94 姐御の買い物には要注意

 ログインした。


 ダゴン様は先日、お帰りになられたみたいだ。


 帰る際にさんざん駄々をこね、お付きにしていたメイドドールを連れて帰ったそうだ。何やってんだあの方は……。


 運営からメールも届いていた。ルグージュ防衛戦での功績が発表されている。もちろん、俺が個人の部累計功績ポイントで一位だった。当たり前だな、レイアのポイントもうさ子のポイントも、更にはオールやデルタ達のポイントも全て自分に入ったのだから。ポイント数は各自にしか公表されていないので、他の人達がどの程度なのかわからないが、ダイチの千倍以上あったので間違いない。


 個人の部の二位にあみゅーさんが入っていたのが謎だ。


 クランの部は一位に【ウィズダムグリント】二位に【シルバーソード】三位が【ワイルドあにまるズ】。特別賞にカイエンさんが上がっていたのが流石だな。美味し所、総取りって感じだ。


 報酬は累積ポイントで加算されるらしく、金貨五万五千枚実際に渡されるのは白金貨五千枚と金貨五千枚。討伐報酬としてドラゴンオーブ4個貰ったが、ヒューマン使用不可になってた為、降魔神殿で壁に投げつけた……。

 投げつけたドラゴンオーブをオールが拾い、どうしても欲しいと言うのでひとつあげた。ちなみにレイアにもさくらにも使用不可だった。プレイヤー専用みたいだな……ヒューマン以外のね。


 ドラゴンオーブ、今はさくらのおもちゃになっている。真球なのでよく転がる。闇のオーブも一緒に遊ばれてるな。四つあるのでおはじきみたいに、さくらと幼生体達が遊んでいる。楽しそうで何よりだよ。



 今日はひなさんとダイチを連れて王都に行く予定。


 さくらもレイアもうさ子と一緒にコリンさんの所に行くので、自分ひとり。寂しくなんか……少しあるんだぞ。


 ひなさんとダイチを伴い商業ギルドを探すが、昼も過ぎてお腹が空いてきたので先に昼食を取る事にした。


 選んだのはダイチ、選んだ基準は可愛い店員さんがいるかのみ。悔しいがうまかった。ダイチが店員さんを口説きながら、商業ギルドの場所も聞きだしていた。彼女としての方は撃沈してたな。


 流石、王都の商業ギルドはデカい。デパートかと思ったよ。



 取り敢えず、受付で土地、建物の購入を考えている事を伝える。番号札を渡され待つこと三十分。番号が呼ばれ個室に案内される。



「土地をお探しと伺いましたが、どのようなご利用で」



 神経質そうな男性職員だ。明らかにこちらを見下してるのが、態度から見て取れる。


 横を見れば姐御ひなさんが仏頂面になってた。そして自分に目でれと合図してきた。怖ぇーなぁ。



「クラン設立の拠点が必要ですので、このギルドで一番高い物件見せてください」


「フッ、お客様辺りですとこの辺など如何しょう。クランの事務所としても居住区としても申し分ないかと」



 見せられた物件資料は王都の端も端、建物もどう見ても倉庫にしか見えない。



「人の話聞いてました?」


「えぇ、聞いてましたとも。最近多いんですよ。あなた達のような常識の無い人達がね。どれだけ持ってきたか知らないが、そんなはした金で王都の真ん中に、犬小屋だって買えやしない事に気付けと言いたいですな」



