103 レアモンスターラッシュラビット

 待ち合わせの時間になり西門に着いてから気付いてしまった。



「おはようございます。師匠。うさ子ちゃん。さくらちゃんは居ないんですね」


「おはー」


「キュー」


「挨拶は基本だぞ、馬鹿弟子。リンネ、おはよう。お前達、今いくら持ってる?」



 ふたりは不審な顔をしながらも教えてくれる。



「足りない……」


「何がだよ? 装備買ったから、金なんてねぇよ」


「だよなー。ルグージュだけじゃないんだが、街の出入りに金が掛かるんだよ」


「えぇー。聞いてねぇよ」


「昨日、説明されなかったか?」


「そう言えば、人頭税が必要だとか何とか言ってたような……」


「ハンターギルドに加入すると無税なんだが、クランの方はまだ交渉中なんだよ」


「私、聞いてませんけど……」


「リンがクランの人の手伝いに行った時の話だったような……」


「もう、ユウちゃん。だから言ったでしょう。ちゃんと話聞いといてねって!」


「ごめん。それからちゃんはやめろ」



 説明は受けているようだ、ユウのミスと言う事になるな。これは連帯責任だな。



「仕方ない。ちょっときつくなるが、裏技を使おう」


「おぉー。裏技良いねぇ」


「だ、大丈夫なんですか?」


「モンスターのレベルがこの辺より強くなるが、俺もうさ子も居るから大丈夫だろう」



 一度、イノセントハーツの砦に行き砦の門から外に出る。ここはノインスの北、普通ならルーキーを卒業したプレイヤーが来る場所だ。明らかに格上相手の戦いになるが、うさ子と俺が居れば強制レベルングができるだろう。



