84 闇騎士の決意と別れ

 あれから三時間程経った頃、天の声インフォが聞こえた。



『イベントクエスト、ルグージュ防衛戦において、プレイヤー側が勝利条件をクリアしました。貢献ポイント上位者は後日、メールにて発表させて頂きます。尚、今回のルグージュ防衛戦の詳細もメールにてお送りします。今後も『infinity world』をお楽しみください』



「終わったぁ」


「お疲れぇ」



 周りからやり遂げた感溢れる挨拶が飛び交っている。



 街の外で戦っていた精鋭部隊三組は一組が全滅、残り二組が各個撃破後に残り一体を共闘で倒したそうだ。意外にも、王国軍の騎兵が最後の一体をけん制し続けたおかげで無事倒す事ができたそうだ。


 今回のイベント、ルグージュ防衛戦での被害状況について、先程作戦本部からの通達でNPC側の死亡人数は百三十六人と発表された。民間人の被害は怪我程度で死人は出ていない、ほとんどが騎兵隊の被害と街の中でモンスターと戦った領主の私兵のようだ。民間人に被害が出なかった事は重畳だった。


 俺はと言えばベンチで顔に冷たいタオルをのせ、レイアに膝枕されている。膝枕だ。大事なので二度言った。


 よくオール達がドール達に膝枕されていた理由が少しわかった気がした。直脚じゃないのがちょっと残念……。



「ここにいたのか。拙者、カイエンと申す」



 あの時、助っ人に来てくれた人だ。何だろう? 残念だがレイアの膝枕から起き上がる。



「ルークと言います。こっちはレイア」



 レイアがペコリと頭を下げた。



「あの時、何故、止めを刺さなかった? あのウサギも居たのだから充分に倒せたはずだ」


「カイエンさんは何故、今回助けに来てくれたのですか?」


「セイに頼まれた。いや、違うな。強い敵と戦えるからだ」


「正直ですね。嫌いじゃないです……価値観の違いですかね」


「価値観?」


「カイエンさんは強い敵と戦う事に価値を見出し、自分は大切な人が居るこの街を守る事に価値を見出している」



 レイアがつないでいた手をぎゅうっと握ってきた



「それはゲーマーとしてはどうなのだ」


「ゲーマーだって十人十色。みんな同じじゃつまらないでしょう」


「それで、最後を他のプレイヤーに譲ったと?」


「正直、どちらでも良かった。あの時点で勝負は決まってた。どちらかと言えば、後々面倒事に巻き込まれるのが嫌だったからかな」


「そうか。攻略に興味……嫌よそう。フレンド申請しても良いかな?」


「えぇ、喜んで」



 カイエンさんはその後、颯爽と帰って行った。



「素敵な方ですね」


「えぇ! レイアはあんな風なのが好みなの!」


「ち、違います! 人間的に素敵な方だなと……もう、知りません。プイ」



 この後作戦本部前でセイさんとガレディア、そして領主が挨拶をした。始めて見たのか? あの馬鹿息子に似てないな。


 挨拶の後は打ち上げに突入。さくらとアルファもちゃんと連れてきた。



「大活躍だったそうじゃないか」


「セイさん達程じゃないですよ。風牙のみなさんも居ましたしね」


「だとしてもだ、そのカイエンがあそこまで人を褒めたのは始めて見たぞ」


「それは光栄です」


「それにしても、あのウサギは何なんだ」


「うさ子姐さんは最強ですから」



 相変わらず、うさ子とペン太は人気もの。街の人に限らずプレイヤーからも絶大なる人気を誇っている。いつ間にかうさ子をコリンさんと野菜おばさん達が囲んでいる。うさ子ファンクラブの会長、副会長と言った所だろうか。あっ、六三亭の女将さんも参戦してきた。三強出そろった感じだな。



「あのウサギ、充分俺とツートップを組めるぞ。間違いない」


「うさ子は私が最初に目を付けていたんだがね」


「振られたんだろ。更紗」


「ぐっ……ラッシュラビットの目撃談は集めてみると、この国限定だが、結構あるのだ。まあ、テイムしているのは君だけなんだけどな」



 何度も言うがテイムしてない……今はさくらの臣下だしな。



「テイム条件がヒューマンだったりして」



 と、適当な事を言ってみた。



「成程、ヒューマンは少ないからな。それに、大抵は帝国に行く。検証の価値はあるな」



 更紗さん、あんちゃんにもサックス……もとい、暗中に模索してください。自分は手伝いませんけど。


 日が落ち始めたが宴は続いている。まだまだ宴もたけなはでございますが。自分はまだやらねばならぬ事がございます。【優雅高妙】のメンバーに一緒に行くか尋ねると、今回は遠慮しとくと言われた。アンデットを成仏させるなんて見てて楽しいものじゃなからな。


 うさ子も連れて行けそうになかったのでうさ子とペン太はアルファに任せて、さくらとレイアで行く事にした。


 壊れた西門を通り抜け、最初に召喚した場所に来た。


 オール達も既に来ており、転移魔法でアンデット達を死者の都に移動を開始させていた。



「……待っていた」


「さっそく始めましょう」



 一体一体に浄化魔法を掛けてゆく。ん? 一体30秒として2000体だから60000秒時間に換算するとおよそ17時間かかるの? マジ……。


 レイアに魔倉の指輪を借りて、常時さくらに魔力を供給してもらう。飽きた……とは言えず。黙々と作業を続ける。



あるじ殿、我々はそろそろ帰りますでのう」



 なんて薄情な奴だ。自分の分が終わったからって帰るだと。イラッとしたので片手でシッシしてやった。


 今夜中に終わらないなと諦めかけた時レイアが声をかけてきた。



「ルーク。私も手伝いましょうか?」



 あっ、そうだった。レイアも魔法(光)持ってたね。一気にペースが上がるか? と思ったが結局、魔倉の指輪は一つしかない訳で……。フールマスクとMPポーションを併用しつつ頑張った……。


 途中でスキルレベルが上がり、浄化魔法が範囲指定できるようになってからは早かった。それでも最後の一組になった時には、夜が明ける手前だった。


 最後に残った五体のアンデットは最後まで隊長さんと残りたいと言っていたらしい。隊長さんは頑として、首を縦に振らなかった。



「そろそろ、良いかな?」


「……あぁ」



 残りの五体に浄化魔法を掛ける。他のアンデット達と同じように、光に包まれ生前の姿に戻り天に昇って行く。五人の騎士は胸の前に腕を持ってきて微動だにしない。おそらく敬礼なのだろう。隊長さんも同じ返礼を返していた。



「……さらば我が友よ」



 隊長さんは彼らが天に消え見えなくなっても、敬礼を崩す事はなかった……。




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