 ガッツーンと足に痛みが走る。姐御ひなさん勘弁してください。痛いです。マジで……。


 仕方ないですねぇ。扉を出て大きな声で叫ぶ。



「すみませーん! このクズ野郎、チェンジお願いしまーす!」


「き、君。何を言ってるかわかっているんだろうね。私を怒らせたら王都で物件を買えなくする事など簡単な事だぞ!」


「と、クズ野郎が言ってますが、これは商業ギルドの総意と受け取って良いのですね!」


「ま、待ちたまえ。何もそこまで言ってないだろう!」


「いや、充分言ってたでしょう……」



 ダイチくん、いつも言ってるがそう言う事は周りに聞こえるように言いなさい。


 流石に不味いと思ったか、男性職員に両手を抑えられクズ野郎が消えて行った。



「ゴホン。お客様には大変失礼をお掛けしました。ここからは私がお相手させて頂きます」


「あー、喉が乾いたわね。この部屋空気が悪いし、狭くないかしら」



 姐御ひなさん、怖ぇーよ。女性職員さん顔引きつらせ、汗ビッショリだぜ。



「うっ……す、すぐに新しい部屋を用意致します。少々お待ちください」



 女性職員は走って出ていった。しばらくして戻ってきた。



「部屋の用意ができました。どうぞ、こちらへお越しください」


「どこまで連れて行く気かしらね」



 女性職員はビックとして、今にも泣きそうな顔をしている。可哀そうに。


 連れて行かれた部屋には、見るからにできる職員といったふたりの男女が居り、お茶に茶菓子まで用意されていた。



「先程は、うちの職員が失礼をしました。お詫び申し上げます。私どもとしては今一度チャンスを頂けないかと、この席を用意しました」


「あのクズ野郎はどうなるのかしら?」


「彼は疲れているようですので休職一ヶ月、減給二ヶ月になります」


「それだけ?」


「……余罪も有りそうなので、休職中に洗い出しを致します」


「そう。なら貸しにしとくわ」


「ありがとうございます」



 姐御ひなさんは完全に役にはまっている。極妻を見てるようだ。



「これ最初に渡しときます」



 土地権利書を男性職員に渡した。顔から血がサッーっと引いていくのがわかる。



「し、少々お待ちください」



 男性職員が女性職員に何か指示して、女性職員が部屋を慌てて出て行った。



「こ、今回はどのような物件をお探しでしょうか?」



 またそこからですか……。姐御ひなさんを見ると頷いたので、我慢しよう。



「クラン設立の拠点が必要ですので、このギルドで一番高い物件見せてください」


「一番高い物件っと申されましても、限度がございますが……」


「あそこに建ってる城でも構いませんよ」



 丁度、部屋の窓から見えたこの国の王が住む城を指さした。



「ご、ご冗談がお上手ですね。お、お客様は。ハハハ……」



 そこに女性職員が戻って来て、男性職員の耳元で何か囁くと、みるみる男性職員の顔が青くなっていく。面白い。



「ほ、本気ですか?」


本気マジです」


「し、少々お待ちください」



 また、しばらく待たされたが、別の高級な茶菓子が出てきて、明らかにさっきのお茶よりランクの高いお茶が出てきた。



「お前さん達か、城が欲しいって言っとるのは。言っとくが安くないぞ」


「なぁ爺さん、あんたが誰か知らないが、さっきから買うと言ってるんだ。つべこべ言わず持ってこいよ。本当クズとグズしか居ないな、このギルドは」


「ほう。一端の口を聞くじゃないか小僧。儂はな、これでもこのギルドの長を務めてるものじゃ」


「クズとグズの親玉か。上に立つ者がこれだから、下も腐るんだ。良いからさっさと持ってこいよ」


「ぐぬっ。言ってくれるな小僧。ほれ、これがうちで扱っとる、高額物件じゃ」



 十枚程あったので三人で回し読みした。


 正直、王都の中で良い物件はなかった。中心部の建物はあるが土地がほぼ建物だったりするからだ。目星い物件は二つ、王都郊外、要するに城壁外の辛うじて郊外と呼べる場所にある。元貴族の別荘だ、建物も土地も申し分ないが王都まで馬車で一時間掛かる。クランとしては厳しいな。


 もう一つはノインスの北にある。元国境の砦である。今現在の国境はもっと北になっており、北の国々と街道で繋がっているが難所が多くこの街道を使う者は少ない。比較的死者の都に近い場所にある。何と言っても、元重要拠点だけあり転移ゲートが設置されている。今はたまに国軍の演習場として使われる程度だそうだ。維持費を考えると、売れるなら売りたいと言う所か。



 三人で話し合った結果、元国境の砦を一度見に行く事にした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る