80 一時の休息

 PKの四人は衛兵さんに引き渡した。通常のやり方で処分される事になる。


 自分は死に戻りのペナルティーの為、ステータスが通常時の三割しかないので、今日はする事がなくなった。


 その上、所持金が半分になりアイテムが三割なくなっている。一番痛いのがメイン装備のひとつだった夕映えの杖と、必要は無くなったが思い入れがあるオブシディアンリザードの皮鎧が無くなっている。おそらくPKした奴が持ってると思うが、今さら返せとも言えず……諦めよう。


 ふて寝でもしようかと思った時、自分が配属されていた小隊が帰って来た。


 そう言えば、うさ子ってどうなった? すっかり忘れてたな。


 小隊の方に急いで向かった。うさ子は小隊のみなさんに、モフられ中だった……何が起きてるのだ?


 聞けば自分達のパーティーが居なくなった後、自分達のパーティーの代わりにうさ子が死屍粉塵……もとい、獅子奮迅の働きをみせたらしい。



「いやぁ、焦ったね。一緒に戦うはずのパーティーが、ウサギだけになってた時は」


「あのパーティー以上の働きだったぜ。きっと」


「俺もあのウサギに助けられた」


「帰りも斥候役の代わりもしてくれたしな」



 だ、大活躍だったな。うさ子姐さん。また、ファンが増えたんじゃないか? うさ子はいつも通り、野菜を食べていて平常運転。アハハハ……。


 そんなうさ子と一緒にコリンさんの家に戻って来た。レイアが自分に抱きついて来て、体中をペタペタ触っている。



「ど、どうしたのかな? レイア」


「ルークが同じプレイヤーに襲われたと聞いたので、怪我はありませんか?」


「あぁ。大丈夫、大丈夫。心配掛けてごめん」


「ルークが無事ならそれで良いです……」


「あっ、オッホン」



 レイヤの父が睨んでいる。憎しみに近い思いがひしひしと感じられるな。俺にどうしろと? レイアから離れろとでも言うのか。お断り、存分に悔しがるが良い。男親なんてそんなものだろう? 知らないけど。



「ぐぬぬ……」


「……あなた」


「はっ す、すまない、シルビア。……君達は一体何者で、昨日のあれは何なんだ?」


「うーん。そうですねぇ、ゾディアックの一族ってのが何を意味するか、教えてくれたらこちらも教えても良いですよ」


「ぐっ……」


「人の秘密を知ろうと思ったら、それなりの対価は必要ですよ。お父さん」


「き、貴様にお父さんと呼ばれる筋合いはない!」


「あはは……じゃあ、そう言う事で」


「完全にあなたの負けね。情けない……」


「シ、シルビア……クッ」



 庭に行くとみなさん勢揃い。皆さんはちゃんと働いているのですか。いつもここでお茶飲んでる姿しか見てないんだけど。



「大変だったみたいだな」


「えぇ。ですが、狙われたのが自分だけで良かったです」


「レイアを狙うとは思えないけどね」


「下手すりゃ、アカウントの取消じゃん」


「まぁ、そこまでやるとは思わないがな。注意に越した事はないぜ」


「レイアには必ずさくらと一緒に居るように言ってるので、大丈夫だとは思います」


「さくらちゃんてー、強いのー?」


「強い弱いで言ったら弱いです。ですが、使い方次第で有効なスキルを多く持ってますからね。その辺のチンピラじゃ、キズひとつ付けられませんよ」


「さくらちゃんは、可愛いだけでなく有能でもあるんだな」



 今はそれで良いのかもしれない。だがいつか、そうもいかなくなる時が来る。だから力が必要になってくる。少しでも多くの力を蓄えておかないと駄目だ。


 その相手が勇者なのか魔王なのかは、わからないが……。



「そういえば、魔法兵団とか言う奴らが、今日の朝方きたらしいぞ」


「決戦前日に来るとか言ってませんでした?」


「来たのはー、良いんだけどー、使えないよー」


「あれは、駄目だな。威張り散らすだけで、実力が伴わない。演習程度にしか思っていないのだろう」


「そんなに酷いのですか」


「そうね、私も聞いただけだけど、範囲魔法を使えるのは数人だけだし、他の人達もレベルが低くてほとんどダメージになってないらしわよ。格上相手に安全なレベル上げって所ね」


「最低な奴らじゃん」


「どうしようもないわね。来てやってるんだって顔するし、何とかして欲しいわよ」



 親切の押し売りなのか、数合せで送り込まれて来たのか、どちらにしろ迷惑に変わりはないようだ。



「ふむ。そうですね……ゲートを使えなくすれば、本気出すと思いますけど」


「どう言う意味?」


「その人達は、結局、何かあればゲートで逃げれると思ってる訳ですから、理由は何でも良いんですけど日中は物資の搬入専用にするから、人の通り抜けは禁止にするとか言えば良いと思います。一番良いのはゲートが壊れたって言えば本気出しますよ。もちろんゲート広場の入り口はプレイヤー側で管理しなくちゃならなくなりますが」


「退路を断って、やる気にさせるのね。作戦本部に相談してくるわ」




 皆に一度ログアウトする事を告げて、夕方の時間に再度ログインする。


 一度、降魔神殿に行ってオメガに理由を説明し、お金を貰い情報ギルドに向かう。



「ルーク様も大変な目に会われましたね。気を付けてくださいね」



 レミカ女史にまで心配されてしまった。気を付けねば。



「確かに受け取りました。受理は既にされてますのでご安心を」



 さあ、プレイヤーのみなさん稼いでくれたまえ。フッフッフッ……どちらが悪役かわからないな。


 コリンさん宅に戻り、みんなと夕食を取った。


 今日はデミチーズインハンバーグディッシュ。最強のコラボだな。さっきクリスタルから人数分交換してきた。


 食べ慣れてる自分達は何とも思わないが、コリンさんやレイアのご両親は余りの美味しさに、レイアが声を掛けるまでフリーズしていた。ベジタリアンは別として、ハンバーグ嫌いな人って居るのかね?


 日が落ちると、また燃えた流星が降るのが見えた。アンデット軍団頑張れ!


 レイア達の当番も夜中なので、時間もたっぷりある事からトランプとチェスを出してみんなと遊ぶが、ひとり仏頂面の人が居る。



「ずっと緊張しっぱなしで心に余裕が無くなると、勝てる戦もかてませんよ。一局どうですか。お、と、う、さ、ん」


「き、貴様! その勝負買ってやる! 完膚なきまで叩きのめしてやるからな!」



 売り言葉に買い言葉、この後、完膚なきまで叩きのめして差し上げた。



「あなたっていつもこう……情けない」



 シルビアさんの声が、闇夜に響いていたな。



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