83 ルークの実力

 鬼殺しの一升瓶に残っていた酒を一気に煽る。



「プッハー。クッー!」



 防壁からダイブして華麗に着地する……はずが、顔面から地面に綺麗に着地、HPっが一割減った。ははは……猿も木からダイブってね。



「おい、あれどこの芸人だ……」


「この緊迫した状況でネタか?」



 うさ子姐さん。頭からどいてくれません? 立てないんですけど……。



「あれ、あの時のウサギじゃね?」


「助けてくれたウサギか。下にいる奴誰よ?」


「うさ子って事はルークじゃね」


「ルーク!」



 コッコとレイアの声が聞えたような……。うさ子のせいで更に無駄なHPが減ってしまった。ポーションで回復しよう。ちょっと気持ち悪からな。ちょっとだぞ!


 ポーションを一気に煽る。うー、きぼちわりー。


 目の前の巨大なサイクロプスが動きを止め、こちらをガン見している。


 フフフ……そうか貴様にはこの俺様の実力がわかったらしいな。あっー。今、鼻で笑ったろ! サイクロプス風情がっ! 良いだろう。真の姿を見せてやる。そうーちゃくっ! トゥー!



「まさかと思うがあいつらやる気か?」


「ただのネタだろ」


「それだよ! あいつここで目立って、貢献度ポイント狙ってんじゃね?」


「マジかよ。考えたな、あいつ……なんかねぇかな」


「あー。違うと思うなナー。たぶん」



 そこはもっと聞こえるように言いなさい! ダイチくん!



「ここで英雄を見殺しにはできん。我ら風牙が助太刀いたす!」



 どこからともなく防壁上に現れた侍四人に他二人。俺の美味しい場面を掻っ攫うとは、何やつ?



「キ、キター! 攻略組ナンバーワンの風牙だ!」


「おぉー。ここで登場とは流石だ!」


「攻略にしか興味ないんじゃなかったの?」


「イベントなんだから、面白ければ良いじゃん」



 そ、そうなの。そんな軽くて良いのか? 街の存亡がかかってるのに……。


 攻略組ナンバーワンっていう事は、確かセイさんから聞いたカイエンとか言うプレイヤーだろう。



「こちらの一体は、我らが引き受けた!」


「お、お頼申します……」



 あー。サイクロプスくん、待たせてごめんな。さあ、り合おうか。うさ子行くぞ。と思ったけど、ごめんちょっと気持ち悪い。先行ってて……。


 うさ子が呆れた顔で一瞥してから、一気にサイクロプスの身体を駆け上がり、横っ面を殴りつけた。もちろん、炎を纏った拳でだ。周りから歓声が上がっている。


 ダメージは確かに入っている。が、効いた様子は無い。サイクロプスは首をコキコキ鳴らして、なんかやったか? みたいな顔をしている。


 流石にうさ子も、Oh! っと、ムンクの叫びポーズをとって腰をクネクネさせている。どこでそんな事覚えて来るんだ? あの白黒コンビなのか? どこかで密会でもしてるのだろうか? なぁ教えてくれ!


 さて、うさ子ばかりに働かせてはおけない。サイクロプスがうさ子に注意を払っているうちに、サイクロプスの足元にやってきた。コートの認識阻害と気配遮断に加え影の薄さを利用した見事な移動術。寂しくなんかないんだからな!


 周りはうさ子に注目してる為、自分に気付いている人は少ない。氣を拳に纏わせて、下方に一気に振りぬく。ベキッ、ドーンの音の後、サイクロプスの咆哮のような絶叫が響き渡る。そこで始めて多くの人達が自分に気付く。



「あいつ、いつの間にあんな所に?」


「何したんだ?」



 何をしたのか。サイクロプスの左足の親指を潰しただけだぞ。二足歩行の人間が立って歩くには、親指で重心をとっている事が重要と聞いた事がある。案の定、サイクロプスは態勢を崩している。


 うさ子姐さんが追い討ちを掛ける。サイクロプスは踏ん張りが効かないようで嫌がってるのがわかる。良いぞー、やっちまえー!


