67 勝利の後に

 西の森の迷宮は初心者用というだけあって、入り組んだ迷宮ではないようだ。


 突き当たりには必ず宝箱があり、鍵開けスキルなど持っていないので普通に開ける。ほんの少しダメージを喰らったり、ちょっとした異常状態になる位なので気にしない。


 敵も奥に行くにつれてほんの少し強くなってくる、プレイヤーが言っていたモンスターも出てきた。白と黒と赤の模様のレッドラストスパイダーという蜘蛛型モンスター。


 この辺のモンスターに比べたら確かに強いが苦戦する程ではない。動きが単調だし魔法やスキルなど使ってこないので、動きに注意さえすればたいした事ない。


 どちらかと言えば、強さよりもエンカウントの多さの方が問題。既に二十匹以上倒しているがまだ湧いて出て来る。おそらく、もうすぐボスエリアなんだろうけど、俺もレイアも疲れたので安全石を使用して休憩中だ。


 水筒の水を飲んでて思ったのだが、魔法で作った水は飲めるのだろうか? 試しにさくらに魔法で水を出してもらい、浮いている水をコップですくって飲んでみる。


 不味い。飲めなくはないと言う程度。レイアも飲んでみたそうな顔をしていたので飲ませたら顔をしかめたので、自分の舌がおかしい訳ではないだろう。


 それなら、精霊が作った水はどうなのかと思い、精霊王の腕輪をさくらの前足に通してさくらに試しにやってもらう。



「さくら、水の精霊を呼んで水を貰ってみて」


「ミャー」



 さくらの頭上に水の玉ができたと思たら、さくらを中心に豪雨に見舞われた……。


 レイアはとっさに白うさマントのフードをかぶり難を逃れたが、うさ子とさくら、それにさくらを抱いていた俺はずぶ濡れ……ペン太はよろこんでるな。


 場所を移動したが、俺が移動すると豪雨もついてくる。俺と言うよりさくらにだな。流石にさくらを見捨てる訳にもいかないので、既にずぶ濡れだがフードかぶりコートの中にさくらを入れてこの試練に耐える。さくらがごめんねぇと鳴いている。なにこの位、絵の河童……もとい、屁の河童だな。


 耐えること十分位、やっと収まった。



「みゃ……」


「さくらが悪い訳じゃない。精霊にはちゃんと説明しないと駄目なんだって事がわかっただけでも、収穫ありだ」



 レイア達は、と見ると日当たりの良い場所でうさ子をタオルで拭いている。ペン太は先程の豪雨でできた水溜りで遊んでいる。のんきだな。


 服がずぶ濡れなので周りから木を拾い集め、火を起こし乾かす事にした。うさ子が魔法で火を付けようとしたので、慌てて止める。これ以上、面倒事は勘弁してください。



「おそらく、この先がボスエリアだと思う。流石にふたりではきついだろうから、さくらとうさ子にも手伝ってもらおうと思う」


「ミャー」


「キュー」


「わかりました。新しいアーツを覚えたので最初に使ってみたいと思います」


「どんなアーツ?」


「アローレインと言うアーツです」


「全体攻撃技か……よし。最初にさくらがアイドルウインクを決めた後に、レイアのアーツをお願い。基本的な戦術は俺とうさ子で雑魚の露払い、レイアとさくらでボスを攻撃で行こう。何かあればその場で対処で良いだろう」


「ミャー」


「キュー」


「はい」



 ボスエリアに入る前にフールマスクを装備する。装備したくないのだけど、背に腹は代えられない。



「ルーク!?」



 あぁ。レイアには見られたくなかった……この姿。



「かっこ良いです!」



 ズルッ……危なく転ぶところだった。かっこ良いってね、あなた……いや、レイアはこういうだった。アヒル隊長キャップを気にいってたからな。変な目で見られるより良いと思おう。



 休憩を終えてボスエリアに行く前にも、四回もエンカウントする。多すぎでしょう! そうして、やっとボスエリアらしき広い場所にでると、自分の選曲したBGMがボス用に変わった。


〈ヘマタイトスパイダー Boss Lv59〉金属ぽっい酸化した銀色の蜘蛛。八つの目は大きい目二つが赤色、残りが青色をしていて不気味。体長も2メートルを超える大きさで、レッドラストスパイダーを五体率いている。



「さくら、頼む」


「ミャッ!」



 さくらからピンクのハートのエフェクトが出て、蜘蛛達に吸い込まれ同士討ちを始めるが、すぐさまヘマタイトスパイダーから金切り音が出され鎮静化してしまう。



「奴には効かないみたいだ。レイア!」



 自分が声を掛けた時には既に動作に入っておりアーツが発動され、蜘蛛達に矢の雨が降り注ぐ。ヘマタイトスパイダーを残して光になって消えていく。


 雑魚、瞬殺っすか。レイアひとりで充分じゃね。などと思っているとまた金切り音が聞こえ、どこからともなく新たにレッドラストスパイダーが五体出現した。まあ、よくあるパターンだな。となると定石は。



「レイアとさくらはボスを狙え、うさ子と俺は雑魚の相手をする。うさ子! 雑魚を一体だけ残すんだ。上手くいけば増援は来ない!」


「キュッ!」



 ボスは回復に専念している。先程のレイアの攻撃で三割程ダメージを受けたので慎重になってるのかもしれない。しかし、ボスの回復有りはきついな。何かシールドのようなのものまで張ってる。


 うさ子が飛び出したので自分も続く。五体相手でもうさ子となら充分捌けるだろう。ごめん……捌く必要もないようだ、既に一体消えている。自分が一体倒す間に、うさ子は三体を倒しボスに向かって行ってる。


 残り一体は殺さないようにけん制するだけ。と思った矢先、急に身体が動かなくなり、身体を見るとネバネバした糸が絡みついている。いつの間にやられた? どうやらうさ子が躱したボスの攻撃が、ボスとうさ子の直線上に居た俺に当たったようだ。


 うさ子がこちらを見て、あんた何してんの? みたいな顔をした後、ニヤリと悪い子の顔に変わる。


 な、なにをするつもりだ! うさ子姐さん。その顔怖いぞ!


 うさ子は唐突にこちらに向けファイアバレットを連続で三発放つ。嘘でしょう! フレンドリーファイアーどころか、PK狙いか!?



「アチッ! アチチチッ。熱いって言ってんだろう! アジッ!」



 火にくるまれ、火ダルマ状態。レッドラストスパイダーも流石に不憫と思ったのか攻撃してこない。後ろからさくらの声が聞こえ、身体に衝撃を受ける。どうやら、水魔法で消火してくれてるようだが、痛い……。火が収まると絡まっていた糸がなくなっている。ついでにHPも半分なくなってるがな。うさ子姐さん、酷すぎないかい?


 ま、まあ。結果オーライ……?。


 ボス戦もどうやら終盤。律儀に増援を呼ばないボスはうさ子により、脚を一本一本引き抜かれていく。引き抜かれた所から緑色の液体から、表現に困るようなものが漏れている。グロ過ぎて、直視できない……うさ子姐さんは可愛い顔して容赦なくえげつない。


 最後にレイアの矢が奴の目を射抜いて決着が着いた。可愛そうだが、雑魚にも消えてもらう。


 終わってみれば、完全勝利。俺以外な……。



『エマージェンシー。全てのプレイヤーに通達。エマージェンシー。全てのプレイヤーに通達』



 急に鳴り響く天の声インフォ



 さて、いったい何が起きるのだ?



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