93 ダゴン様との修好通商条約締結
やって来ました、ロイヤルスイートルーム。
「いやー、よく来たね。マイハニー」
アルファがさくらをダゴン様の近くまで連れて行き、さくらはダゴン様の手にほっぺをスリスリする。
今日は俺とさくら、アルファに護衛としてデルタが一緒だ。
「素晴しいの一言だよ。人間社会とはかくも楽しかったのか。ビーチでのんびり寝そべれる椅子に座ってお酒を飲む……そう、あのシャンパンと言うお酒も最高だね。おの場で飲む酒にはうってつけだ」
「シャンパンは種別で言えばワインなのですが、シャンパーニュ地方で造られたものだけシャンパンと名乗る事ができる至極の逸品です」
「良い家柄の箱入り娘なのかな」
「はい。味に年を重ねた深みはありあせんが、それを補う生命力を感じさせる酒です」
「甘みはあるが良い所のお嬢さんだけあって、キリッとしている中にシュワシュワした何とも言えない若々しさを感じる。素晴しいね」
「ビーチて飲むならシャンパンも宜しいのですが、そればかりではせっかくのビーチでのくつろぎが半減してしまいます」
「ほう。他にも素晴しい酒があるとでも」
「我々の世界は酒と共に歩んで来たと言っても過言ではない程、多種多様な酒があり飲み方があります。その中にカクテルと言う技法があり、何種類かのお酒を混ぜたり酒とソフトドリンクや果実汁と混ぜて味を楽しみます」
「せっかくの美味しい酒を他のものと混ぜ合わせるのかい? 余り美味しそうじゃないね」
アルファに指示して事前に用意していたお酒と道具を準備させる。
「こちらのお酒はドライ・ジンとドライ・ベルモット、ほんの少し味を見てください」
「ドライ・ジンは余り個性の無い酒だね。それに比べドライ・ベルモットは個性の強い酒だ。酒なのに体によさそうな気にさせる」
「どちらも今回の為にキンキンに冷やしてますが、普通は常温で飲む酒です。そして、これらの冷えた酒を氷の入ったグラスに注ぎステアします。氷同士をぶつけないようにするのがコツです」
もう一つのグラスに移して、オリーブをピックに刺しグラスに沈める。ここでレモンピールなどを絞るバーテンダーもいるが、自分は入れない派。
スッっとダゴン様の前にグラスを移動させる。
「ドライ・マティーニです。時間をかけずお飲みください」
「頂こう」
作り方は昔映画を見て、カクテルの道具一式を揃えて練習したものだ。本物のバーテンダーにはかなわないが、人前に出しても恥ずかしくない腕前だと思っている。
ダゴン様は一口目を軽く飲み、二口目で一気に煽った。
「美味い。何故だ……」
次はちょっと見せ場を作る為、ギムレットを作る。シェイカーをシェイクし、グラスに注ぐ。もちろん、氷が溶ける分も考えている。久ぶりにやったが満足いくできだ。
「ギムレットです。お楽しみください」
ちなみに今回はコーディアルライムを使用している。もちろん使ったのは今回が初めてだ。向こうでは、なかなか手に入らない品だからだ。
「これも美味い。同じ酒を使っているのに、こんなにも表現力が変わるものなのか……」
ダゴン様は余韻に浸っている。フフフ……我の術中に完全に嵌った顔である。
「君達の先人達は素晴らしい、このような技法を編み出すとは」
「カクテルのレシピは作られては消えていき、そしてまた作られます。その中でも先程の二つは、作られた当時から愛され続けているカクテルです。味は多少変わっているようですが」
「この停滞した世界では生まれぬ考えだな。新しき事は疎まれ、古き習わしに固執する。邪神が革新を望むのも頷ける。しかし、良いもの教えてくれた。明日からが楽しみだ。さんさんと降り注ぐ陽射しの中、先程の良き程に冷えた酒が喉を通ると考えただけで、至福であるな」
流石、酒飲みは万国共通。既に妄想モードに突入している。
「して、ここまで私を楽しませたからには、礼をせねばなるまい」
バレてるな。今までのはほんの余興、楽しんで頂ければ儲けもの。
「それではひとつお願いがございます。ダゴン様が治める地の、島々との交易と領海の通行を認めて頂けないでしょうか?」
「それは構わぬが、それだけで良いのか。モンスター共は如何様にでもなるが、人族の海賊などは関知してないぞ。それに、我が領海を出れば真っ先にクラークに狙われる事だしな」
「そちらも問題ありません。反魔王クラークに護衛を依頼します。
「それでは余り旨みがないような気がするが?」
「物が動けば人も動きそれと一緒に情報も動きます。それに、安全な船旅が約束されれば多くの人々が行き来し、街が活性化して更に多くの人々が集まります。そしてここにも更に多くの人々が訪れるでしょう。以前この場所がサハギンに襲われた時、街の者達は助けに来る事を躊躇していましたが、今は違うでしょう。この場所の有効性を理解しているので。更に多くの人が集まって欲しいとイーリルの街の者達は思っているでしょう。そんな場所が魔王に襲われたと知ったら、率先して魔王と戦ってくれるにではないでしょうか?」
「君は恐ろしいな、同族を盾にするつもりかい」
「盾なんておこがましい。剣や槍になってもらいたいですね。それだけの恩恵を受けているのですから、さくらの為に働いてもらいますよ」
「マイハニーの為と言われれば何も言えんな。良かろう。認めよう。但し……」
「みなまで言わずともわかっております。ダゴン様。菓子折りを楽しみにお待ちください」
「クックック……ルーク、おぬしも悪よのう」
「なにを仰います。ダゴン様に比べれば、このルークなど……」
「「ワッハッハ……」」
この日、さくらとダゴン様の間で修好通商条約が結ばれた。
降魔神殿に戻ってからが大変だった。オメガに珊瑚に囲まれし島のビーチにカクテルバーをつくらせ、降魔神殿で男女のハイドールを召喚して、四九三十六……もとい、四苦八苦しながらバーテンダーの特訓をした。
味見は皆にお願いした為、明け方にはヘベレケになっていた。デルタだけがいくら飲んでも変わらなかったのが印象的だった。オールなんか数杯でダウンしてたのにな。
営業時間前には何とか様になり、急遽ダイチが以前バーテンダーをバイトでしてたと言うので、今日一日店長に雇う事にした。
もちろん、アロハシャツにグラサンとお決まりの格好をさせたのはお約束。
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