65 食い倒れ屋と舞姫

『食い倒れ屋』は残念ながら食べ物屋ではなかった。残念? 武器防具屋であってたから良いのか? でも、お好み焼きは食べたかったな。



「おひさしです。舞姫さん。どうしてここに居るのですか?」


「なんや、ルークやないか。えろう、別嬪さんつれておるさかい。わからんかったわ」


「ルークのパーティーメンバーのレイアです。よろしくお願いします」


「舞姫や。よろしゅうしたってや。それがなルーク。語るも涙、聞くも涙の冒険活劇やったわ」



 舞姫がルグージュを出てからの事を、身振り手振りで面白おかしく聞かせてくる。



「アメちゃん食うかぁ? ほんでな。それがわかった時は、ほんま信じられへんかったんやでぇ」



 既に一時間近くの独演会。レイアが楽しく聞いているので良いが、レイアその話の七割りは作り話だから本気にしちゃ駄目だぞ。


 おれから波乱万丈の予断を許さない状況話が更に三十分続き、舞姫は死者の都のに着いたのだった。べべん べんべん。



「っと、言う訳や」


「舞姫さん、大変ご苦労されたんですね……ぐすん」


「そ、そやろう……」



 レイアがハンカチで涙を拭っている。舞姫は自分でやっておきながら、若干引いているじゃないか。お前らなにやってんねん!



「本題に入って良いかな」


「ルークはクールやなぁ……ププッ」



 全く面白くないな。現役のOYAJIGGおやじギャグ使いには茶番でしかない。



「舞姫の秘め事だな。そんな言い訳、言っていいわけ?」


「!? ぐぬぬ……。か、完敗でござる。おぬし何者でござるか」


「拙者。仙台藩伊達家に仕える、牛タン新陰口流OYAJIギャグ指南役ルーク・セブンスランクと申す」


「えぇー。ルークさんって、どこかに仕官なされいてたのですか!」



 そういえば、冗談の通じないお嬢様がおひとりいましたな。レイアはもう少し柔軟に世の中を見る勉強をした方が良いかも……。



「レイア。冗談だからね。冗談」


「えっ! 冗談だったのですか……どこから」


「んー。最初から?」


「……すみません」


「あ、謝る必要なんてないよ。レイアは真面目だからね。っね?」


「はい……」


「舞姫! レイアに一通りの武器防具をお願い!」


「よ、よっしゃー。まかせときぃ」



 舞姫は目を泳がせた後、カウンターに幾つかの武器防具を置いてサムズアップする。



「レイアは別嬪やさかい、これを選んでみたんや。因みに攻撃スタイルはなに?」


「後衛の魔法使いで、弓とレイピアを使います」


「ちゅう事は、これになるんかな」



 白い皮鎧セットに白いマント、子供アヒルの顔になってる帽子、レイピアと弓を選んで残り仕舞う。


 白い皮鎧セットはハービヴォークロコダイルのレア種の皮をつかった鎧で、なかなかの防御力がある。白クロの皮鎧と言うらしい……。


 白いマントはホワイトラピットの毛皮を使った、舞姫一押しの一品らしく防水、体温調節付きのうえ、気配遮断(小)が付いている、白うさマント。


 帽子は……格好はともかく、鷹の目(小)が付いていた。じゃあ鷹の格好にしろよと言ったら、ルークはわかっとらんわと言われた。レイアはいたく気に入ったようだ。わからん。アヒル隊長キャップ。どこに隊長の要素があるのだろう。


 ポプラのコンポジットボウに鉄のレイピアは普通の品。



「そしてな。これがサービス品や!」


「しっぽ?」


「可愛いです」



 高々と掲げているのは、キツネのしっぽに見える。



「これをお尻んとこにな、こうやってつけるとな、あら不思議やわー。人に絡まれ難くなるんや」



 認識阻害(小)が付いているな。ちびっのしっぽとなっている。もうなにも言うまい……。


 武器は良いのがないのか聞いたら、防具の需要が多すぎて武器の方まで手が回らないと言っている。誰か手伝ってくれる人がいないのかとたずねたら、逆に紹介してくれと言われてしまった。こんちゃんの修業が終わったらスカウトしてみようか。


 代金はオメガに貰ったお金の残金で問題なく支払えた。帰り際に舞姫に自分用の武器を注文した。金に糸目はつけないからと言っておく。舞姫の眼がギラリと光る。期待できそうだな。楽しみだよ。



「まいど、おおきに。また来てなー」



 粉ものは買えなく残念だったが、正直、防具に関してはとても良い買い物ができたと思う。舞姫に感謝だ。


 さくら達の部屋に戻り、何故かレイアのファッションショーが始まった。レイアが装備をそろえた事が嬉しかったのか、みんなに見せているのだ。


 さくらはレイアのお尻に付いているしっぽに魅了され、うさ子は何故かアヒル隊長キャップをかぶっている。うさ子、気に入ったのか? ぺん太はマントにくるまってスリスリしてる。触り心地が余程良いらしい。


 ファッションショーが終わり夕食を取った後、みんなでくつろいでいる。俺はソファーでさくらを膝の上に乗せて撫でながら、うさ子がサハギンキングからドロップしたアイテムを確認している。素材がほとんどだが、怪魚王の矛と精霊王の腕輪というアイテムがあった。


 怪魚王の矛は攻撃力が高く海棲モンスターに20%増の補正が入るが、STR、VITが一定値以上ないと装備できない品。俺には余り使い道がないから、オーロラあたりにあげよう。


 精霊王の腕輪は周囲に精霊を呼び出し攻撃及び、守りを精霊に任せる事ができる代物だ。サハギンキングが使っていた奴だな。精霊の数は属性魔法のレベルに依存し、呼び出している間常時MPを消費し続けるとなっている。


 今、訓練している攻撃スタイルにうってつけのアイテムだ。


 精霊王の腕輪は自分が装備して魔倉の指輪をレイアに渡そう。もともとコリンさんから頂いたものだから、その方がコリンさんも喜ぶ事だろう。



「ねぇ、レイア。この指輪、コリンさんから貰った魔倉の指輪って言うのだけどレイアに使って欲しいんだ」


「ゆ、指輪を頂けるのですか! 一生大切にします」



 ん? 今あげた指輪、左手の薬指にはめたような気がしたが気のせいか? ここはリアル世界じゃないし、そうゆう事は気にしないのかもしれない。本人が喜んでるならそれで良いか。


 そろそろ、ログアウトしなければならない時間だ。レイアとアルファに断りをいれ、さくらとしっかりハグする。



「みゃ~」



 この時間が一番辛い。さくらとの別れを惜しみ、ログアウトした。



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