まおある ある日のひとコマ その二


 うさ子編



 私は悩んでいる。


 最近、身の回りの世話をしてくれるアルファと言うメイドなる者が居る。とても良くしてくれて、毎日朝と寝る前にブラッシングを丁寧にしてくれるので、驚くほど艶々になり私が私でない様だ。


 元々、私は一匹兎だった。


 そんな時にルークと出会い成り行きでついて行くようになった。一人の時は自分で毛の手入れをしていた。そんな私がこんなにも悩むなんて。


 一度、さくら様に相談してみよう。



「さくら様、お話があるのですが」


「みゃ~? うさちゃんお話ってにゃ~に」


「実は最近、悩んでまして」


「にゃやみ?」


「アルファが毎日毛の手入れをしてくれているのですが……」


「気持ち良いにゃのね」


「そう、気持ち良いのですが……確かに良いのです……が、ルークやまりゅりゅに、こんちゃんにされる方が気持ち良いのです!」


「当たり前にゃのにゃ」


「当たり前なのですか……何が違うのでしょうか。いつも一生懸命手入れをしてくれているアルファに心苦しく……」


「それはにぇ。愛にゃにょ!」


「愛ですか?」


「そう、愛にゃにょ。アルファはいつも一生懸命お世話してくれるにゃ。それは、配下としてにょ奉仕にゃにょ。あるじさま達の愛とは違うにゃにょ」


「はぁ……」


「アルファに愛がにゃいわけにゃにゃいのにゃにょ。うさちゃんもいつかわかるにゃにょ」


 こうして私は、今度は愛について悩むのであった。




 舞姫編



 舞姫は迷っていた。人生にではない。道に迷ったのだ。



「なんでうちだけこんな目にあうんや」



 彼女はルグージュの街を出た後は順調に進んでいた。街道のフィールドボスも、ちゃっかり野良パーティーに混じり撃破している。街道都市ノインスにも素材集めしながらも、若干時間は掛かったものの無事着いた。


 しかし、彼女はここで油断してしまった。


 彼女は王都を目指していたのでノインスでの滞在時間はほとんど取らず、必要最低限の補給のみで終わらせてしまったのだ。


 王都は西の街道をまっすぐ進むだけで着くと街の人から聞いていたので、まさか道に迷うとは思っていなかった。迷宮などに行くわけではないのでストレージの中も最低限のものだけ入れ、素材を集めながら行こうと軽く考えていた。


 その為、先を急ぐ事から、しっかりストレージの中を確認せず出発してしまったのだ。ここでしっかりと落ちついて確認しておけばと言うのは、タラレバである。


 本人は至って順調だと思っていたので、街道一直線と言う認識もあり地図の確認すら怠っていた。


 そして冒頭に戻るのである。


 街道をログイン、ログアウトを何度か繰り返し進んだ所でやっと王都に向かってない事に気付く。本来、王都に向かうならもっと人の往来があって良いはずなのに、ノインスを出てからほとんど人に会ってない。


 道も悪くなり始め、森の様な場所に入り込む

 。


「うちが何しったてゆうねん」



 相手が居る訳ではないが、愚痴が口からでてしまう。自業自得なのだが……。



 舞姫という名前は、以前やっていたVRMMOのキャラ名を使用している。『infinity world』程ではないが、それなりに有名処のゲームだった。


 舞姫はそこで超が付くほどの有名な生産者プレイヤーとしての地位を築いてきた。。『infinity world』の話が出た時は余り興味を持たなかったが、世間の評判が余りにも凄かったのでどうしてもやりたくなってしまい、ゲーム時代に培ったコネを総動員して手に入れ今に至る。



「やっぱり、皆裏切ったと思ってるのかなぁ」



 因みに彼女は大阪の人間ではない。島根県生まれの島根県育ちである。前のゲームでそういうロールプレイをしていたのでエセ大阪弁を使っているだけである。



「ここはどこ? 私は誰? って虚しい……安全石もあと一個しかないし」



 安全石が無ければ安全に野宿できない。ログアウトしようものならその場にアバターが残り、まず間違いなく死に戻る。



「どこで間違ったんだろう」



 最初からである。


 転移石でもあれば無事に街に戻れるが、迷宮に行くつもりの無かった彼女は買っていない。死に戻れば良いんじゃない? と思うかも知れないが、彼女は全財産を持って王都に向かっていたので、ここで死に戻ればデスペナルティーで装備している物以外のアイテムがランダムで三割消失し所持金も半分になる。


 ルグージュのギルドなりで貸し倉庫を借り預けておけば良かったのだが、どうせ王都で借りるのだからとケチってしまったのだ。貸し倉庫は街ごとでしか使用不可なのでもったいない精神が出てしまったのだ。




