!」


「どうやら決めたみたいだにゃ」



 レイアがニーニャを抱きしめて謝っている。



「不甲斐ないママでごめんね」


「みゅまぁ~」



 それにしても、あれを何とかしないと歯止めが効かなくなるぞ。



「あみゅーさん達はあれをどうするつもりですか? 事と場合によってはレイアを引かせますが」


「ルーク!」


「これは大事な事だ」


「そうだにゃ。ルークの言う通りにゃ。実際には獣人族は差別されていないけど、根本にあるのは差別からの脱却にゃ」



 この大陸の東に獣人族の国がある。クルミナ聖王国と現在同盟関係にあるが、過去に戦争で負けてからは実質従属国になったようなもので、この事が全ての獣人族の心の奥に影を落としていると言う。



「それにニーニャやレイアが利用されるのは面白くないです」


「プレイヤーは関係にゃいけどにゃ。NPCが問題にゃのよ」


「セイさん達は何か言ってませんか?」


「GMを引っ張り出すとか言ってたにゃ」


「そうですか。GMね……」



 それなら、一旦セイさん達に任せておこうか。



「しかしなんで、今回は自分が絡まれたんですかね。ルグージュでも王都でもなかったのに」


「それはにゃ……おそらく」


「おそらく?」


「ルークの影が薄いからにゃ」


「ぐはっ」



 心の仮想領域で血反吐を吐いて崩れさる。


 確かにスキルで気配遮断や認識阻害は常時使っている。使っているがニーニャを抱っこしていれば効果は薄い。どちらのスキルも一度認識されてしまえば効果がない。いかに見つからないようにするかのスキルだからだ。ニーニャと言う多くの注目を集める存在が直ぐ傍にいれば、スキル効果など無いに等しい。



「……冗談にゃ?」


「だから、それ冗談になってませんからね!」


「そ、そうかにゃ? まぁノインスはうちのクランがあるから、他の街より獣人が多いにゃ。レイアさんみたいに超美人なら話に上がるかもしれないにゃけど、男でヒューマンのルークの事など一々話すとは思わないにゃ。にゃので単なる認識不足にゃ。他の街と同じように時間が経てば落ち着くにゃ」


「結構酷い言い方されてますけど、そう言う事にしておきますよ」


「気にしちゃ駄目にゃ」



 十分に気にしますって、それでなくとも強制縛りプレイなんだから。



「この後どうする。一旦、帰る?」


「今日はあみゅーが一緒に居てあげるにゃ。ルークは帰って良いにゃよ」



 そ、そうですか。あみゅーさんが一緒なら問題ないだろう。街の中を見て歩きたいとは思うが、さっきのせいで気分が乗らない。素直に帰るか……。



「なら、あみゅーさんよろしくお願いします。さくら、帰るよ」


「ミャー。ミャッ!」


「さくらちゃんは私の癒しに預かるにゃ!」



 俺の元に来ようとしてジャンプしたさくらを、あみゅーさんが空中でキャッチして奪われてしまった。



「はぁ……さくら、みんなをよろしくね」


「ミャー」



 ニーニャのほっぺにチュウをして降魔神殿に帰った。




「ルーク様、オメガ様がお呼びでございます」



 帰った早々にお呼びですか……人気者は辛いな。



「どうした?」


「お客様がおいでになっておられます」


「どこに」


「ここにでございます」


「何者だ」


「見た所、ケットシーとタイガール(虎獣人)のようでした」


「誰に会いに来た?」


「猫姫に話を聞いて欲しい事があるそうで、長老の文も預かっているとの事でございます」



 猫姫って、ニーニャに何のようだ。まさか東の獣人の国か? イヤイヤ、早過ぎる。それにどうやってこの場所を知った? 漏れたのか? いや、考えられないな。事は慎重に構えないといけないようだ。



「今どこに居る?」


「死者の都の宿にお泊り頂いております」


「ニーニャが戻って来たら会いに行ってみるか……会談を持てる部屋を用意しといてくれ」


「承知しました」



 取り敢えず、昼飯を食べよう。ファル師匠は不在のようなので自分だけか。じゃあ、ざるそば天丼セットに決めた。ちょっと贅沢。さくらの部屋に移動するが誰も居ない。部屋にそばを啜る音だけが響く。なんか寂しい……。


 そういえば、陰陽師が進化できるようになっていたな。確認してみよう。


 エクソシスト、優婆塞これは祓魔師からの発生だったな。ほかには天下武芸者、天地道士がある。毎度の如く、説明がない。天下武芸者、心惹かれるものがある。しかし特化型っぽい。天地道士は陰陽師の上位互換のような気がするな。


 中国の道教が日本に入って、陰陽師や修験道に変わっていったと聞く。道教と言えば太極拳が思い浮かぶ、進化条件もおおよそその辺りだろうと想像はつく。


 やはり素直に万能型が一番、小心者なんでね。石橋を破壊して渡る慎重さが一番だ。


『天地道士』STR、VIT、INT、AGIに補正が掛り、Jobセット中HP・MP回復速度上昇(中) 特定種族にダメージ20%増の補正が入る。特定スキルに(小)補正が入る。護符術が使用可能になる。