「良いか、お前たちのレベルが上がるまで、俺はパーティーに参加しない。俺とうさ子でモンスターを瀕死に追い込みお押さえ付けるから、止めを刺すんだ」


「任せろ!」


「頑張ります」



 二人供レベル5、スキルもふたつしか持ってない。この辺のモンスターはレベル20以上だろう、一撃喰らえば死に戻り確定だ。


 そんな二人を連れて死者の都方面に歩いて行く。


〈グラスウルフ ♀ Lv24〉が一体だけでうろついているのを見つけた。



「うさ子はけん制、俺が攻撃してHPを減らす。瀕死になったらうさ子は後ろから押さえ付けろ。俺は前の方を押さえる。後は二人が止めを刺せ」


「「はい」」



 忍者装備に変える。マスクとコートは装備しない。武器は鋼の槍。


 ライトバレットを放つ。グラスウルフに当たりHPを三割弱減らした。このレベル差でやっと並みの攻撃力だ、泣けてくる。


 槍で攻撃しながら軽く蹴りを入れたりして、グラスウルフのHPを調整する。



「うさ子! やるぞ!」


「キュッ!」



 一斉に飛び掛かり、うさ子は後ろ足をホールドした。自分はヘッドロック状態で全身で押さえ付ける。グラスウルフが涎を撒き散らしガウガウ言っている。汚ねぇーよ。


 弟子ふたりはグラスウルフの両脇に移動して、ユウはえい、やあ、とう、と銅の剣を振るい、リンネはウインドバレットで攻撃してるが全然HPが減っていない。



「まだかぁー」


「きゅ~」


「もう少し……」


「頑張ります!」



 流石に五倍のレベル差は無理があったかな……結構な時間が過ぎている。


 不意に押さえ込んでいた感触がなくなる。倒したようだ。


 うさ子と自分に浄化を掛ける。グラスウルフは汚いしユウの攻撃でうさ子も自分も返り血で汚れていたからな。


 二人はレベル12になっていた。



「すげぇー。一気にレベルアップだ」


「これで良いんでしょうか……」



 リンネ君、深く考えてはいけません。話をちゃんと聞いていなかったユウが悪いのと、貧乏なのが悪いのです。


 これを四回程繰り返した所で、二人のレベルが20を超えた。



「よし、ここからは俺もパーティーに参加する」



 ふたりのパーティーに入ると、五割強ステータスが下がっている。成程、弟子よりは少し強めに修正されるのか。何故かうさ子のステータスは変わらない。当たり前だ、うさ子はテイムモンスターじゃないからな。これだとうさ子のレベルのせいで経験値がほとんど入らなくなる。仕方ないのでうさ子にはパーティーから外れてもらおう。モンスターのけん制だけしてください。後、危なくなったらよろしく。うさ子姐さん。



「キュッ」


「うさ子ちゃんはパーティーに入らないのですか?」


「うさ子はレアのせいか、ステータスが下がらないようでね。うさ子をパーティーに入れたままだと経験値が入らなくなるんだ」


「残念です」


「役割はどうする。自分は万能タイプだからどこでも良いぞ」


「私は後衛の魔術師タイプです」


「俺は……どうしたら良い?」


「もちろん、リンネが後衛ならユウは前衛に決まってるだろう。まあ、攻撃タイプか防御タイプにするかは決めないとな」



 ユウは迷っているようだ。前衛の攻撃タイプはパーティーの花形だが、後衛のリンネを守る騎士になりたいなら防御タイプだろう。


「これから、どんなパーティーにしていきたいか考えれば良い」



 そこで三人で話し合った結果、リンネは魔術師タイプのテイマーを目指し、ユウはリンネを守る騎士でタンクを選んだ。俺の立ち位置はリンネがテイムした攻撃タイプのモンスター役だ。ユウは盾を持っていなかったので、予備装備の中から黒鉄の盾と言うのを渡しておいた。正直、今の実力では不相応の代物だけどな。他に無いから仕方がない。


 レイントードを見つけたので戦闘をしてみる。俺もオメガとの訓練で覚えた内功スキルを重点的に上げていきたい。


 リンネが最初に魔法で攻撃を仕掛ける。リンネにヘイトを向けたレイントードは一気にジャンプしてリンネに舌をのばし攻撃をしてくる。ユウが盾で受け止めた隙に、俺が試しに格闘スキルで攻撃をする。良い感じでダメージを与えている。これは弟子の訓練だからやり過ぎないように注意しよう。