 自分も追従しよう。



「奥義……」


「おぉ。あいつ何かやる気だぜ!」


「何をやる気だ!」



 あっ、ヤバッ、気持ち悪い……。



「ゲェー。ゲロロロロ……」



 サイクロプスの左足目掛けて、ケロケロピーしてしまった。もちろん、奥義でも何でもない、たまたまである。



「ウォー! なんてスゲーアーツだ!」


「あれは、絶対に喰らってはいけないアーツだ……」


「全アーツ中、最凶だ!」


「あれは封印技に指定すべきアーツだな……」



 男性陣には概ね好評のようだが、女性陣には不評のようだ。汚い、不潔、私には絶対に触らないで! と白い目で見られる。うさ子ですら自分と距離を取りやがった。


 流石にサイクロプスも自分の足にケロケロされて怒ったようで、必要に自分に対して攻撃を仕掛けてくる。


 しかし! 柳が風に揺れるが如く、ユラ~リ、ハラ~リ、と躱す。我を無心にし、酔いに身を任す。これぞ酔拳スキルで編み出した、無我酒中! ちなみに酔いの更に上、泥酔状態でのみ発動可。


 相手の攻撃をヒラ~リっと躱しながら、左足を攻撃。ハラ~リっと躱し攻撃。



「あいつ……スゲー」


「あれって、酔拳なのか? そんなスキルあったんだな」


「あいつまだ、呑む気だぞ!」



 違う……口の中が酸っぱいから水ですすぐだけだぞ。それより、壊れた門からモンスターが溢れかえっているんだが、大丈夫なのか?


 近くで戦ってるパーティー風牙を横見で見れば、全くアーツが途切れない。あれが攻略組ナンバーワンの戦い方なんだろう。戦いに余裕が見える。問題なく倒してくれる事だろう。


 こちらも負けてはいられない。サイクロプスの左足は完全に色が変わった。そろそろ頃合いだろう。



「秘奥義……ひざカックン!」



 サイクロプスの左足はほとんど使い物にならないはずだ、所謂、部位破壊ってやつだ。人間なら立ってるのも辛い状態。膝の裏に氣を纏わせた一撃を与えると、大きく身体を揺らしながら前のめりに倒れこんだ。


 何故か自分に対してバナナの皮や、食べかけのリンゴなどのゴミが飛んでくる。地味に痛いから止めなさい。ギャラリー諸君。


 うさ子が倒れこんだサイクロプスの大きな目玉を攻撃するがグロ過ぎ。毎度の事ながら表現に困る物体や液体が飛び散ってる……うー気持ちワリー。



「あのウサギ可愛いくせに、結構エグイ攻撃するな」


「サイクロプス逃げてー」



 さて、ここいらで止めを刺したい所だが、最後まで自分達でやれば必ず反感を買うだろう。ここは他のみなさんに花を持たせてヘイトを躱すべきだろう。



「もー限界! スイッチしてぇ!」


「「「ハァ?」」」


「い、良いのか?」


「めちゃくちゃ、美味しい所なんだが?」


「ヒャッハー! 貰ったぜ!」



 ひとりふたりと風前の灯火のサイクロプスに攻撃を仕掛け始める。


 まぁこんな所でしょうかね。


 その場に座り込みそうになった時、両脇を支えてくれるプレイヤーが居た。ひなさんとダイチだ。



「カッコつけすぎじゃない?」


「最後なんで譲ったんだ?」


「……気持ちわりぃ」


「「……」」



 二人に支えられ歩いて行く。目の前に涙目のレイアが立っている。



「ルークは馬鹿です……」


「だけど、レイアの守りたかった物を守ったぞ」



 き、決まった。


 ……何ですかうさ子もひなさんもダイチまで。鼻をつまんで手をヒラヒラと失礼な奴らだな。


 レイアも涙を溜めて笑ってる。


 まぁ、レイアの笑顔が守れて良かったよ。


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