 取得条件 シークレット。


 確かに陰陽師の上位互換だ。旅人に迫る性能だな。護符術も陰陽道術式を簡略化した感じがある。護符を作るのが手間だが手数が増えそうなので頑張って作ってみるか。


 しかし、ひとりだけって久しくなかったな。お腹も膨れて眠くなってきた。ベットに行ってお昼寝タイム。



 目が覚めると顔の横にさくらが丸まって寝ていて、ニーニャが体にしがみつくように眠っている。起こすのも可哀そうなので二度寝する。



「にーに」


「ミャー」



 体を揺さぶられながら、顔ペロされている。なんか気持ち良い。



「今何時?」


「四時を過ぎた所でございます。ルーク様」



 アルファが睨んでるが、さくらとニーニャのほっぺにチュウをした。アルファの嫉妬が憎悪に進化した。気にしねぇよ。



「レイアは?」


「部屋で着替え中でございます」



 レイアが着替えが終わり部屋に入ってきた。いつものきちっとしたスーツぽい服装ではなく、彼女にしては珍しいワンピースを着ている。色はシックだけどね。



「レイア、似合ってるよ」


「お、おかしくないですか?」


「色はもう少し明るいものの方が良いと思うな」



 そう言って抱きよせキスをする。アルファが目を丸くしている。フッフッフ。昨日までの俺ではないのだよ。アルファくん。ニュールークなり、ネオルークとでも呼んでくれ給え。



「今から死者の都の方に出かける。夕食は帰ってからだ」



 皆、顔にはてなマークが浮かんでいる。仕方ない説明しよう。



「獣人の国でしょうか?」


「それも考えたが、ここに来るには早過ぎる」


「では、どこの手の者でございましょうか? ニーニャお嬢様がここに居る事を調べあげるとは、侮れない相手かと」


「そこなんだ。どうやって知った? 出入りにはゲートを使っている。ここに侵入したとしたらオメガが気付かない訳がないし、そのオメガが危機感を感じさせない」


「それは相手がケットシーだからと思います。ケットシーはたまに街などでも見かける事があるのですが、彼らは妖精族でとても善良な種族です。悪意ある行動を取るとは思えません」


「善良か……一応用心の為にデルタは連れて行く」



 死者の都の空いている店舗に来ている。


 俺達は席につき、メイドドールがお茶の用意をしている。



「ルークサマー。オキャクサマガ、オイデデゴザイマス」


「入ってもらってくれ」



 現れたのは二足歩行の猫。キャトール(猫獣人)ではない。身長はうさ子と同じか少し高いくらいか。幅広の羽付き帽を被り、中世のフランスの銃士が着ているサーコートを羽織り、ロングブーツを履いている。もっとわかりやすく言うと某アニメーション会社のロゴマークの猫の格好になっている、長靴を履いた猫である。


 四匹? 四人のうち三人はケットシーで、一人は二メートルくらいありそうなタイガール(虎獣人)だ。


 ニーニャの目がギラギィ……キラキラ光っている。シッポもブンブンして抱っこしている俺をピシピシ叩いている。あぁーこりゃ駄目だ。抑えきれん。


 ニーニャを降ろしてあげると、俺とレイアにニパァっと笑顔を見せてテトテト走って行く。まあ、相手もニーニャに会いに来たんだ無下にはしまい。


 ニーニャは先頭に居たミケ猫のケットシーにヒシッと抱きついた。



「にゃにゃ! にゃんでござるか!」


「ねこしゃん」



 ニーニャはガッチリホールドして、スリスリしている。気に入ったようだ。一匹飼うか?



