92 ゾディアックの一族

「我々を侮るつもりかしら?」


「言え全く。最初はどれだけ凄いのか……なんて思いましたけど、蓋を開けたら残念でした。アハハハ」


「クッ、言わせておけば……」


「魔法兵団も雑魚。虎の子の騎兵隊は脳筋。ゾディアックも大した事ないし。あれが本気なんて言われた日には、笑い過ぎておへそで茶が沸くな」


「「「……」」」


「どうせあれでしょ。ゾディアックも実は隠し星座が居て、そっちが真のゾディアックでした的なお約束? 使い古し過ぎて新鮮味ゼロ。運営さんもう少し捻れよ」


「「「!?」」」


「さくら、レイア帰ろうか」


「ミャー」


「……ハイ」



 マクモンさんに挨拶して宿を出る。


 噴水広場に向かい、飲み物を買って椅子に座る。



「あれで良かったのですか?」


「良いんじゃない」


「前にこの国と事を構えたくないと言ってました」



 確かに前はそう思っていた。だが実際に見て聞いて感じたのは、思った以上にこの国の情勢は不安定なのではないかという事だ。


 あれだけの事が起きたのに魔法兵団は権力争い、虎の子の騎兵隊も練度不足、ゾディアックにしても来たのは十二のうち一つ。国王に求心力が無いのか、最初から持たせていないのか、すべて行きつく先はゾディアックなんだろう。


 しかし、こちらが弓折れ矢尽きると言った状況でもない限り、手を結ぶメリットもなくなった。ゾディアックなんて訳のわからない連中と組んだら逆に火傷しそうだ。



「売り言葉に買い言葉的な所は否めないけど、あの程度の実力では脅威になりえない」


「ですが、ゾディアックの一族は侮れません」


「それ以上は言わなくて良いよ。レイアに死んで欲しくないから」


「……ルークの本当の姿てどんな姿なんですか?」



 ここでその話を振りますかレイアさん。なんて答えようか、困ったなぁ。



「さくら、俺って前の俺と違うかな?」


「ミャ~? ……ミャッ!」


「だよなぁ。だそうです。レイア」


「……」



 誤魔化せた? えっ無理……。




「ま、まあ、ゾディアックは面倒臭そうだけど、手が無い訳ではないから安心して欲しい。それよりゾディアックは魔王の事を知っていた。この国だけの事なのか、他の国もそうなのか、情報が少なくて判断できない」


「何故、公表しないのでしょうか?」


「国が混乱するからというのが一番考えられるが、あるいは……」


「あるいは?」


「いや、よそう。憶測だけで話をしても意味がない。情報が集まるのを待とう。俺達は俺達でやれる事をやっていこう」


「……ズルイです」


「レイアなんか言った?」


「さくらちゃん愛してるって言ったんです!」


「ミャ~」



 さくらがレイアに移って、レイアに顔ペロ始めた。この二人は何やっても絵になるね。



 情報ギルドにやって来た。


 前のボス討伐などの報酬を今回の報酬と一緒に貰おうかとも思っていたが、混雑が予想されるのでせっかく近くに来たのでとっとと貰う事にした。



 シェイド 【死者の都】ボス討伐 初級スキル屋解放 金貨10枚 初回撃破報酬 エリクサー、蘇生薬5個


 サハギンキング 怪魚王討伐 金貨30枚 船舶所有権利書 初回撃破報酬 海運通商権利書


 ヘマタイトスパイダー 【魔巣窟】の番人討伐 金貨15枚 魔法石5個 初回撃破報酬 闇のオーブ


 PK討伐報酬 4人で金貨8枚とガチャチッケト10枚


 情報料金貨8枚



 大漁だ。金貨だけでも71枚、アイテムも良い物がある。



「すみません」


「なんでございましょうか。ルーク様」


「レイアの分ってどうなってるんですか?」


「ルーク。後で私が説明します。ありがとう、失礼します」



 レイアに半ば引っ張られる形で外に出た。丁度時間もお昼なのでどこかで食事していこう。お店はレイアおすすめの店に行ったが女性ばかりで、もの凄く居ずらく食べた食事の味を覚えていない……。


 それでも、食後のお茶を飲みながらレイアの話を聞く。


 レイアはプレイヤーの恩恵は受けられない。代わりにハンターギルドから金銭でボス討伐報酬がでる事になっているらしい。なんか納得いかないと言ったら、笑っていた。


 降魔神殿に戻り今回のアイテムの確認をする。


 魔法石と闇のオーブは素材のようだ。エリクサー、蘇生薬はそのものだろう。プレイヤーでもまだ蘇生薬は作れてない薬なので貴重品だ。エリクサアーに至ってはどんなゲームをやっても、勿体ながって倉庫に眠ったままになるアイテムだ。


 今回注目すべきものは船舶所有権利書、海運通商権利書だな。勝手に船もったら駄目だったらしい、知らなかった。幽霊船ゴーストシップは良かったのだろうか? 今回、船舶所有権利書を手に入れたから大手を振って海に出れる。海運通商権利書もあるから海運業も良いかも、オメガに相談しよう。そうしよう。もちろん、丸投げ。


 オメガに両方の権利書を見せると、眼鏡の奥の瞳がキラリンと光ったのがわかった。



「ルーク様。これは良いものです。今の我々にとって、最も必要だった物でございます」


「そ、そうなのかい。それは良かったよ」


「これを使えば遠方の多くの情報を得る事ができるでしょう」


「船を使って手の者を送る事もできるし、港で情報が得られる?」


「その通りでございます」


「船と船員はどうする? 当てはあるのか。造るったって簡単じゃないぞ」



 って言うか。船造ってるプレイヤーて居るのか? 流石に新造船は無理だよな。それ以前に、この世界の船って帆船なのか? 魔法船なんて浪漫があって良いな。いっその事、飛空船なんてのもありか? 夢が膨らむ。



「魔王クラークのお陰で、船舶はより取り見取りのようでございます。廃業を考えている商家などもございますので、そのまま店ごと買い取ってしまっても良いかと」


「ちなみになんだけど、クリスタルから船って買えるのか?」


「降魔神殿では無理でございますが、蒼流神殿のクリスタルにはございます。しかし迷宮ランクが低いのでたいした船はありません」


「魔法を使った船とかはないのか?」


「ございますが、採算を度外視した船になる為、軍などでしか採用されていません」



 やはり、そんな所か。となると船を造るプレイヤーを探すしかないな。必ず居るはず、どんな時だって変わり者は居る。いや、いない訳がない。探す価値はある。



「しかし、そんな簡単に航路なんて見つかるかね?」


「そこはルーク様の腕の見せ所でございます。今ダゴン様の領海を通る船は皆無です。ここより南方の海を治めるダゴン様のお許しがあれば、イーリル、南方諸島、大陸西側との三角貿易が可能になります」


「成程、それなら護衛は人魚族なんかに頼めばさらに安全。ウハウハだな」


「はい。ウハウハでございます」



 よし、さっそくダゴン様のアポを取ろう。ダゴン様にとっても悪い話じゃないはずだ。


 うっしゃー。やったるでぇー。




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