73 業を背負う英霊との交渉

 話の後は、皆で楽しく飲んだ。セイさんと更紗さんにマクモンさんを紹介し、王都の旅人のヤドリギの主人ハクモンさんの従兄弟と言ったら驚いてた。


 店の閉店時間になったのでみんなと別れるが、セイさん達とは明日も会う約束をしてある。


 外に出る為、門に行くと



「また、あんたか。本当、夜に出ていくの好きだな。何かあるのか?」


「衛兵さん。あなた失礼ですよ。用事があるから外に出るのであって、それ以外なら花街にでも行きますよ」


「ルークは花街に行くんですか! 不潔です!」


「いやあのね、レイア。これはものの例えであって、実際に行ってる訳じゃないから」


「信じて良いんですよね。お酒くらい私がお酌します」


「あ、うん。お願いします」


「それ以上、俺の前でイチャつくなら牢にぶち込むからな。許可証!」


「イチャついてる訳じゃ……はい。許可証」


「イチャついてるなんて……住登票です」


「畜生! 悔しくなんかないんだからな! さっさと行け!」



 衛兵さん、目に涙を溜めていた。ありゃ、明日の夜は花街確定だな。頑張れ!


 門を出て壁沿いを墓地の方に歩いて行く。レイアがピッタリと自分に寄り添い腕を掴んで離さない。腕に丸い膨らみがポヨンポヨン当って役得。さくらは余り気にした様子もなく、レイアが引っ付いている肩の上に居てあくびをしている。


 門と墓地の間位まで来た時、以前のように急に霧が立ち込めてきて向こうから異質な気配と供に足音が聞こえてくる。数十人の兵士の霊が通り過ぎた所で、ひときわ気配が強く立派な鎧姿の霊を見つけた。前に声をかけてくれた霊だ。



「また、お前か。ふむ。少しは強くなったようだな。そのまま精進するが良い」


「恐縮です。ですが、今日はあなたに用が合って来ました」


「……」


「あなた方の力を貸して頂きたい」


「……我々は死者だぞ。何の力にもなれぬ」


「近々、この街がモンスターの氾濫に見舞われます。その数は過去の比ではないくらい多いでしょう。残念ながら王国軍は間に合いそうにはありません」


「……何故、そうなった。穴は封印されたはずだ」


「封印されてから何十年も経っている為、弱まっていたと思われます。更に運の悪い事が続き、ちょっとした衝撃で封印が解けました。そして今回は、封印されてきた期間分のモンスターが溢れ出ると思われます」


「そうか……力を貸したいのはやまやまだが、我々にはその力が無い」


「その力を与えられるとしたら、どうしますか?」


「我々に悪魔に魂を売れと言うのか。いや、悪魔でさえ買ってくれんだろうな」


「似たようなものですが、死霊魔法です」



 今まで静かだった周りがガヤガヤし始めた。



「我ら英霊にアンデットになれと言うか!」


「我ら英霊を馬鹿にするにも程があるぞ、小僧!」



 周りの霊達から罵倒雑言されてレイアが震えている。


 なかなか、一筋縄ではいかないのはわかっていたが、聞いていた通りだいぶプライドが高いようだ。少し現実を直視させないと駄目だろう。



「失礼ですが、あなた方は英霊などではなく只の地縛霊だという事は既に聞き及んでいます。ある意味、これはあなた達へのチャンスだと思ってください」


「「!?」」


「……どういう意味だ?」


「私達はこの街を守りたいと思っています。あなた達もできるなら守りたいと思ってますね。違いますか?」


「……違わない」


「そこで取引です。最初に言っておきますが、私は聖人君主ではありません。私の大事な人がこの街を守りたい、と言うので手を貸しているだけです」


「……ルーク」



 レイアが震えてはいるが、しっかりとした目で自分を見つめてくる。ちょっと照れるな。



「なので私にとってはあなた達が英霊だろうが、地縛霊だろうが関係ありません。要は使えるか、使えないかだけです。すみません、話がそれました。それでは取引内容です。今回参加してくれた方のほとんどは街を守った後、光に還します。仮初の肉体であってもあの世に行けると聞いていますので、今度こそ英霊として逝く事ができるでしょう」


「……本当か? 全てではないと言うのは何故だ?」


「あの世に行けると言うのは、アンデットの王に聞いたので信用できると思います。全てではないと言うのは、何人かには、この戦いの後も手を貸して頂く為です」


「……配下になれと言う事か」


「そうとって頂いて構いません」


「……誰の配下になるのだ」


「それは、契約の後にお話します」


「……ここでは言えん相手か。良いだろう。ただしひとつ条件がある」


「何でしょう。できるだけ譲歩はしますよ」


「……配下になるのは私だけだ。この条件を飲むなら、悪魔だろうが邪神だろうが契約しよう」


「「「隊長!」」」


「ザワザワ……ザワザワ……」


 だいぶ波紋が広がっている。本音を言えばこの隊長さんだけではなく他の優秀なアンデットも欲しいのだが、何か良い策はないかねぇ。



「残りたい者は残ると言うのでは駄目ですか?」


「……駄目だ」


「そうですか……わかりました。それでは妥協案を出します。この国の兵士及びハンターに限り、隊長さん以外は全員光に還します。しかし、この国以外の兵士、ハンターはこちらで勧誘します。もちろん、あの世に行きたい方達は光に還します」


「……」


「正直、これ以上の譲歩しかねます。私達はこの後も色々あるので」


「……断ればどうなる」


「そうですねぇ……力のある方達は無理でもそれ以外なら強制的にアンデットにできるそうなので、誰かに光に還されるまではうちで働いてもらう事になるでしょう。アンデットにならなかった霊は一生地縛霊のままですね」


「ルーク、それは強迫です! 私は以前に森の奥の封印をした者の娘です。今回の封印を解いてしまった責任の一端は私にもあります。ルークは少し酷い事も言いますが、それが本位ではありません。さくらちゃんの事を思うあまり、そう言う話し方になってしまうのです」



 うーん。それはレイアの贔屓目もあると思う。俺はいつも、結構打算アリアリだし、座右の銘は生涯適当して信条はいかに楽をするかですので……さくらの事はそうかもな。



「街には大勢の人々が居ます。あなた達の子供や子孫も住んでいるかもしれません。私の大事な人達も居ます。失いたくないのです! この街が好きなのです! どうか、この街を救う手を貸してください。お願いします……ぐすん」



「「「……」」」


「ザワザワ……ザワザワ……」


「……良かろう。この娘の涙に免じ、今一度この剣を捧げよう。好きに使うが良い」


「あ、ありがとうございます。ルーク!」


「レイア。ありがとう」


「いえ。あの、私は……」



 つい、レイアを抱きしめてしまった。つい? ゴメン、狙ってた。



「……それで契約はいつする」


「十四日後の夜、氾濫予定の前の日に召喚の儀式をおこないますので、その時に」


「……承知した」



 これで少しは戦いが楽になれば良いけどな。後は当日にならないと、何とも言えない。


 えっ。まだレイアを抱きしめてるが、なにか?




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