95 砦、買っちゃいました

 流石、王都の商業ギルドだけある。転移魔法が使える職員を用意させて来た。


 元国境の砦には自分達の他、数名の職員も来ている。さっそく見て回る。砦の中から防壁、練兵場まで思ったより痛みが激しい。



「どうかな、気に入ってくれたかな」


「想像以上に酷い状態ですね。砦の中は掃除もしてなく汚れ放題。防壁も辛うじて砦といえる程度、練兵場は只の原っぱになってる始末。このどこを気に入れと?」


「ぐぬぬ。で、買うのかね」


「値段しだいでしょう。修繕費だけでとんでもない額が掛かりそうですから」


「白金貨五万枚じゃな」


「……王都の城が買えるんじゃないですか? まあ、俺達は城でも構いませんけど」


「できる訳がなかろう……」


「それだけあれば新築で建てられますよね。あの城の隣に建ててくれたら買いますけど」


「だから、できる訳がなかろう!」


「出せて二万ですね。修繕費も結構掛かるでしょうから」


「ば、馬鹿なそんな金額で売れるか!」


「そうですか、構いません。ただ、一つだけご忠告を、この防壁ですが補修しないともってあと数年でしょうね」



 一緒に来た職員も頷いている。常時使っているなら話は別だが、このままでは朽ち果てるだけだとわかっているのだろう。



「どうします。こちらは他の場所でも構いませんが」



 険しい表情のギルド長と職員達が話を始める。おそらく職員もここまで酷くなってるとは思ってなかったのだろう。熱のこもった話し合いになっているようだ。どうせこの後も売れ無ければ、三年飛ばず鳴かずの状態で結局うれないだろう。それなら売れるうちに売った方がましと考えると思うのだが。



「ひなさん達はどうですか?」


「正直、大きいわね。修繕費がネックよね」


「でも、砦をクランの拠点にするなんて、俺達が初じゃねぇ。大は小を兼ねるって言うからな」



 どうやら向こうの話もまとまったようだ。



「お前さんの言う金額で手を打とう。但し条件がある」


「何でしょうか?」


「この砦を修繕する際に、うちの指定業者を使うことじゃ」


「構いませんが、ちゃんと見積を上げてください。手抜き工事をしないこと、工期を守るも当たり前ですが、後になって金額が合わないと言っても認めません。ちゃんと施工計画をたて、見積内で施工してください」


「ぐぬっ」



 また話し合いが始まった。



「ルークってその手の業界人? 手慣れてるよね」


「違いますよ。たまたま、クライアント側としてやった事があるだけです」


「更にスゲーし」


「所詮、仕事ですよ」



 話がまとまったようだ。



「見積書が高かったらどうなる?」


「適正価格の提示、その金額の理由を提示してもらいます。内容に不備があれば見積書の見直し、それでも合意できなければ他の業者に頼みます」


「お前さん達の現状の見解はあるか」


「そうですね。防壁の補修は当てがあるので、こちらで補修します。その他の補修も時間もかかるでしょうから、急ぎ進めてもらいたいです。それ以外はフリーです」


「儂らの業者は防壁工事は得意では無い。それ以外の修繕であれば勉強しようと思うが、どうじゃ」



 ひなさんを見れば頷いている。



「わかりました。それで一度見積もりを出してください」


「よかろう。すぐに見積もり制作に入ろう」



 ギルド長と握手した。この後ギルドに戻り細かい手続きをおこなった。


 もちろん、土地権利書を使った。何度も本当に使うのか聞かれたが、ここで使わずしていつ使う。白金貨二千枚即決で支払った。ギルド長達は目を白黒させながらも、必死に数えてたな。金額が金額だけに信用できる職員だけで確認したようだ。何度も何度もな。



 全ての手続きが終わったのは夕方になってからだった。


 商業ギルドを出て、ハンターギルドの近くを通った時だった。


 弱弱しく今にも消え入りそうな声が、何度か聞こえて来た。最初は何を言っているかわからなかったが、どうやら母親を呼んでいるようだ。



「みゃま~。みゃま~」



 年の頃は三歳位だろうか? 薄汚れた服を着たハーフキャトールの子だろう。何度もギルドの前で叫んだ後、諦めたのかギルドの建物の端の軒下で毛布にくるまって動かなくなった。


 凄く気になったが、ダイチに引っ張られるように転移広場に連れていかれた。


 あの子は何をしていたんだろうか……。



 降魔神殿に戻ってから、夕食後に全員を集め会議をおこなった。



「魔法で何とかならないか。オール」


「できなくはないと思いますのう。しかし我ら六人では厳しいですのう」


「人魚族に土魔法を使える者達は居ないかな?」


「多くはないですが居るでしょう。声を掛けますか?」


「水魔法で洗浄もお願いしたいから、それなりの人数の手配を頼む。建物の洗浄を終わらせれば、商業ギルドの補修が始められる。オールに、もうひとつ頼みがある。魔道具って作れたよな」



 前にオールが自慢げに言ってたのを思い出したのだ。



「それなりには研鑽を積んでおりますのう。何を作りましょうかのう」


「軍なんかで使ってる侵入者除けの結界がほしい。元砦だけに多くの転移魔法が使える者が訪れているので、許可したもの以外転移ゲート以外で侵入できないようにしたい」



 クランの拠点なのだから、誰でも出入り自由では困る。それなりのセキリティーは必要だろう。



「成程、しかし砦を囲うとなると、それなりの魔法石が必要になりますのう」


「魔法石? 確か持ってたな……あった五個ある。足りるか?」


「ちと、足りませぬが、魔王様がいつも遊んでおられる、闇のオーブを使えば強力な結界を作れる上、結界内では昼でもアンデットが活動できるようになりますのう」


「別にアンデットは必要ないのだけど……」


「えぇー、面白そうー」


「訓練にも使えるから良いんじゃね」



 良いのか?【優雅高妙】が良いと言うなら別に構わないが、昼間っからアンデットが徘徊してる砦ってホラーじゃね。



「まぁ、結界が強力になるなら良いのか? さくら貰って良い?」


「ミャー」


「決まりだな。俺が持ってる残りのお金はオメガに預けるから、必要な時はオメガに言ってくれ」


「承りました」


「ひなさん達の方はどうなっていますか?」


「拠点が決まったから、ギルドで申請してくるわ」


「現時点でどの位集まる予定ですか?」


「プレイヤーで三十人程、NPC二十人程かしら」



『infinity world』では、レイアとパーティーを組んでいるようにNPCとも普通にパーティーを組める。なかなか時間が合わせられないので、大抵は臨時パーティーになるのだが、NPCと組む事によって多種多様なクエストが発生するので、NPCとパーティーを組む事が多い。そうやって信頼関係を築くとクランなどに加わってもらえるようになる。



「後は次の新人狙いね。これだけ大きな拠点は売りになるわ。まだクランに入ってない人達に、もうちのクランの噂が流れれば充分に人は集まるはずよ」


「名前は決まったんですか?」


「……まだよ。これから会議をするわ」


「えー、ひなさん決めれば良いじゃん」


「そう言う訳にもいかないだろ。みんなで決めようじゃないか」


「さんせー。モフモフ王国に一票」


「モフモフ王国、反対に一票だ」


「えー。ダイチはモフモフの良さがわからないのよー」


「だぁー。そう言うのは趣味でやれ。趣味で」



 悪いが、勝手にやってくれ。俺は寝る。



 しかし、寝ようとしてもあのハンターギルドに居た女の子の声が、頭にこびりついてなかなか眠る事ができなかった。




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