「ここがどこかだけでも判れば……だ~れ~か~助けてー!」


「何やってんだ。お前」


「えっ」


「モンスターに襲われているわけでもない。何から助けりゃ良いんだよ」


「わーん。だずがったよ~」



 彼女は目の前のプレイヤーパーティーに事情を説明して、近場の街まで連れて行ってくださいと頼み込む。


 プレイヤー達は大笑いである。



「連れて行ってやりたいが、一番近い街はノインスだぞ」


「それに俺達、ここで少し狩りしたら王都に転移石で帰るし」


「薄情者~」


「近くに街は無いが、ここから一時間も歩けば迷宮があるから行ってみろよ」


「迷宮行ってどうしろって言うんですか!」


「まぁ、騙されたと思って行ってみな。驚くぞ」



 そう言われてしまえば仕方がない。万が一の為、プレイヤーが持ってるだけの安全石を売って貰い、言われた方に歩いていった。


 歩くこと一時間弱、目の前に巨大な石壁が見えてくる。近く迄行くと大きな門が開いている。



「入ったら出れないとかないよね……」



 門をくぐり抜けると、そこには大勢のプレイヤーやNPCが居た。



「なんじゃこりゃー」



 迷宮と聞いていたのに、そこはどこにでもある街並み。狐に化かされたか、何者かの幻術かなどと思いながら歩いて行く。宿屋に食堂兼酒場、武器屋に道具屋、一通りあることに驚きを隠せない。


 取り敢えず、疲れているので宿屋に向かった。



「イラッシャイマセ。オ泊マリデスカ?」



 メイドさんである。アキバのメイドさんだ。行った事無いけど……ネコミミもある。などと舞姫は現実逃避してしまっていた。



「アノー、何泊ノゴ予定デスカ」


「ハヒッ、五泊ホドオ願イシマス」


「クスッ。承知シマシタ。此方ガ鍵ニナッテオリマス。食事ハ併設サレテイマス食堂ヲゴ利用クダサイ。五泊デ大銀貨二枚ニナリマス」



 舞姫は、自分は夢を見ているのかとさえ思っていたが、取り敢えず部屋に入りログアウトする事にした。


 用事を済ませログインすると、ちゃんとログアウトした部屋だった事に驚く。身の回りのを確認するが何も変わってないし、何もなくなってもいない。食堂に行き食事を取る。普通に美味しいと感じる。


 それにしても人が多い。ここは本当に迷宮なの? と思ってしまう。通りをブラブラ歩いて見ると男性が多い。と言うよりほとんどが男である。


 通りを奥の方に歩いて行くと人通りが少なくなってきた。



「そこより先に行くと迷宮に入ってしまうぞ」



 親切なプレイヤーが声を掛けてくれた様だ。ついでなのでこの場所の事を聞いてみた。どうやら最近開放されたばかりの迷宮らしく、死者の都という事がわかった。相当風、変わりな迷宮らしく、解放された時と今の迷宮は形が違うという事だ。


 この迷宮の位置を知り、どこで間違ったのかやっと気付いたのである。



「うちって奴は……」



 と言ってても仕方ないので、生産プレイヤー柄武器屋なども覗いてみたりしてみた。物は悪くない。悪くない所かここに居るプレイヤーの身の丈に合っていない程良い品ばかりである事に気がつく。逆に、ここに居るプレイヤーが使う品が少ない。武器も防具もだ。


 そして彼女はある事を思いつき動き出す。


 宿屋に戻り受付のメイドさんを見つけて声をかける。



「ねぇ貴方たちの責任者に会わしてくれない」



 ここに死者の都初のプレイヤー職人が誕生する事になる。


 元々名の知れた彼女ではあったが『infinity world』において魔王の武器屋と呼ばれるのは先の話。


 そして思わぬ人物との再開はもう少し後の話である。




 オール編



 オールと愉快な弟子達は暇していた。



「師匠。我々は何をすれば良いでしょう」


「お前達自身で進めておる研究があるであろう」


「それはそれ、これはこれです」


「「「やんや、やんや」」」


「ふーむ。そうじゃのう。おぬしら生前の事をどれくらい覚えておるかのう」


「生前の事でございますか」


「私は某国の宮廷魔術師でした」


「某は闇ギルドに所属する魔術師でしたな」


「私は魔術師学校の教授をしておりましたぞ」


「「やんや、やんや」」


「おぬし達は結婚していたかのう」


「「「 …… 」」」


「我らは永く存在しておるが、刺激が少ないとは思わぬかのう」


「師匠、おっしゃりたい事が良く分かりません」


「最近、外にメイドバーなる物をあるじ殿が作られたらしのう」


「メイドバーでございますか」


「「「やんや、やんや」」」


「我はのう研究ばかりしていたせいで女を知らん!」


「「「おぉー」」」


「「……」」


「研究せねばならぬと思わぬかのう」


「「「「「……ゴクリ……」」」」」」


「ここに変装の指輪が丁度六つあるのう。で、勇者は誰かのう」


「わ、私は生前、結婚していましたので皆さんの先達となりましう」


「某もギルドで腐るほどあてがわれておりましたから、先達組かな」


「「「「せ、先生と呼ばせてください!」」」」



 それから彼らは毎夜毎晩メイドバーに通い詰め、尻の毛まで抜かされたそうな。金に困った彼らはオメガに研究費用と偽って、お金を貰っていたとかいないとか……。



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