85 デルタ

 隊長さんは目の前で俺達に跪いている。もちろん、俺にではなくさくらにだ。



「……盟約に従い。我が剣を真なる主に捧げん」



 隊長さんがさくらに己の剣を捧げ、さくらがテッシっと肉球パンチを隊長さんに喰らわせる。



『条件をクリアしました。強制クラス進化します』



 ダークナイトからダークデュークにクラスチェンジした。凶悪の一言……。充分魔王を張れる威圧感。オールの友人である自称魔王のダークナイトが可哀そうになってくる。



「名は?」



 隊長さんは兜を脱ぎながら



「……昔の名は捨てた。好きに呼ぶが良い」



 兜を脱ぐと、白髪の渋メンが現れた。どいつもこいつも、何故? イケメン。



「……デルタでどうですか? さくらの四の臣下だし。三角形と言う意味もあるので魚鱗の陣、即ちさくらの剣って意味」



 おぉー。自分で言っておきながら自我爆散……もとい、自画自賛。



「……承知した。今より我が名はデルタ。主の剣とならん事を誓う」



 取り敢えず、降魔神殿に戻ろう。さくらもだいぶ眠そうだ。降魔神殿に戻るとアルファがおかんむり。どーせいちゅうねん? 挨拶はみんなが起きたらという事で、寝させてく……。


 二時間程仮眠を取り起きると、デルタが椅子に座ったまま微動だにしてなかった。二時間そのままで居たの?


 可哀そうだったので、お風呂に誘ってあげた。ついでにオメガも誘う。



「……ふぅ。何十年振りであろうな風呂など」



 どうもこの人達と話をすると俺の時間軸がおかしくなってくる。オールに至っては五百年だしな。



「オメガ、紹介する。こっちはデルタ。さくらの臣下に加わった」


「オメガと申します。以後良しなにお願いします」


「……デルタだ。よろしく頼む」


「か、堅いな……?」


「申し訳ありません。これが素ですので」


「そ、そうだな? デルタには有事の際にはアンデットを指揮してもらうつもりだ。うちには兵を動かした経験のある者は居ないからな」


「……承知した。で、誰を倒せば良いのだ」


「さくら以外の……十二の魔王」


「……十二も居るのか? 魔王は」


「そう。何故か公表されていない。本当に知られていないのか、何か裏があるのか……」



 風呂から上がると、みな起きていた。自分の席に朝食が用意されていたが、ご飯に目刺一匹載っているだけ。おい、俺は南町奉行所のうだつの上がらない婿殿か? さくらがネコ缶を分けてくれようとしたが、さくらはしっかり食べないと駄目だよ。レイアを見ると目を泳がせている。アルファが何か言ったのだろう。



「アルファ、番茶」



 ドン。とテーブルに湯飲みが置かれた。



「いただきます」



 番茶を目刺の載ったご飯に掛けて、流し込みんだ。目刺は思った以上に旨かった。



「ごちそうさまでした」



 食べ終わるまでの所要時間三十秒。婿殿の気持ちが痛い程わかる。虚しい……。



 みんなが食べ終わるのを待ってからデルタを紹介する。


 アルファは興味無さげにお辞儀し、うさ子は片手を上げて挨拶、ペン太はデルタの足元を走り回っている。何なんでしょうね、この方達。


 さくらはまだ、眠そうなのでアルファに預けて、レイアと二人でルグージュの街に行く事にした。デルタに一緒に行くかと聞いたが、あの街の中に入ることはもうないだろうと言われた。ちなみに、ダークデュークに進化した時点で日中活動可能になっている。もう、アンデットの枠に収まってないな……。



 作戦本部に行ってみた。


 既にプレイヤーの多くはログアウトするか、自分達のホームに帰ったのだろう。閑散としている。セイさん達は居なかったが、ガレディアは居た。ガレディアに片手でこいこいをする。



「ハァ……これでも忙しい身なんだがな」


「ため息ばかりしてると幸せが逃げると言うぞ」


「ぐっ、誰のせいで……レイア! ちゃんとこいつを管理しとけ」


「すみません……」



 何故、レイアにあたる。この腐れエルフ。


 自分とガレディアの間に火花が散った……ような気がした。こんなくだらない事で来た訳ではないのだ。



「魔巣窟は結局どうなるんだ」


「再度封印される。その為にザヴィーに王都に戻ってもらった」



 ザヴィーって誰? 俺の知ってる人かい? はてなマークが出ていた自分に気付き、レイアが教えてくれる。



「私の父です」



 あははは……そういえば、名前聞いてなかったな。お父さん。



「それじゃあ、何も変わらないと思うが?」


「仕方あるまい。領主様のご沙汰だ」


「さいですか。せいぜい頑張ってくださいませ」



 という事は魔巣窟は当分の間は入れるのか? 興味があるな、魔王の片腕とも言われた魔人が眠る地か、オールにでも聞いてみるか。


 コリンさんとマクモンさんに挨拶してから降魔神殿に戻った。


 戻ってみると中央の広場でデルタとダイチ、ひなさん、コッコが戦っていた。



「何してんの、あの人たち」


「しゅぎょうー?」


「ダイチがデルタさんに手合わせをお願いしたら、三人まとめて来いとなったんだ」



 成程、ここでやらないでクリスタルの方でやれよ。邪魔だろ。後で教えとくか。



 さて、オールはどこかな。少し探すといつもの場所でメイドドールに膝枕されてた。ブレねぇな……。



「おぉ、あるじ殿、如何なされたのう? このような姿で申し訳ないのう」


「そのままで良い。聞きたい事があってな」


「これは痛み入りますのう。それで聞きたい事とは?」


「魔巣窟について知りたい」


「……」


「あそこに眠る魔人とはどんな奴だったんだ」


「なに故、そのような事がお知りなりたいのですかのう」


「興味本位で」


「手を出さぬとお約束して頂けるなら、お話しますかのう」



 あれ~? オールがマジなんですけど、マジでヤバイってやつなのか。


 聞くのを、躊躇してしまうな。




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