68 引き金を引いたのは?
『エマージェンシー、全てのプレイヤーに通達。只より、ルグージュ防衛戦が開始されます。【始まりの迷宮】奥、【魔巣窟】の番人が討伐された事により、条件がクリアされました。詳細はメールにてお送りしますのでご確認ください』
これって、自分達が引き金引いたって事か? ルグージュ防衛戦ってやばくねぇ? どう考えても大規模戦闘だよな。
「ルーク。どうしたのですか。ボスを倒したのに浮かない顔です」
どうやら、レイア達には聞こえてないようだ。
「不味い事になったかもしれない。取り敢えず、降魔神殿に戻ろう」
ボスエリアの奥には進まず、転移魔法で降魔神殿に戻る事にした。さくら達の部屋でメールが届くのを待つまで、みんなに説明しておく。
「それでは、私達がこの事態を引き起こしたのですか……」
レイアは顔を真っ青にしている。
「俺達のせいではないとは言わないけど、遅かれ早かれこうなったはずだ。迷宮の入り口であったハンターも言ってただろう。近々、強いパーティーが来て攻略するって」
「ですが……」
そしてメールが届く。
内容は、昔から迷宮の奥に魔巣窟と呼ばれる場所があり、そこから過去何度もモンスターの氾濫がありルグージュを襲っている。数十年前にもモンスターの氾濫が起き、多大な犠牲をだして魔巣窟の入り口の封印に成功した。
しかし、ここ最近プレイヤーが頻繁に始まりの迷宮のボスを討伐した事による余波で、封印が弱まりほころびが生じてきていた。そのほころびから出て来たがあの蜘蛛達で魔巣窟の入り口の所に巣を形成していた為、他のモンスターが出てこれなかったが、自分達がそれを排除して入り口を解放したと言う訳だ。
あはははは……やっちまったなぁ。
モンスターの氾濫はリアル時間の土曜日の二十時から始まる。その間は始まりの迷宮から随時モンスターが排出され、それをどれだけ討伐できるかで当日のモンスターの数が決まると書いてある。
もちろん、失敗すればルグージュの町は消失となる。
「すぐに行かないと!」
「落ち着いてレイア。その前にやる事がある」
「でも、急がないと町が……」
「取り敢えず、ガレディアの所に行こう。町の状況がわからない」
「わかりました……」
町の中はいつも通り。まだ知られてないのだろう。
「お前は、何度言ったらわかるんだ。アポ無しでギルド長を呼ぶなと言っておるだろ!」
「戯言につき合いたい所だが、緊急事態だ。レミカさんも呼んで、話ができる所に案内しろ」
「貴様は、私が誰かを知って喋っているんだろうな?」
「はいはい。今度、酒を奢ってあげるから急ぎましょうね」
「き、貴様。表にで……」
「ガレディア様! お願いです。今はほんの少しの時間も惜しいのです!」
「ぐぬぬ。ついてこい……」
最上階の立派な部屋に連れて来られる。ギルド長室だろか。レミカさんが中で書類と格闘していた。ガレディア、仕事しろよ。
「レイア。お久しぶり。少し手伝ってくれないかしら? 家に帰りたいの……ぐすん」
「ごめんなさい。今はそれどころかじゃないの」
「うううっ……」
だから、ガレディア仕事しろ!
