98 ハンターギルドへの募る不信感

 朝、起きて日課のオメガとの訓練を終えて風呂に入る。



「朝風呂は人間を駄目にするなぁ」


「……そうなのか」


「ウワッ! デルタかビックリした……」


「……驚かせたか」


「いや、大丈夫。今までどこ行ってた」


「……北の方を見てきた」


「なにか目星いものでも?」


「……荒れていた」


「国が?」


「……全てが。何かがあるのだろう」


「わかった。情報を集めさせる。ところで……」



 昨日のギルドでの出来事と孤児院での事を話し意見を聞いてみた。



「……いつの時代も変わらぬ。不幸になるのは弱者のみ」


「仕方ない事だと言いたいのか?」


「……ならばお前が変えれば良い」


「……」



 風呂を上がり部屋に行くとみんな朝食中。


 ニーニャが自分を見つけると食事中にも関わらず、走ってきて足にひっしっとしがみついた。


 そのニーニャを抱き上げると、ほっぺにチューしてくれ猫ミミがピコピコせわしなく動いている。洋服も新しい黄色のワンピースになって良く似合っていて可愛い。



「にーに。おちゃよー」


「はい。おはよう」



 なんて可愛いエンジェルだ。もちろんお礼にほっぺにチューをする。朝食中だったのでレイアの横の席にニーニャを座らせた。


 今度はさくらが飛んできて顔ペロしてきたのでほっぺにチューを返そうとしたら、またしてもアルファが邪魔してきた。



「ルーク様、朝食の用意が済んでいますので、冷める前にさっさと食べやがれ、でございます」



 うっ……一瞬、魔王ラヴィーちゃんが見えた気がした。あなた達、もしかしてお知り合いなんて事ありませんわよね。ガクブル……。



 取り敢えず朝食を食べ、降魔神殿内の住人にニーニャをお披露目に行くと、いつもの場所でメイドに膝枕されたオール達を見つけた。


 怖がるかなと思ったが、案外平気そうだ。



「オール。ちょっと良いか」


「おぉ。あるじ殿、何用ですかのう」


「新しい住人のニーニャだ。さくらの妹分だと思って接してくれ」


「ミャー」


「おぉ。そうですかのう。可愛らしいお子ですのう」


「ニーニャ。こっちはオール。見た目はあれだけど怖くないからな」


「おーりゅ」


「おぉ。そうですのう。何とも愛らしいですのう」


「子供も可愛いな」


「そうだな死んだ娘を思い出す」


「幼女も良いかも」


「そんなオプションあるのか?」


「知らん。だが、調べる価値はありそうだ」


「「「「「やんや、やんや」」」」」



 あの屑ども、またくだらない事を考えてるな。懲りない奴らだ。


 大広間に行くとデルタが椅子に座っていた。この場が定位置になったみたいだ。



「……その子がさっき言ってた子か」


「ニーニャ。この人はデルタ」


「でるにゃ」


「フッ……」



 何も言わず口元をちょっとだけ釣り上げ、ニーニャの頭を優しく撫でる。案外子供好きか?


 最後はクリスタルの部屋だ。中に入ると羊の執事が居た……。


 ニーニャがフリーズした。



「オメガ……なんの冗談かな?」


「冗談? 何を仰られているのですか? これはそのう……何と言って良いのか、何とも形容し難い思い。敢えて言うなら、クール! 私を形造るアイデンティティーの一つでございます」


「あっそう……まぁ良い。この子が朝練の時話した、ニーニャだ。さくらの妹分だからな」


「ミャー」



 オメガが羊の被り物を脱いで。眼鏡を拭き、キリっとした顔で礼をとる。



「ニーニャお嬢様ですね。オメガと申します。何なりとご用をお申しつけください」



 ニーニャがフリーズから立ち直った。



「ひつじ」


「いえ、オメガにございます」


「ひつじ」


「……」


「諦めろ、間が悪かったんだ。いつかわかってくれるさ……」


「お嬢様! 今日からオメガは『ひつじ』でございます!」


「ミャッ!」



 あー。そうきたか。さくら信じちゃ駄目だからね。無視しなさい、無視。



 そろそろ孤児院に行こう。レイアを連れ孤児院に向かった。



「今日は何の御用ですかな」



 院長の横柄な態度が鼻につく。



「私の友人が丁度人を探してましてね。昨日ここであった少女が条件にぴったりでして、昨日話をしたら彼女の他にも同じ位の年の子が二人いると聞きまして。彼女達の為にもなりますし、友人が引き取りたいと言ってます」


