82 イベントボス出現
夜中の三時。ゲーム時間でな。
夜目スキルがあるので、アンデット軍団とモンスター達との戦いが良く見える。目の良い人なら充分見える距離で戦闘が行われているからだ。
今は、レイアとさくらがこの時間帯の当番なので、防壁上に一緒に行って観戦している。魔法で攻撃に参加しても良いのだが、モンスター達よりアンデット軍団にダメージを負わせそうなので自重している。
アンデット軍団は、既に掃討戦の構えを見せている。ドラゴントルーパー達が上手く立ち回り、西門前にモンスター達を誘導してくる。防壁上から矢や魔法で攻撃され後方からはアンデット軍団が攻撃を仕掛ける。
先の見えた戦いになって来た。これは勝ったなとみなが思っただろう。その時、運営の悪意を感じさせる事が起こった。
「お、おい。あれを見ろ……」
「ん? なんだ?」
「おいおい、最後の最後に隠し玉かよ……」
「運営、鬼畜じゃねぇ」
「と、止まったな」
「誰か作戦本部の人間呼んでこい。非常事態だってな」
鷹の目、夜目の両方のスキルを持ったプレイヤー達が、騒ぎ始めた。セイさん達プレイヤー側とNPC側の代表が急いでやって来た。
「何が起きた?」
「アンデット達の更に後方に、巨人数体が現れました。現状動きはありません」
マジですか! イベントボス出現と言う所か? 最初から用意されたボスだったのだろうか? 思わず勘ぐってしまう。
プレイヤーが言うには、周りに生えてる木などから体長10メートル前後だと言う事だ。防壁より少し低い程度だな。手を伸ばせば届くのではないだろうか?
「ガレディアさん。バリスタのような大型の兵器はないのですか?」
「領主軍は持ってると思うが……あいつらが領主の館から出てくるとは思えん」
「そんな事言ってる場合ですか! 明日がこの街の最後かもしれないんですよ!」
セイさんとガレディアの間で問答が続いている。
そろそろ、夜が明けてくる時間帯だ。アンデット軍団も引き始めている。
あんなの、どうやって倒せと言うのだろう。一体だけならいざ知らず、何体も居るみたいだ。
こう言う場合、どうやって倒すのだ? 物量で押し切れるものなのかね。それとも少数精鋭で戦うにか? 自分では判断つかないからお任せかだな。
「レイア。最悪、降魔神殿に逃げ込むんだよ」
「嫌です! 私だけ逃げるなんてできません……」
「でもね、死んだら何にもならない。プレイヤーの自分達は死に戻りができるけど、レイア達はそれができない。俺はこの街が滅んだとしても、レイアには生きてて欲しい」
「ルークはずるいです……」
「まぁ。最悪の場合だけどね」
「はい……」
プレイヤー達も集まり始めている。既に話が広がっているようで動揺の色が隠せない。
集まって来たプレイヤーに、セイさんから説明がされる。
三つの精鋭チームを作るようだ。残りはモンスターの掃討戦に回る。王国軍の騎兵が巨人の動きをけん制してる間に、少数精鋭のレイド部隊が巨人を倒す事になる。
王国の騎兵は当てにできるのだろうか? 疑問だな。しかし、やるしかないようだ。現状機動力のある戦力は騎兵隊しかいない。
一抹の不安を抱えたまま作戦が実行される。
最初から想定外で始まった。巨人サイクロプスは三体だと思われていたが、事実斥候が調べた時には三体だったそうだが、その後ろにぶって泣いた……もとい、降って湧いたように、もう二体現れた。
騎兵が何とかけん制してはいるが上手くいっていない。このままではモンスターの掃討をしている部隊がサイクロプスに後ろを突かれる。
指揮を取っているニンエイさんは悩んでいるようだ。しかしその時間が長ければ長い程、動きが取れなくなる。ニンエイさんは精鋭部隊を見捨てたくないのだろうが、既に作戦は破錠している。速やかに撤退しないと致命的となってしまう。
出しゃばりたくないが、仕方ない。
「撤収の合図を出せ! 全員速やかに撤収させろ!」
「何を勝手な事を言っている! 指揮権は私が持っているんだぞ!」
「戦場で感情に流される指揮官に従う義理はない! 死にたきゃ勝手に死んでこい! おい、そこの! 全員急いで撤収させろ!」
「くっ……」
ラッパを持ったプレイヤーが撤退の合図を出す。またしても作戦失敗。急いで街に戻り住民の避難やら、西門で迎え撃つ準備をしないといけない。バリスタは用意できたんだろうか?
撤収が早かったので人的被害はほとんどなかった。精鋭部隊と騎兵隊は各個頑張ってもらうしかないだろう。
西門前の出丸は既に放棄されている。門の内側にバリケードを敷くが役に立つかどうか怪しいものだな。住民はガレディア達によって東地区に避難を開始している。領主軍も流石に不味いと思ったか、住民の避難を手伝いそのまま住民達の守りにつくそうだ。バリスタも五台程、西門の内側に配置された。
「アルファ。さくらとペン太を連れて降魔神殿に戻れ」
「承知しました」
「ミャッ!」
「大丈夫だ。さくら無理はしない。レイアもちゃんと守るよ」
「ミャ~」
「さくらちゃん。大丈夫。ルークは私が守ります」
「ミャー」
あるぇ~? 俺ってそこまで信用ない訳……確かにレイアの方が強いけどさ……さくらの飼い主として……いや、男としてのプライドってものがね……。
ああ、やるよ、やってやる。見ていろよ、さくら。さくらの
酒持ってこい酒! 熊殺しだろうが鬼殺しだろうが竜殺しだって構わないぞ! さっさと持ってきやがれってんだい。てやんでぃ、ばぁろ畜生!
西門に向かって来るサイクロプスは二体、どうやら敵も味方も関係ないようで、真っ直ぐ門に近づいてくる。足元ではモンスター達が踏み潰され、光に消えていってる。サイクロプスにとっては堀も柵もおもちゃみたいなものでしかなく、出丸も簡単に破壊されてしまった。
こちらだって遊んでいる訳ではない。シルビアさんの歌声が響く中、多くの矢がサイクロプスを襲い、魔法が炸裂している。しかし、さほどHPが減ってるようには見えない。何かのスキルなのだろうか? サイクロプスLv92、Lv93と見える。もちろんスキルなどは見えない。サハギンキングよりレベルだけなら上だ。
「うさ子姐さ~ん~。あれ、ヒック。
熊殺し一升瓶をやっとこ空けて、うさ子に問う。
「キュ~?」
うさ子は少し悩んでから、可愛いお手々をこちらに向けてくる。
片手なのに六本に見える。流石、姐さん。ひとりで六匹まで
「うぃヒック。うさ子姐さん……まだ分身するのは……はや、ヒックれすよ」
うさ子は可愛らしく首をかしげる。うーん。ラブリー。俺も頑張らなくては、やっと鬼殺しを半分空けた。お腹がタポタポだ。
「良いれすか。うしゃねーさん。みんにゃが見てるから、ヒック、本気だしちゃダメ! ヒック。だ~め~なのれす」
「キュー」
「わかれば……グゥ……ハッ! ……よろしいれす」
おかしい。何故か今一瞬、意識がなくなった……。敵のスキルか、魔法の類か!
見れば門が既に破壊され、バリスタによる攻撃が始まった。一撃の強さは中々みたいだが、再装填までが遅過ぎて……あっ壊された。はやっ。
まだ竜殺しを吞んでないよ。しょうがない、帰って来てから呑むか……。
さぁ。うさ子姐さん。我々の出番のようだぞ。
一丁、やらかすぜ!
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