「それで、緊急事態とはなんだ。冗談じゃ済まさんぞ」
「近々、モンスターの氾濫が起きる」
「何を寝ぼけた事を言っている。穴は封印した。現にここ何十年もモンスターの氾濫の予兆は無い」
「今日、穴が開いた。開いたと言うか、開けてしまったかな?」
「貴様自分が何を言ってるかわかっているのか。それこそ冗談で済まないぞ」
ガレディアとレミカさんに今日の出来事を語る。もちろん降魔神殿に関する事は抜かしてだが。
「「……」」
「レミカ。教会にすぐに人を走らせろ。今の話が本当なら、我々にも神託が降りているはずだ」
「他のギルドへの対応は如何しますか」
「確認が先だ。急げ!」
「承知しました」
レミカさんが部屋から急いで出て行った。
「まさかお前達が封印を破るとはな……」
「いやいや、さっきも言ったが。俺達が行った時には破られてたんだよ。文句を言うなら中途半端な封印をした奴と、監視を怠った奴に言えよ」
「封印をおこなったのは私と、レイアの両親のパーティーの魔術師だよ」
「……」
ありゃ? 墓穴を掘った感じかな。
「因みに、監視はうちのギルドとハンターギルド、領主でおこなう義務になっている」
あはははは……ごめんね? 許してちょんまげ。言い過ぎたな。
「起こるとすればいつなんだ」
「およそ十六日かな」
「少ないな王都の援軍も間に合わないな」
「だが今回はプレイヤーが居るぞ。王国軍がどれ程のものか知らないがな」
「わざわざモンスターの氾濫がある危険な所に来るものか……」
「いや、来るね。少なくとも五千は来るとみてる。時間が合えば更に増えるな」
「何故、そんな事が言える?」
「プレイヤーってのはそんな奴らなんだよ。集まってからじゃ遅いから、来るのを前提に準備しとけよ」
「……」
こうなると信じる信じないかはこの世界の人間次第だ。これ以上言っても無駄だろう。
レミカさんが戻って来るまで、知り合いにメールしとく。【優雅高妙】の皆には悪いけど戻って来てもらおうか。今どの辺にいるんだろうな。
そんな事をしていると、レミカさんが戻って来た。
「ルーク様の言ってた通りです。封印が解かれモンスターの氾濫が起きると、神託が降りていました」
「そうか……わかった。他のギルドに招集を掛けろ。領主にも誰か走らせるんだ」
「わ、わかりました」
「お前達はどうする」
「やれる事をやるだけだ」
「そうか、わかった」
ギルドを後にしてコリンさんの所に来た。
「あらあら、どうしたのこんな時間に。さぁ入ってちょうだい」
コリンさんはいつものように迎え入れてお茶をいれてくれる。一息ついた後、これからモンスターの氾濫が起こる事を話し、王都のお孫さんの所に行く事を進めた。もちろん万が一があってはいけないからだ。
「そう。またあれが起こるのね」
コリンさんの歳だと、過去のモンスターの氾濫を経験していてもおかしくない。
「あれは酷いものだったわ。多くの命が失われたの。でもね、あの時あなたのご両親達がこの町を救ってくれたのよ」
「ガレディア様もそのような事を仰られていました」
「そうね。あの方もあなたのご両親の仲間だったからね」
「おばさまのお父様も仲間だったと聞いています」
「父はあの氾濫の前に亡くなっていたわ。それでも父が愛した町だからと言って助けに来てくれたの、あなたのご両親達は。だから私は逃げない。私もこの町を愛しているから。それにきっと、また助けに来てくれるわ。あなた達も助けてくれるのでしょう」
「ですが、おばさま……」
「私はもう歳よ。いつ逝ってもおかしくないわ。でも、ヨゼフとの約束もあるから簡単に死ぬつもりはないわ。ねっ、ルークくん」
「はぁ。わかりました。でも危なくなったら嫌でも避難してもらいますよ。こちらもヨゼフさんに頼まれた身ですからね」
「フフ……わかったわ。大丈夫よ、レイアの赤ちゃんの顔を見るまでは、くたばるもんですか。うさ子ちゃんもよ」
「お、おばさまっ!」
「キュッ?」
まぁ、危なくなったらマクモンさん達も一緒に王都にでも転移すれば良いさ。その必要はないと思うけどな。
さっそく、【シャングリラ】の更紗さんから返信メールが届いていて、【シャングリラ】を含め幾つかのクランや攻略組が援軍に来る手筈になっているそうだ。多くのプレイヤーにも声を掛けているそうなので期待ができると思う。
自分達も明日から自分達にできる事をやっていく事にしよう。
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