 最終的にリンネが止めを刺した。



「感じは掴めたかな?」


「この盾が凄すぎて良くわからん」


「良い感じです。早く良い子をゲットしたいです」



 途中昼食を挟み死者の都に向かっている。あれから二度戦っているが良い感じだと思う。経験値は自分が入ったので多く得られないがスキルレベルは上がっているようだ。



「そう言えば俺達、どこに向かってるんだ?」


「この方向だと死者の都ですか?」


「砦から歩きで死者の都には一日で着くんだ。今日は死者の都で一旦ログアウトして明日の朝から少し迷宮を回ってみようと思う」


「ですが、死者の都だとモンスターが強すぎるのではないですか?」


「俺はやるぜ!」


「俺は、アンデット特化型なんだよ。多少レベルが低くても問題ないと思う」


「万能タイプって言ってなかったか……」


「うるさい。基本的には万能なんだよ。その上でアンデットが得意なの」


「どうしてアンデット特化なんですか?」


「魔法(光)を持ってるからだ」


「師匠ってヒューマンだよな?」


「ユウ。いいか、それ以上なにか思っていても口に出すなよ」


「アハハ……勇者になれねぇじゃん!」



 こいつ言ってはいけない事を口にしてしまったな。あれほど注意したのに……天誅。ユウの頭のこめかみに両拳でグリグリしてやった。



「痛でっ! イデデデデェー。ギブッ、ギブアップ! リン助けろー」


「自業自得だよ。ユウちゃん……」



 ふと、草むらを見た時、〈ラッシュラビット ♂ Lv1〉と出た。



「静かにしろ!」



 急にマジ声を出したので、ふたりは固まった。



「うさ子、気付いたか?」


「キュ~? キュッ!」



 どうやら気付いたみたいだな。



「ラッシュラビットが居る。どうする?」


「どうするとは?」


「私まだテイムスキル持ってません」


「試す価値はあるんじゃないか? 俺がうさ子と会った時もテイムスキルは持ってなかったぞ」


「そうなんですか。でもどうすれば良いか……」


「仲間になって欲しいって想いをぶつければ良いと思う。リンネがやらないなら、俺がやるぞ」


「やります!」



「よし、俺とうさ子、ユウで逃げられないように三方を囲む。後はリンネ次第だ」



 一番奥側には自分が移動する。うさ子は足場の悪い方を担当する。ユウは守りやすい場所を任せた。準備ができたのでサインを送る。



「ウサギちゃん! 仲間になってぇ!」



 どストレートな想いを叫んだな。ウサギがビックリして逃げだそうとしている。うさ子は殴り掛かって来たのにな。今となっては良い思い出だ。


 ラッシュラビットは三人で周りを囲んでいる事に気付、リンネの方に逃げ出す。


 リンネはどうするかなと思ったら、予想外の行動に出た。ラッシュラビットに飛びつきしがみついたと思ったら、しっかりホールド……もとい抱きついて離さないようだ。



「キュー! キュー!」



 ウサギは必死に逃れようとするが、リンネは離さない。だんだんウサギの声が弱まってくる。リンネの表情が急に明るくなった。



「きゅるるるぅ~」


「テイムに成功しました!」



 マジですか……あれで良いの? 抱きついていただけだよ。更紗さん泣くんじゃないの。


 リンネとウサギに浄化を掛けてやる。



「わぁ。モフモフだぁ」


「キュピ」


「名前を付けてあげないとな」


「ムウちゃん! 決めてました」


「キュピッ!」


「気に入ったらしいな。ユウだ。よろしくな」


「キュピ!」



 どうやら問題ないようだ。と思ったら徐にうさ子がムウちゃんの前に立つ。なんです? うさ子姐さんる気ですか? と、思ったらムウちゃんに野菜のおすそ分けをしていたようだ。姐さん優しいな。


 ムウちゃんは怪訝な顔でうさ子からもらった野菜を一口食べた瞬間、時が止まったがの如く動かなくなった。やっと動きだしたと思えばうさ子の下半身にしがみついている。


 うさ子は腕を組んでドヤ顔。しゃーない、舎弟にしたるやさかい、頑張りやぁ。と言ったとこだろうか? 流石、姐さん半端ないっす。


 ムウちゃんはリンネとうさ子に挟まれ手を繋いで歩いている。ハーレムじゃねぇ。なんかムカつく。


 などと思っていたら〈ラッシュラビット ♂ Lvxxx〉を見つけてしまった。ラッシュラビットってレアじゃなかったっけ?


 皆を静かに集めて相談。



「次は自分がやる。一旦パーティーから外れるぞ」


「どうして外れんだ」


「うさ子が緊張している。お前達とパーティーのままだと、ステータスが下がったままだからな。お前達は離れて見てろ」



 ムフフフ。レアモンスターが連続で出てくるなんてラッキーだ。レベルも見えない、もしかしたらレアの更にレアかもしれない。イヤイヤ、ユニークかもしれないな。


 やっと俺のテイムモンスターが手に入るのだ。ワクワクが止まらない。いかんいかん。こう言うのを沖な物当てと言うんだよな、気を引き締めていこう。


 うさ子準備は良いか、挟みうちで行くぞ。うさ子が配置についたのでライトバレットを放った。



「なんじゃー! 年寄りに向かってなんて事をするんじゃ! これだから最近の若者はなっとらん!」



 な、なんですか? 


 突如現れたのは、小汚い道着を着たムキムキマッチョのウサギの耳を付けた爺さんだった!




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