86 魔巣窟と魔人

 オールが語った事はこうだ。


 今の十二の魔王が召喚される前の話で、オールがリッチになりたての時期だったと言う。


 人族もやっと群雄割拠の時代が終わり、今のクルミナ聖王国が建国され人族同士の争いがやっと終わりを告げた時、魔王が現れたと言う。邪神の召喚によるものなのか、あるいはモンスターから突然変異でもしたのかは定かではないらしい。


 それからの時代は人族と魔王との戦いになったと言う。人族にとっても酷い時代だったが、モンスター達にとっても酷い時代だったらしい。


 魔王には三人の懐刀の魔人がおり、その魔人達は残虐非道で快楽殺戮を敵味方関係なくおこなっていた。


 その頃、オールは魔王の傘下にはいたが研究に没頭していたので、人族との戦いに積極的には参加していなかったそうだ。


 北方の国々が魔王に滅ぼされ暗黒の時代に入ろうとした時、勇者が現れたと言う。その勇者は反魔王勢力を構築し、魔王軍と戦い続け魔巣窟と呼ばれるようになる場所で魔人の一人を倒す事ができたと言う。


 多くの犠牲を払って倒したにも関わらず魔人の怨念により魔巣窟が生まれ、凶悪なモンスターが排出され続ける。この話は一度聞いてるな。


 残りの魔人も海竜王、聖竜王により倒され、魔王も最終決戦にて勇者と相打ちで滅ぼされたと言う。


 何故、オールは魔巣窟に手を出すなと言ったかだが、魔王が滅んだ後オールはオールの師や兄弟子達とアンデットの為の街、そう死者の都を建設した。そんな時に近くに魔巣窟がある事を知り、知的好奇心旺盛なリッチ達は危険と知りつつ、その欲望に打ち勝つ事ができず調査に向かう事にしたらしい。


 オールの師は弟子達を引き連れて魔巣窟に乗り込み、モンスター達を駆逐し最奥までたどり着いた場所にそれはあった。


 勇者により倒された魔人の亡骸がクリスタルの中に安置されていたそうだ。亡骸にはキズひとつ無く今にも動きだしそうな程、生々しい凶悪な気配を放出していたと言う。


 オールの師や兄弟子達は狂喜乱舞していたと言う。三人の魔人の中でも最強最悪と言われた魔人で、研究素材だけとしてでなくアンデットとして使役できればと考えたのは致し方無い事であろう。


 しかし、リッチ達が魔人が安置されているクリスタルに手を触れた瞬間、砂となって消えたと言う。オールはその時逃げたくて仕方がなかったが、腰が抜けて動けなかたらしい。しかし、これが結果的に助かる要因となったそうだ。


 リッチ数体を吸収したクリスタルから影が出現し、残りのリッチ達を吸収し始めた。オールの師達は魔法で攻撃したが無意味に終わる。気付けばオールだけしか残っていなかった。腰が抜けたせいで攻撃に参加しなかった事が良かったのか、只運が良かったのかは定かではないが、影は消えていたそうだ。


 オールは逃げるように転移魔法で降魔神殿に飛んだが、その時に見たクリスタルの中の魔人は目を開けていたと言う。



「あれは触れてはならぬものですのう。もしあの魔人が復活でもしたなら、主であった魔王以上の魔王になってしまうであろうのう……」



 成程、遠慮なければ金融あり……もとい、遠慮なければ近憂あり。自分達の力になる所か更なる災厄を引き込む所だった。



「しかしさ、なんでその魔人だけ体が残ったんだ」


「勇者と言えど、所詮は人族。海竜王や聖竜王程の力はありませんのう」


「じゃあなんで、海竜王や聖竜王は魔人は倒したのに、魔王は倒さなかったんだ?」


「さあ、我にはかの御仁達の考えなどわかりかねますのう」


「益々、今の魔王達と言うものがわからなくなったな。ある意味、正統な魔王が居ただけに」



 オールの師達でも瞬殺されるって、どんだけ強いんだよ。他にも聖人とか英雄なんて呼ばれた人達もやられてる訳だし。



「それでその魔人に名前ってあるの?」


「呪言師 魔人フルール」


「行ったらどうなる」


「わかりませんのう」


「了解。やめとくよ」



 これも運営側の伏線なんだろうか? このまま終わるとは思えないんだよな。イベント待ちって所か? 諦めよう。



 広場に戻るとダイチ達はボロボロになっていた。


 彼らにクリスタルで模擬戦ができる事を教えてあげたら、涙目になってたな。



「……」


「それ今言うかい」


「頑張れ」



 それから死者の都に舞姫さんが居る事を伝えておく。装備がボロボロだから上客になるだろう。


 みんなに一旦ログアウトすると伝えてログアウトした。


 近くのスーパーに行って刺身の盛り合わせを買い、ご飯に載せて海鮮丼にして食べた。目刺が嫌いって訳じゃないからな。


 用事済ませてログインする。


 さくらの部屋のテーブルに見慣れぬ生き物が居た。


 さくらはその生き物にテシテシ肉球パンチを浴びせている。その生き物は見るからにさくらに対してビビリまくっているのが見てとれる。



「さくらちゃんとカーちゃんは仲良しだねー」



 な、仲良しなのか、どう見てもさくらに睨まれたカーちゃんってとこじゃないの?


 聞けば、まりゅりゅの持っていたモンスターの卵をうさ子に預けていたらしく、自分がログアウトしてる間に生まれたそうだ。


 カーバンクル亜種 幼生体となっている。本来なら額にある宝石のようなものは赤色だったはずだが、カーちゃんは青色の宝石になっている。


 カーちゃんはさくらの執拗な迄の肉球パンチによるスキンシップに、耐えられなかったのかスキル【鉄壁】を発動させた。カーちゃんの種族固有スキル【真実の瞳】によってさくらが魔王だと気付き、られると思ったのかもしれない。とっさにスキルを発動さえてしまったのだろう。


 しかしさくらは気にした様子もなく、テシテシ肉球パンチを繰り出している。おぉっとここで、さくらアイドルアタックを発動させたぁー! 肉球パンチ一回に付HP1減らしてるぞ! さあ、カーちゃんはどう出る。あっ、腹見せてひっくり返った……服従のポーズですか?


 さくらは嬉しそうにカーちゃんにまたがってペロペロ、グルーミングを始めた。さくらは仲良くなりたかっただけなんだね。


 それにしても、さくらの何か琴線に触れたのだろうか、執拗な程カーちゃんの耳をペロペロしてる。そろそろペロペロ止めませんか? カーちゃんの耳がさくらの涎でベトベトになってるぞ。



「ミャッ!」


「ミュウ~」



 カーちゃんが可哀そうになったので、さくらを引き離してやった。


 どこかの誰かさん達みたいに、カーちゃん涙目だった。


 もっと早く助けてと言ってるようだった……。





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