97 レイア、ママになる

 降魔神殿には転移で戻ってきた。


 さて、何と説明しよう。


 さくらの部屋に戻ると既にみんな揃っている。



「い、いつの間、子供を作っていたんだ……ルーク」



 ダイチくんお約束ありがとう。違うからな。



「すまないが、少しの間静かにしていて欲しい」



 レイアを見る。レイアも自分を見つめて頷いた。


 コップにアポンジのジュースを入れ、レイアがニーニャの口に少しづつ含ませる。少し経つとコクコク飲み始めた。そして気付いた、いつもの場所に居ない事に。



「みゃま~! みゃま~!」



 急にレイアの腕の中で暴れ始める。レイアはそれでもしっかり抱きしめている。


 それが少しの間続いた。



「みゃま~はどこ?」



 唐突にニーニャが問いかけて来た。レイアは涙を溜めたまましっかりとニーニャを見据えて答える。



「ニーニャのママは遠い所に行って、戻て来れないの……」



 苦しい言い訳だ。だが自分も同じ事しか言えないだろう。何とも口惜しい。



「みゃま~に会えにゃいの?」


「ニーニャが大きくなったら会えるわ。きっと」


「うぇーん……みゃま~」



 ニーニャも母にもう会えないと本能ではわかっていたかもしれない。だがまだ三歳だから、そんなこと理解できるはずがない。


 レイアは更にギュッと抱きしめる。



「今日から私がニーニャのママよ」


「みゃま~?」


「そう、ママよ。いつまでも一緒」


「みゃま~!」



 うっ、ヤバイ。目から水が溢れてきた。みんなを見れば同じような状況だ。まりゅりゅなど鼻水まで垂らして、カーちゃんで拭いている。後で一緒に風呂に入れてやろう。



 感動の場面の中、アルファだけは黙々と食事の用意をしている。が、俺は知っている。見られないように後ろの方で、ハンカチで涙を拭いていた事を。



「皆様、食事の用意ができました。冷めないうちのお召し上がりください」



 ちゃんとニーニャ用にお子様ランチが用意してる所が憎い。


 さくらもネコ缶を食べ始め、アポンジのジュースも皿からチロチロ飲んでいる。


 レイアはニーニャにお子様ランチを食べさせ始めた。さっきまで泣いていたのが嘘のようにニーニャは食べ始める。一先ず安心かな。


 自分もさっさと食べレイアと代わろう。


 食べ終わりレイアに代わると言ってニーニャを抱っこする。ニーニャは固まっている。ピクリとも動かない。何故?


 さくらがピクリとも動かないニーニャに近づき、ほっぺをペロリとすると今まで固まっていたニーニャが動きだし、さくらを抱きしめる。



「にゃんにゃん」



 と言ってお互いのほっぺをスリスリし始めた。羨ましいので自分もさくらとスリスリすると、何と! ニーニャも俺とスリスリしてきた!



「にーに」


「にーに?」


「にーに」


「お兄ちゃんって意味じゃね?」



 成程、流石リアル兄貴持ち。



「ニーニャのにーに?」



 こくんと頷いた。あぁ、ここにまたひとりマイエンジェルが誕生。なんて暖かいリトルエンジェルだろう。可愛すぎてほっぺにチューしてしまった。ニーニャもちょっと恥ずかしそうにほっぺにチューしてくれる。さくらにもチューしようとしたらアルファに、さくらが連れ去られる。おい、ちょっと待てや人形!


 食事の後、各自自己紹介をする。ニーニャは女性に対しては人見知りする事はなかったが、ダイチの番になった瞬間レイアの後ろに隠れてしまった。リアル妹持ちとしては黙っていられなかったのか、半ば強引にニーニャを抱っこしたら



「みゃま~! みゃま~!」



 と大泣きされ、血の涙を流していた。


 以外だったのが、アルファに対して笑顔を振りまいていた事だった。アルファも気付かないうちにニーニャをお嬢様と呼んでいる。


 もうひとりのお嬢様うさ子はいつも通り、抱きつかれようが耳を引っ張られようがチューされようが平常運転。仲良くしてやってくれ。ペン太とカーちゃんコンビもどうやら問題なく仲良くなったようだ。


 女性陣はみんなでお風呂に行ったが、ダイチはまだ立ち直っていない。


 丁度良いので、セイさんと更紗さんに今日のギルドでの出来事と孤児院の事をメールしてみた。自分以外の意見を聞いてみたいからだ。



 女性陣が風呂から上がるとニーニャは流石に疲れていたのだろう、体が温まり眠くなってさくらと一緒に布団にくるまって眠ってしまった。


 立ち直っていないダイチとペン太、カーちゃんを連れて風呂に行く。カーちゃんに付いたまりゅりゅの鼻水でカピカピになった毛を綺麗に洗ってやったよ。



「ぷっはー。やっぱり風呂は良いねぇ。生きかえる」


「クエー」


「ミュー」


「俺っていったい……」



 風呂上がり、ペン太とカーちゃんと俺はフルーツ牛乳を飲み、ダイチにはビールを渡しておいた。情けだ。


 部屋に戻るとレイアは既にニーニャを連れて部屋に戻っていた。完全に母親モード、ちょっと寂しい。残りは酒を飲んでる。自分達の部屋で飲めよ。ここは居酒屋じゃないんだぞ。席に座るとルービーが出てきたので飲んだけど。なにか?



「それで、クランの申請は問題なく?」


「えぇ、済んだわ」


「名前は?」


「イノセントハーツ」


「純真な心達?」


「世慣れしてないって意味もある」


「この世界でこれから活躍していく人達と相互協力し合って、お互いを高め合うのが目的」


「種族もー、問わないしー」


「職業もなんであれ構わない」


「助け合う気持ちこそが大事じゃん」



 成程、そうやって鮑とつぶは闇夜のブツ……もとい、粟一粒は汗一粒の如く、ひとつひとつ実を結んでいければ良いと言うことか。



「良いんじゃないですか。では、イノセントハーツに正式に同盟を結んで頂きたいのですが、どうですか?」


「もちろん。喜んでお受けしますわ」


「……同盟ってより下部組織じゃね。うちらほとんどルークに金銭面、おんぶに抱っこじゃん」


「「「「……」」」」



 まぁ取り敢えず。カンパーイ。




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