106 ルーク、決めます!
暗闇の中、一陣の風になる。なる、と言うよりならされてる?
今俺はドラゴントルーパーの後ろに落ちないように、ロープでグルグルと固定されている。時速80キロは出ているだろうか? 既に瀕死状態、声も出ない。
何故かって? そりゃあ、風を遮るものが無いからだよ。ドラゴントルーパーは骨、スカスカだ。時速80キロで風を直に受けたらどうなる? 息ができない……。
全く持って盲点、何とかレンジャーコートのフードを深く被り下を向いて息をしている。フードが風で剥がれたら死に戻り確定かな? それとも気絶で済むのか? 試す気はない。今この場所こそが俺に取ってのフロントラインなのだから。
なんとなく格好良く言ってみたが、本音は死に戻ってまたこれを繰り返すのは嫌だぁー!
何度、気を失い掛けたか忘れたが、気付けば目の前に骨トカゲが居て俺を覗き込んでいる。
「おっわぁ!」
「……カタカタ……」
どうやら俺は木に寄り掛かっているようだ。気を失ったのだろう? 危ねぇー。
骸骨と骨トカゲがこちらを見ている。
「ご苦労。助かったよ。気をつけて帰れよ」
「……ケタケタ……」
お前もな。って、感じでなんか馬鹿にされているようで、なんかムカつく。
時間は真夜中をちょっとだけ過ぎたくらいだ。門に向かい見張りの衛兵に声を掛けた。
「おいおい。こんな時間でよく無事だったな」
「イヤイヤ、えらい目に合いましたよ。死ぬかと思いました」
「運が良かったな。ハンターか?」
「いえ。許可証の発行をお願いします」
「ハンターじゃないのか? 最近多いなそう言う旅人」
衛兵さんにお金を支払い許可証を発行してもらった。
「こんな夜分だがノインスに良く来た。歓迎するぞ」
衛兵さんにお礼を行って転移ゲートを探す。街道都市だけあって大きな街だ。街道都市はクルミナ聖王国の王都ヘルネの東西南北にあり、ノインスは王国東側の重要拠点となっている。
ここのハンターギルドを弱体化させれば、自ずと南のイーリルのハンターギルドも弱体化する事になる。
さあ、転移ゲートはたいてい街の中央にある。さっさと見つけて帰ってログアウトしよう。
翌日ログインするとうさ子がダレていた。テーブルに顔を載せ目だけ動かしてこちらを見るが、体はピクリとも動かさない。どうやらファル師匠に無理やり修行させられたみたいだ。完全にやる気無しモードに入っている。
ファル師匠と言えば
ファル師匠に挨拶をしてから、レイアにノインスに行くか聞く。
「行けるなら現状把握だけでもしに、行きたいです」
「了解。準備ができたら声を掛けて」
「はい。わかりました」
「ニーニャは何を食べているのかな?」
「たまご」
卵掛けご飯だな。自分も同じものをアルファに頼む。醤油はちゃんと卵掛けご飯専用の醤油だった。なかなかやるじゃないかうちのクリスタルは。
レイアの準備ができたようなので、ニーニャとさくらを抱っこして転移魔法を使いノインスに向かった。
うさ子は動く気がないようだし、ペン太はカーちゃんの所に行ったようだ。君達ってふりぃ……いや、よそう。
ノインスの転移ゲート広場は多くの人々で賑わっている。
レイアがゲート登録をしている間、俺達はベンチに座っている。ニーニャとさくらは両手を繋いで謎のボディーコミュニケーションを取っている。何か通づるものがあるんだろうな。試しに加わってみたが、わからなかった。
「おい。あれ猫姫じゃねぇ。めちゃくちゃ可愛いんですけど」
「えぇー、マジで。とうとうノインスにも、猫姫幼女女神様がキター!」
「お嬢さんを僕にください!」
「おいやめろ! それやった奴の末路知らねぇのかよ」
「俺知ってる。実際に見てた。どこからともなく獣人族の人が集まって来てどこかに連れて行かれた……その後その男を見た者はいない」
怖ぇーよ。獣人族の皆さん何やってんの、
そう思っていると、急に見知らぬ獣人の女性が声を掛けてきた。
「何故、貴方は猫姫と居るのですか。レイア様は何処にいらっしゃる?」
「ニーニャと一緒に居ると何か不都合でも?」
「貴方はヒューマンのようだ。ヒューマンが何故、猫姫と居る」
「レイアだって獣人族じゃないぞ」
「レイア様を呼びつけにするとは、不埒者め!」
何なんだこの馬鹿女は、ニーニャやレイアを崇拝しているような言い方は気にいらない。
「お前何様のつもりだ。ニーニャを抱っこしてレイアをレイアと呼んで何が悪い」
ニーニャが難しい顔をしている。機嫌が悪い時の顔だ。俺にじゃないよね、ニーニャさん?
さっきのプレイヤーの話ではないが、いつの間にかプレイヤーが居なくなり、獣人達が集まって俺の周りを取り囲こんでいる。街中だから戦闘もできないし、どうすりゃ良いんだ?
