76 闇騎士との契約

 リアル時間の土曜の夕方六時半にログインした。ゲーム世界時間だと決戦日前日の夜になる。


 今自分達は【優雅高妙】の皆とオールと一緒にルグージュの街が見える平原に来て、召喚の儀式を待っている。オールの弟子達もルグージュを囲むように点在し、儀式が始まるのを待っているはずだ。


 今宵は丁度満月。月ってあったんだな。まったく今まで気付かなかった。



「とうとう、明日が決戦だな。燃えるぜ!」


「燃え尽きて灰になれ、兄貴。骨は拾って地中深く埋めてやる」


「……」



 そう、明日だ。今日までできる事はやってきた。できるだけ時間を調整しログインし、モンスターを狩ってきた。


 この召喚の儀式が終わったら一度ログアウトして、少しでも長くログインできるように調整する。


 イベント参加人数も二万を超えるとセイさんが言っていた。実際戦闘に参加するのは七千弱だと聞いている。残りは生産組とレベルが低いプレイヤーになる。レベルが低いプレイヤーは最初の戦闘には参加せず、籠城戦と掃討戦に参加する手筈になっている。


 NPCのハンターも五百人程集まったようだが死に戻りができないので、後方支援と籠城戦で頑張ってもらう事になったそうだ。


 さくらとレイアも最初の攻撃には不参加にした。だいぶごねていたが何とか説得した。うさ子はる気満々なので参加。無双を期待している。いや、間違いなくするな……。



あるじ殿、そろそろ時が満ちたのう」


「準備ができたのなら、いつでも開始してくれ」


「承知した」



 オールが地面に手をつけると、青い光がオールの左右に走って行く。


 事前に聞いていたが、今、オール達がルグージュの街を囲むように魔法陣を形成しているらしい。少し経ち、オールが地面から手を離したが光は消えない。


 唐突にオールが呪文を唱え始めた。



「闇の鎖に縛られし者たちよ。黄泉の門を開けし鍵を持つは、我なり。汝らは戦う事こそが喜び、汝らは剣、汝らは槍、汝らは弓、その力我に示せ、我が汝らに仮初の器を与えん。黄泉がえるが良い、我が闇の眷属共よ! 我は闇を統べる王なり、我が声に応えよ!」



 辺り一面の地面に青白い丸い光が点在し初め、その光が消えると地面からスケルトンがムクムクっと這い出して来る。凄い数だな。



「どの位、召喚したんだ。オール」


「今日は、日が良い事もありましたしのう、場所も良かったので四千はいったかもしれませんのう。途中、我の力を捻じ曲げようとする者ども居りましたでのう。期待できるかと」



 四千か……期待以上の戦力だ。時間が経つにつれ目の前にスケルトンが集まって来る。そして明らかに他とは異なる雰囲気を持つ集団が、ふたつやって来た。



「ダークナイトとドラゴントルーパーですのう」



 全身黒い鎧を着込み兜から見える目は青白い炎が見える。そのダークナイトに着き従うのは、見たことのある鎧を着たスケルトンナイト達のようだ。


 もう一方の方は走り立ちする骨トカゲにまたがるスケルトンナイト達だ。あれってドラゴンなの? オールが言うには、種族上ドラゴンに分類されるそうだ。



「ダークナイトって、オールの知り合いが自称魔王を名乗っている奴だよな」


「そうですのう。まさかダークナイトが召喚されるとは驚きですのう」



 ダークナイトは自分達の方に来て跪き、ドラゴントルーパーはオールの前に跪いた。



「……約束をたがえんが為、参上した。我が主となるお方は何処いずこだ」


「この子があなたの主となる。第十三魔王だ」


「ミャッ!」


「……」


「カタカタ……ケタケタ……カタカタ……」



 スケルトンナイト達が騒いでいる。大方、騙されたとか言っているんだろう。



「……鎮まれ。大方の予想はついていた。……約束が果された暁には、我が剣を捧げましょう」


「オール、そっちはどうだ」


「こちらのドラゴントルーパーが率いる者達は、そちらの御仁とは別口ですのう。我の眷属にと願う者達ですのう」


「わかった。あなた達には明日の日が暮れてから活躍してもらう。一時的に隊長さん、あなたに指揮権を譲渡しますのでお任せします」


「……承知した」


「カタカタ……ケタケタ……カタカタ……」



 今度はドラゴントルーパー達が騒ぎ始めた。



「オール、ちゃんと躾とけよ。じゃないと光に還すってな」


「……」


「わかりましたのう」



 方や、光に還りたいが為に戦い。方や光に還りたくないが為に戦う。諸行無常とは良く言ったものだな。


 いつもは刺身……もとい、生き身は死に身。生者必滅の理と言うが、自分はどっちになるのだろうな……。


 戦争体験の無い自分達が別の世界で戦争の真似事をする。プレイヤーは死ぬ事は無いが、この世界の人間は簡単に死んでしまう。この世界の人間からプレイヤーを見たら、なんて理不尽なんだと思う事だろう。生者必滅の理を捻じ曲げているのだから。


 ゲームだからと割り切ってしまうのが一番なのかもしれない。だが、この世界でできた絆はどうなんだ。それを考えると不安になる。自分はパラノイアに陥ってるのではないのかとさえ思ってしまう時がある。まだこの世界に来て一週間しか経っていないのにだ……。



 俺の望む死に場所のある世界とはどっちなんだ?



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