75 セイの戦術

【優雅高妙】の皆と始まりの迷宮の近くに来ている。



「なんだ、ダイチじゃないか。うちに来る気になったか?」


「悪いけど無いですよ。セイさん」



 ダイチはセイさんと知り合いみたいだ。攻略組に居ただけの事はあるな。



「そっちの姉ちゃん達が新しいパーティーメンバーか?」


「言っときますが、俺が後から加わったんですからね」



 セイさんと【優雅高妙】のメンバーがお互い挨拶し合い始めた。



「それで、ルーク達とは知り合いなのか?」


「えぇ。彼らとは同盟を組んでるような感じです」


「同盟ねぇ。それでこいつはなんなんだよ」


「何とは、なんです? 普通のプレイヤーですよ」


「どこが普通のプレイヤーだよ。聞いたら最近始めたばかりっていうじゃねぇか。スゲー奴なのかと思えば、全て丸投げして逃げやがるし。スゲー美人のNPCの姉ちゃん連れてるし。どう見ても異常だろう」


「そうですね。ある意味、異常なのは認めますよ。縛りプレイをやってるみたいだしね。レイアさんについては同感です。ですが希望を持てたじゃないですか。口説き方次第じゃ、ギルドの可憐な花達も仲間になるんですよ! ルークは我々男達に新たな道を示した先達者です!」


「そ、そうだな……そうなのか?」



 ぐだらない話をしているふたりはほっといて、更紗さんが居たのでみんなを紹介しておく。


 一通りの紹介を終えた所で



「セイと話してるのは、ヘブンズソードのタンクの……」


「ダイチで、あたしの駄目兄貴」


「そう。ダイチだった。ヘブンズソードが解散と聞いた時は驚いたな。結構有名なパーティーだったからな」


「そうなんですか? 駄目駄目じゃん、あいつ」



 ダイチ、リアル妹に酷い言われよう。世間一般の兄弟姉妹はこんなもんなのだろうか? 兄弟の居ない俺にはよくわからないが、喧嘩であっても言い合える相手が居るのは天涯孤独の身には羨ましく思う。



「ミャ~」



 そうだった。俺にはさくらが居た。ごめんなさくら、愛してるよー!



「ミャッ!」



 しっかりとハグし合う。



「何やってんだ。ルーク?」


「うるさいあっちいけ、ダイチ。ケダモノめ!」


「ケダモノって。おまっ……さっきの話聞いてたな! あ、あれは女なら誰でも良いってことじゃなくて、そう言う考え方もだな……」


「さくら。ダイチは女の敵だから近寄っちゃ駄目だからな。レイアもな」


「ミャー」


「そうだったんですか。わかりました。残念です」


「ち、ちょっと待てぇい! 何故、俺が女の敵なのさぁ! 俺はこの世の全ての女性の味方だ!」


「ま、まさか、ロリからバァバァもいけるとは、ダイチは窓口が広いな」


「Oh……」



 どうやら、ダイチは燃え尽きたようだ。ほっとこう。


 周りを見れば結構な数のプレイヤーが居る。



「だいぶ集まったようなので、説明を開始する。知らない奴もいるかも知れんので紹介しとく。俺はクラン【ウィズダムグリント】のマスターをやってるセイだ。今回のイベントの音頭を取らせてもらう事になった。よろしく頼む」


 全く、反対するプレイヤーが居ない。不機嫌な顔した奴ら、主にシルバーソードの連中は居るが……。


 内容は、次に全体で集まるのはリアル土曜の六時にルグージュ防壁前と言う事と、それまでの間の溢れ出るモンスターの討伐についてだった。リアル金曜日の日中は流石に人数は少なく、夜からがメインになるだろう事。時間を調整して決戦に合わせる事など多岐にわたって説明がされる。



「……という事だ。詳細については各担当の者に聞いてくれ。生産組の支援に関する担当者とNPCとの調整担当者は後日発表する。最後に班分けした後は、班のリーダーに従って欲しい」


「それでは。班分けを発表します。もし呼ばれなかったプレイヤー、事前登録に間に合わなかったプレイヤーは発表後、この場に残ってください!  それでは一班から発表します……」



 一班がシルバーソードがメインの部隊、二班がウィズダムグリントがメインの部隊、三班があみゅーさんと言う方が率いるクラン【ワイルドあにまるズ】がメインの部隊、最後が四班でシャングリラがメインの部隊になる。


 俺達は【優雅高妙】と一緒に二班に配属される事になった。



「我々二班の行動指針は戦線の維持にある。おそらく一班は無茶な攻撃を仕掛け、戦線が崩れる恐れがあるからだ……」



 セイさんが言うには、今度のモンスターはイベントモンスター扱いになり、どんな攻撃を与えようと逃げる事はないだろうと言う事だ。全滅させるか、させられるかの二択しかない。


 そうなると、数で劣る自分達はいかに組織的に戦うかがカギになる。少ない被害で最大の被害を与え続けなければならない。しかし、シルバーソードはそういう戦い方はしないだろうと見てるのだ。既に他の班とは話がついているらしく、一班には和を保てないような問題児が集められたようだ。


 一班は愚連隊と言う事だ。大きな功績を上げるなら良し。駄目なら見捨てられるだけの部隊。哀れ……。



「……なので、我々は無理な戦いはしない。着実にモンスターの数を減らしていくだけだ」


「それではいつか破綻するのではないですか? なにか策なり、援軍が来る見込みがあるのでしょうか?」



 ひとりのプレイヤーがもっともな疑問をぶつけてくる。時間に制限のある我々は籠城では勝ち目がないのだから。



「昨日から、NPCの代表達とは話し合いをもっている。その中で王国軍の騎兵二千が兵站を無視して行軍を開始しているらしい。一旦、ノインスに集まり、上手くいけば決戦日から二、三日後にはこちらに到着するだろう。魔法兵団二百もゲートを使って決戦日前に来ると聞いている」



「ガヤガヤ……ザワザワ……」



 成程、援軍の見込みが立ったんだな。最初は魚の水を離れたようって感じだったのにな。これでオールのアンデット軍団も夜限定だが加われば、充分に勝機がある。


 俺にとっては初イベント。レイアの気持ちを考えると複雑だが、正直ワクワク感は否めない。



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