「にゃんとかして欲しいでござる……」



 子供のする事だ。成すがまま、成せれるまま、身動きが取れないようだ。このままでは話が進まないので、可哀そうだがニーニャを引き剥がした。



「ねこしゃん……」



 ニーニャをレイアに預ける。



「すまなかった。取り敢えず立ち話もなんだから、座って自己紹介でもどうだろう」


「おぉー、にゃんとも、かたじけないでござる」



 四人が席に着いたのでメイドドールにお茶をいれさせた。



「拙者、ケットシー族ミケ・ダリュにゃn……ダルタルにゃn……」



 急にテーブルの上で何かを書き始めた。



「こう言う者でござる」



 そう言って紙切れを渡してくる。


 なになに、ミケ・ダルタニャン・シャルル・ド・バツ=カステルモールと書かれていた……名前か? なげぇーよ。それに自分の名前なのにカミカミって……。


「ミケ・ダルタニャン・シャルル・ド・バツ=カステルモールさんで良いのかな」


「おぉ。ミケと呼んで欲しいでござる。こちらに控えるは我ら三獣士がひとり……」


「我ら三銃士?」


「にゃにか? 三獣士でござる」


「三銃士?」


「三獣士」



 またミケはテーブルで紙切れに何かを書いて渡してくる。


 三獣士にゃん♡。と書かれている……。



「三獣士か……だけど四人だよな」


「むむ。猫姫の付き人、侮れぬでござる」



 誰が付き人だ! それに見ればわかんだろ! もしかして誤魔化せるとでも思ったのか……。



「何か事情があるようだな。話を折って済まない」


「後でにゃんと説明するでござる。みんにゃ、各自挨拶」


「タマ・アトスだ。よろしく頼む」



 最初に挨拶してきたケットシーは、どことなく気品のあるシャム猫のようだ。語尾ににゃって付かないんだな。



「……トラ・ポルトス」



 明らかにタイガール(虎獣人)だ。鑑定したので間違いない。



「チロ・アラミスです。よろしくですわ」



 ロシアンブルーのメスだ。毛並みが美しく高級ベルベットのようだ。是非モフモフさせて欲しい。



「「「「ひとりはみんなの為に! みんなはひとりの為に! 我らケットシー三獣士!」」」」



 うむ。また頭痛の種が増えたな。ひとりケットシーじゃないのが居るが?何故、ケットシー以外が混じっているのに、なのかな?


 レイアを見れば必死にニーニャに隠れて笑いを堪えている。さくらはテーブルに置いた座布団の上で興味無しと言わんばかりにあくびをしている。


 俺はどうしたら良いのだろう? このままコントを続けるべきなのだろうか? 突っ込み所満載で逆に突っ込む気が失せる。


 三獣士のみなさんは先ほどの口上が決まった事に頬を上気させ、満足しているようだ。これがやりたかったんだろうな。おそらく……。


 しかし! 可哀そうではあるがその余韻をぶった切る!



「で、今回こちらに来たご用件は?」


「にゃ、にゃに、ちょっと待つでござる……」



 上気させた頬から一転、顔を青ざめながら必死に何かをバックの中から探している。



「にゃい……」


「だからミケに預けると駄目ですわ」


「良く探したのか?」


「探したにゃ。昨日迄確かにあったにゃ……」



 トラが俺に封筒のようなものを渡してきた。どうやらケットシーの長老からの手紙のようだ。



「探し物はこれか?」



 ワイワイ、ガヤガヤとしている三人に手紙を見せる。



「い、いつの間に奪ったにゃ! でござる!」



 なんかござる口調も破錠してきたな。それに渡してきたのトラだし……。いつまでこのコント続けるつもりだ。精神的ダメージが半端ない。



「いや、トラが渡してきたんだが……」


「にゃあぁー! 思い出したにゃ。誰かに奪われると不味いから昨日の夜にトラに預けたにゃ! でござる……」


「「「……」」」



 もうこいつらは無視しよう。なになに、ここから北の大森林に集落があり、最近何故か魔王と名乗る者から傘下に入れと強要され始めたと言う。断っているがこの頃狩場を荒らされて困っているらしい。そんな時に猫姫の噂を聞き、何とか助力を乞いたいとの事だ。使いに出した四人は多少扱いづらいが腕は確かなので、猫姫の親衛隊にでも加えて欲しいと書かれている。ていの良い厄介払いのような気がするが……邪推か?



 レイアからニーニャを抱き受け手紙を渡した。



「君達は手紙に書かれている事は知っているのかな?」


「おおよそは聞いてるでござる。後は猫姫の指示を仰ぐように言われているでござる」


「手紙の内容は了解した。魔王絡みと言われればこちらとしては断る理由は無い。君達にしても長老からの頼みでもある事から、猫姫の親衛隊になってもらう。何か異存は?」



「「「「……」」」」



「無言は肯定と取るが良いか?」


「「「「おぉー!」」」」


「親衛隊にゃ!」


「猫姫様に忠誠を」


「私の剣を捧げますわ」


「ニーニャ、許しが出たぞ。好きにして良いんだって」


「ねこしゃん!」



 パァっと走ってトラ以外にスリスリし始めた。トラ、デカ過ぎてニーニャ届かないからな。



「にゃんですかぁー」


「モテル男は辛いものだ」


「うみゃー。なんですのこのお子ちゃま!」



 ん? 今、聞き捨てならない事を口走った猫がいたな。



「何ですって。その子が猫姫だぞ」


「にゃ、にゃんですとー!」


「なんて事だ……」


「嘘……」


「……」



 皆一様に驚いている。もしかしてニーニャ以外にも猫姫って居るのか?



「誰だと思った?」


「貴殿の娘かとにゃ……では、そちらのお方はどなたでござるにゃ」



 完全にござる口調が崩壊している。ちなみにそちらのお方とは、さくらの事のようだ。



「そう言えば自己紹介がまだだったな。ルーク・セブンスランクだ」


「レイアリーサと言います。その子、ニーニャの母です。レイアと呼んで下さい」


「それから、この子はさくらニーニャの姉だ」



 三獣士は目を丸くして驚いた様子だ。


 うちのメンバーも三獣士に負けず劣らず複雑だったな。





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