睨み合いの中、突如難しい顔をしたニーニャが声をあげる。
「みゃまー!」
丁度、ゲート登録を終えたレイアが近づいて来ていたようだ。
「どうしたんですか! 一体!」
「「「レイア様!」」」
気にいらない。こう言うのは大嫌いだ。レイアは関係ないのかもしれないが、こう言う事が起こってしまうとレイア自身がこう言う事が起きないように気を付けなければならない。
「レイアは猫姫教でも起こすつもりか?」
レイアに対してこんな冷めた言葉を掛けたのは初めてだ。
レイアも緊張しているのがわかる。
ニーニャとさくらもミミとシッポをピンと伸ばして緊張している。
「……どう言う意味でしょうか?」
「こいつらは何だ。猫姫、レイア様と女神でもを崇拝してるような。レイアは教主どころか神にでもなるつもりか?」
「……そんなつもりはありません」
「ならこの馬鹿共はなんで騒いでいる?」
「彼らは協力者です。彼らの力を借りなければハンターギルドを倒せません」
「倒して宗教でも創るつもりか?」
「そんな事考えてません!」
「見てみろこいつらの目を、狂信者の目だ。自分だけでは何もできないから、誰かに縋り依存する。レイアは縋り依存されている事に気付いていないのか? それともわかった上で、それを利用してこのまま続けるつもりか?」
「……」
レイアは下を向いて黙ってしまった。
「猫姫様、レイア様と言っていれば選民思想的優越感に浸れる。こんな状況でギルドを潰しても結局、同じようなギルドができるだけだぞ」
「にーに! いじめちゃ、めっ!」
ニーニャがポカポカと胸を叩いてくる。いじめてるようにしか見えないよな。しかし、これは大事なこと、うやむやにして良いことではない。うー、でも心が痛い。
「アハハハ……ごめんにゃ。レイアさんだけに押し付けちゃったみたいだにゃ」
確か、クラン【ワイルドあにまるズ】のマスターのあみゅーさんだっけ?
「あみゅー。にーににめっ」
「ニーニャちゃん。違うんだにゃ。にーにはいじめてるんじゃないにゃ」
「ちがう?」
「そう違うにゃ。レイアさんが間違った事をしないように注意してたにゃ」
「ちゅうい?」
レイアは唇を噛んで必死に涙を我慢している。嫌われたかな……。
「ほら、あんた達とっとと散りにゃ。言っとくけど後でお仕置きにゃからね!」
獣人族の方達はブーブー言って、散って行く。
「場所、変えるにゃ」
連れて来られたのはクラン【ワイルドあにまるズ】のホームだった。ノインスにあったんだな。
【ワイルドあにまるズ】は獣人族とハーフの獣人族しか加入できないクラン。あみゅーさんは語尾ににゃを付けているがキャトール(猫獣人)ではない。レア獣人のハーフパンサール(豹獣人)だ。哺乳綱食肉目ネコ科には違いないんだけどな。だから気にしない。気にしちゃ駄目だ。
レイアはあれから一言も発していない。今も椅子に座り下を向いたまま両膝の上で拳を握っている。
ニーニャのご機嫌は直ったようだ。あみゅーさんに抱きついて笑っている。さくらも一緒だ。
「申し訳ないと思ってるにゃ。レイアさんに任せっきりになってしまったにゃ。セイや更紗にもちゃんと言っとくにゃ。レイアさんも気にしちゃ駄目にゃ。ルークは本気で怒った訳ではないにゃ。ひとつの危惧として言っただけにゃ?」
何故、そこ疑問形になる。要らぬ疑いが掛かるだろう。何か声を掛けた方が良いのだろうが、何も思いつかない。ポンコツブレインめ!
「かっています。ルークが本気でそんな事を言わないのは……戒めとして語った事くらい」
「なら問題ないにゃ。一件落着にゃ」
「……駄目なんです。このままでは。両親に背いて迄ルークとさくらちゃんの傍に居ると誓ったんです。だから少しでもルークと並んで歩けるようになりたくて……」
ありゃ? もしかして俺のせいですか? さくらの傍に居てほしいと言ったけど、レイアにとっては大きな重圧だったのか……。
それにしたって自分と並んで歩く為って、逆に置いて行かれないように頑張っているのは俺なのに……。
「あー、ルーク。あちし、ちょっと席外すにゃ。ここは男を決める所にゃ。絶対に外しちゃいけないにゃよ」
そう言ってニーニャとさくらを連れてどこかに行ってしまった。
困った。あみゅーさんの言ってる事はわかっているさ。わかっているけど、なんて言ったら良いんだ。頭の中が真っ白だ。
日本人ってこんな時上手く立ち回れないんだよな。って、日本人の事はどうでも良いんだよ。今はそんな事を考える時じゃないんだ。何やってんだ俺……。
あみゅーさんも言ってた、ここで決めろと。ここで決めないとレイアは自分の傍から居なくなる。
チキショウーこうなりゃ
レイアの後ろに移動する。レイアがピクンと反応した。そんなレイアを後ろから抱きしめる。無口に蕎麦……もとい、匕首に鍔なのはわかっている。でもやるしかない。いや、やらなきゃいけないんだ。
「ごめん。そんな
「私は力もなく無知な女です。ルークには釣り合いません……」
釣り合わないって……世の中の人、十人に聞けば十人が俺の方が釣り合わないって言うと思う……悲しいけどこれ現実なのよね。
「レイアに見捨てられたら、俺立ち直れないよ……。レイア、好きだ。愛してる。ずっと俺の傍に居て欲しい」
「私などで良いのですか……」
「君じゃないと駄目なんだ。レイア」
向こうを向いたままのレイアを自分の方に向かせ、ちょっと強引にキスをする。
「私は卑しい女です。拒むべきなのに、喜んでいる自分がいます」
「喜んでくれているなら、勝算ありかな?」
「ルークはズルイです……本当に私がルークの横を歩いて良いのですか?」
「横どころかこちらからお願いして、レイアの後ろをついて行くのがやっとだよ」
また、レイアにキスをする。今度はちゃんと抱き合ってな。まぁ、これでレイアとの距離が一歩近づいたかな?。
さて、これ以上は見せる気もなければ話す気もない。覗き見されるのは不愉快だ。消えてくれ。な、わかるだろう? お邪魔虫さん。
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