81 王国側の意図は?
夜も明けぬうちから起こされ、作戦本部に連れて行かれた。
俺は無実だ、何もやってないぞ!
本部前には多くのプレイヤーが居た。こんな所で俺は糾弾されるのか……。
セイさんが壇上に上がって来た。
「みんな聞いて欲しい事がある。正直どうでも良い事だが、魔法兵団が夜の内に撤退した」
ブーイングの嵐。何しに来たんだあいつら?
「王国側には、各ギルドより苦情及び抗議の為の報告書を提出してもらう事になっている。もちろん、王都にて今回の出来事を流布する手筈も整っているので安心してほしい」
ワーワー、ガヤガヤとみんな言いたい事を言っている。俺への糾弾はどうなった? 俺を両枠から支えているのは、ダイチとひなさんだ。あれ? 寝ぼけてたのか? そう言えば、何かをやった記憶もないな。
「それから今後の戦術についてだが今朝までに確認した所、残り当初の三割しか残ってないようだ。そこでこの機を逃さず大規模攻勢に出る事にした。詳細は各班の隊長から説明がある。作戦開始時間は八時だ! 遅れるなよ」
各班に分かれて説明が始まる。
作戦っと言っても、東門から左右に分かれて時間を合わせて挟撃すると言う、至ってシンプルな作戦。魔法、弓部隊は連れて行かず、白兵戦力のみの戦いになる。西門側にモンスター達を追い込み固まった所を、防壁上から魔法、弓で攻撃して殲滅と言うのがシナリオだ。
一班と三班が左手側から二班と四班が右手側から攻撃を仕掛けると説明があった。今回こそは一班には頑張って頂きたい。今回はモンスターに突っ込むだけの作戦。お得意の戦法なのだから役に立ってもらいたいな。
戦闘開始は九時、既に配置についている。できればこれで終わりにしたい。
隊長達から合図があり、攻撃が開始される。最初はモンスターの奥側に配置されてる一班と二班が攻撃を仕掛け、モンスター達の行動範囲を狭めていく。狭まってきた所で、側面から挟撃して街の西側に押し込んでいく。
順調にモンスター達を密集させていっていたが、ここで予期せぬ事態が発生。王国軍の騎兵隊が現れた。
騎兵隊は事もあろうか、一班と三班の間からモンスターに騎馬突撃を仕掛ける。モンスターの丁度半分の辺りだろうか、モンスターが前、後ろに分断されていく。無能で阿保で救いようのない馬鹿者達だ。
人間が相手なら有効な作戦かもしれないが、モンスター相手には悪手でしかない。
敵を分断させる攻撃の意図は、前後ろの情報伝達を遮る事が目的の作戦。だが、モンスターのどこに情報伝達がある? 統制すら取れていないモンスター達だぞ、本能に従って行動している者達にこんな事をすればどうなるか……。
今まで、流れによって前方に移動させられていたモンスター達が、前に後ろにも移動できなくなり、モンスター達は一斉に左右向きを変えプレイヤーに攻撃を開始し始めた。
一気に戦況は不利になり、戦列が崩れ撤退の合図が出される。這う這うの体で東門まで逃げ帰る。おそらく被害も甚大だろう。上手くいくと思われた作戦は、まさかの味方による攻撃で大失敗。
案の定作戦本部では、セイさん達が騎兵隊の騎士様相手に怒鳴り散らしている。
「勝てると思ったのにな。これって運営側の策略なんじゃね」
成程、ダイチの言う事に一理あるな。イベント開始してから順調にきてると言えるだろう。運営が介入してきてもおかしくないか。
「魔法兵団も運営の嫌がらせでしょうか?」
「ビンゴじゃん!」
「そうも取れてくるわね」
「王国軍はー運営の手先ー?」
「イベントを盛り上げる為の、苦肉の策なのかもな」
「となると、この後もすんなり終わるとは思えないのですが……」
「「「「「 …… 」」」」」
過去に類を見ないと銘を打っておいて、短期間で攻略されようとしているイベントって……そりゃあ、運営さんも危機感を募るよねぇ。先程の被害は二千強と開示された。運営さんから見たらウハウハだろう。
「こうなると長期戦を考えて、一度ログアウトして来るか」
「そうだな、余裕を取っておいた方が良いかもな」
セイさん達の所に向かい、ログアウトしたい事を告げる。
どうやら既に、作戦本部も同じ事を考えていたらしくローテーション表を作成をしているらし。後ほどメールで配布するとの事なので、コリンさん宅に戻って来た。
「ルーク、どうなるのでしょうか?」
レイアが心配そうに尋ねてきた。そりゃそうだろう、本来であれば救国の英雄並みに歓迎されてもおかしくないはずだった騎兵隊が、一転して獅子身中の虫に成り下がってしまったのだから。
「絶妙なタイミングで絶妙な場所に絶妙な攻撃を加えて、最悪な被害を出してくれた。王国はこの街を潰したいんじゃないのかな、とさえ思えてくる」
「そんな事、あるわけないだろう!」
「ですが、実際に魔法兵団による嫌がらせ、終いには夜の内に撤退。そして先程の二千人以上に及ぶ被害を与えた訳ですから、そう言わざろうえないと思いますが?」
「二千人も……死んだのか……」
レイアの父は、先程の戦闘の被害をまだ聞いていなかったらしい。死んだと言ってもプレイヤーの死に戻りだから、実質の被害は無いんだけどな。だが、現実は知っておくべきだ。
本当に最悪のタイミングで現れてくれた。この状況下では、全てが終わってから現れて街の人達に歓迎され、勝利した感を出してくれるだけで良かったのだ。戦闘に関しては既に裸身の妻……もとい、刺身のつま程度にしか考えてなかった。
「勝てた戦いを潰しただけでなく、多くの無駄死にを出した訳ですから、この怒りが王国に向かない事を王国側は危惧すべきではないですか? ここの領主は表向きは善人ぶってますが相当悪どい人みたいなので、良いカードを手に入れたんじゃないですかね」
「「……」」
何故、領主の事を出したかって? ゾディアックの一族って、情報収集なんかする暗部的なものなのかなって、思ったから振ってみた。当たらずと雖も遠からずと言った所みたいだな。
そんな緊張した会話をぶった切たのはダイチだ。
「俺、ログアウト夕方だから、戻って来たら終わってたりして」
「私も同じね。でも終わってる事はないんじゃない?」
「でもー。いつもの夜の攻撃があればー」
「終わってても良いじゃん。別に」
「確かにな。功績ポイントは累積だから関係ないな」
自分もメールで送られてきたスケジュール表を確認すると、最初にログアウトする組だ。ログインは真夜中になる。
アンデット軍団が止めをさす所が見られるかもしれない。
皆に先にログアウトする事を告げ、ログアウトした。
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