「な、なにを言ってる! そんなことできる訳がないだろう」


「何か問題でも」


「す、既に働きにでる場所が決まっているのだ」


「彼女達はまだ未成年者と聞いていますが、働く場所が決まっていると?」


「後、数ヶ月すれば十六歳になる。今から決めても問題なかろう」


「この孤児院が慈善団体ではないのは知っていますが。あなた達のやっている事は人身売買ですよ。許される事だと思っているのですか?」


「わ、儂は知らん、儂は言われた通りやってるだけだ!」


「近々、新しい孤児院ができるのをご存知ですか? もちろん非営利団体です」



 そう、新しい孤児院を作るのだ。昨日、送ったメールの返信が届いていて、更紗さんが発起人として大小のクランに孤児院建設の為に声を掛けてくれたのだ。


 元々、セイさんや更紗さん、あみゅーさん達は今のハンターギルドに不信感を抱いていたらしい。今回の件で更に疑惑が増し、近々ハンターギルドに対して抗議及び情報開示を要求する段取りにまで進んでいるとの事。




「そ、そんな事は聞いていないぞ!」


「ギルドに対しても、何等かの対処を求める抗議文も出されるようです。叩けば色々出てきそうですね。それでは彼女達は私共の方で引き取りますので」


「か、勝手にしろ! ……(どうする逃げるか)……」



 この院長は食える献立……もとい、蛙の願立てを教訓にできなかったタイプだな。院長は顔面蒼白で足がカタカタいってる。おそらく数日中に消えるな。


 部屋を出るとあの子が立っていた。



「心配ない。上手くいったよ」


「ほ、本当ですか?」


「ああ。只、当分孤児院はゴタゴタすると思う。下の子達にいつも通りに生活するように言い聞かせてほしい。レイア、明日から当分孤児院の件お願いできるかな?」


「もちろんです。任せてください」


「何かあれば、オメガに相談して」


「わかりました」



 一時間程、彼女達が残っている子供達に言い聞かせた後、出て行く準備をしてもらった。その間、孤児院の子供達に持ってきたお菓子を配って食べさせたり、レイアと手分けして子供達に浄化を掛けていった。幸い、病気の子供などは居なかったのでホットした。


 しばしの間、彼女達と子供たちが別れを惜しむが、きりがないのでかわいそうとは思ったがルグージュに転移する。


 彼女達は急に目の前の風景が変わってビックリしていたが、俺は気にせず歩き出す。



「ルーク。どこに連れて行くのですか?」


「マクモンさんとコリンさんの所」


「マクモン兄さんとおばさまの所ですか?」


「取り敢えず、お願いしてみる」


「何をですか?」


「なにをって、この子達の事ですけど」



 レイアは良くわかってないようだ。まあ、行けばわかるさ。


 穴熊親父の山小屋に行き、強引にマクモンさんを連れだしコリンさんの家に来た。



「キュッ!」


「クェー」



 何故、お前たちが居る。それも我が家のようにくつろいでいる。いつの間にかソファーがあるし、アルファだな……。



「あらあら、どうしたの? その子は誰?」



 コリンさんはレイアが抱っこしていたニーニャを受け取り抱っこした。



「まぁ、なんて可愛らしいお嬢さんかしら、お名前は?」


「にーにゃ」


「ニーニャちゃんて言うのね」



 ニーニャは少しはにかみながらも、コリンさんにギュっとしがみつく。



「おばさま。その子は私が引き取り、私の娘になりました」


「あらあら。レイアの子なら、私はばーばね」


「ばーば?」


「そうよ。ニーニャのおばあちゃんよ」


「ばーば!」



 ニーニャは満面の笑みを見せ、コリンさんにスリスリしてる。俺には見せないデレかただな。羨ましい。



「俺はなんで連れて来られたんだ?」


「嫌だなー。ちゃんと用事があるから連れて来たんじゃないですか」



 二人にこれまでの経緯を話して聞かせる。



「胸糞悪い話だな。それが本当ならハンターギルドは許せんな」


「それで、私達はなにをすれば良いのかしら」


「ハンターギルドに関しては、他の人達が動いています。お願いしたいのはこの三人娘です。読み書きはできるようですが、まだまだ人前に出せる程ではありません。将来的な勤め先は決まってますが、向こうの準備がまだできていないので、マクモンさんの所で行儀見習として使って欲しいのです。もちろんお金はいりません」


「私はなにをすれば良いのかしら」


「この子たちをコリンさんのお宅で面倒見て頂きたいのです。コリンさんなら安心してこの子達を預ける事ができますし、世間一般の常識なども教えてもらえれば助かります。もちろん宿泊代や食事代もお支払いします。いつもうちの者達がお世話になってるようですし」



「キュー」


「クェー」



 なんだその良きに計らえ的な言い方は……お願いしますだろう、お願いします。


 君達、失礼だよ。




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