57 休息日は働きたくないでござる

 クリスタルの部屋から逃げ出した。俺の知らない所で大きく事が進んでいる。俺達ってどこに向かって進んでいるのだろう?


 それに、今日は休息日。働きたくないでござる!


 ビーチに行く為、アリーナを引っ張ってきた。折角なので、どんな状況か実際に行って説明してもらう。迷宮もりを抜けて海岸側に出る。



「な、なんじゃこりゃー!」


「どうですか、見事なものでしょう」



 アリーナが鼻高々で言うのもわかる気がする。俺からすれば昨日の夜以来ゲーム時間で、七日程度しか経っていないのにこの変りよう。大型船がつける様に外海まで岸壁と桟橋が作られている。海岸沿いにはコテージの様なものが立ち並び、その一画にこの世界に似つかわしくない大きなホテルが建っていた……。



「なんでこんなに人が居るのかな?」


「オメガ様が、以前ルーク様がなされた事をそのままなされました」



 要は、人の姿の人魚達をイーリル、ルグージュ、ノインス、そして王都に送り、この場所の噂をばら撒いたと言う事だ。美人な女性が言う話だけに良く広がった事だろう。


 それにしても人、人、人。砂浜はビーチパラソルが満開。どこから来たのか出店まで出ている。



「あっ、あれは、我々と手を組んだ者達ですよ」



 モンスターなんだ……商魂たくましい方々だな。



「モンスターといっても必要な日用品などは、人間から買った方が良い物なので」



 モンスターの世界も世知辛い世の中なんだ。サービスのつもりかアトラクションか、海では偶に人魚がジャンプしてるし……。あっ、おひねりが飛んでいる。



「それに彼らだって争う事より得意な海で漁をして生活できるなら、その方がしあわせですから」



 成程、全てのモンスターが凶悪な訳じゃないしな。こんな風にエテ公にモモをあげる……もとい、得手に帆を揚げる事ができる環境があれば十分に人間と共存できるのだ。うむー、ちょっと考えさせられるな。


 しかし! 今はそんな事はどうでも良い! 我々は休息に来ているのだ、こんな芋の子でも洗う状態で休息などできる訳ない逆に疲れるわ!



「それなら良い場所がありますよ」



 おぉ、流石アリーナ、島を熟知してるだけの事はある。宜しくお願いします。もう一度、迷宮もりに入り蒼流神殿とは違う方向に歩いていく事十分程。目の前に広がるは素晴らしいオーシャンビュー。やっと、やっとです。さくらにビーチパラソルやテーブルに折りたたみチェアー、ついでに敷物など出してもらいセット完了。


 この日の為に用意したアバター用水着に着替える。普通の短パンの水着が欲しかったが無くて、海賊が着てそうなレトロなシマシマのつなぎの水着。何故か、さくらとうさ子も同じ水着を着ていて、カチューシャの様な水泳帽もかぶっている。とってもプリティーで良いのだけど……君達に必要かい?



「ミャ?」


「キュ?」



 こう言う事をするのはアルファだろう。そのアルファを見ると、これまたレトロな露出部分が少ない水着とさくら達とお揃いの水泳帽をかぶっている。サービス精神の無い人形めが。ん? 人形だよな。



「アルファ、水に入って大丈夫なのか?」


「問題ございません。そんな軟な体ではお嬢様のメイドなど務まりません」



 左様でございますか。心配して損したな。



「よし、泳ぐぞ。ん? どうしたうさ子?」


「キュッ!」



 準備体操をしろと言っている。しょうがない。はい、さくらも一緒にイチニ、イチニ。しばらく準備体操をしてやっとうさ子のお許しがでたので海に入る。


 さくらは猫の割にお風呂が大好きだったので、海も大丈夫かなと思ったが怖がって自分の頭にしがみついて離れない。仕方ないので頭を水中に入れない様に平泳ぎでゆっくり泳いでいる。


 周りを見れば浮き輪の上に乗り日傘を差しているアルファが居て、その浮き輪をうさ子がバタ足で動かしている。浮き輪なんてどこで手に入れたんだ。いや、聞くまでもないな。降魔神殿のクリスタルからだな。そんな物まであるのかぁ。今度チェックしてみよう。


 アルファの場所まで泳ぎさくらを渡し、水中メガネを装備して水中散策を楽しむ。蟹や海老を捕まえ様としたが、残念ながら自分に捕まる間抜けはいなかった。充分に楽しんだので、上がってステータスを見たらスキル【水泳】【潜水】が増えてた。


 そしてメインイベント釣りだ。釣って釣って釣りまくるぞ! と思っていたが現実はそんなに甘くなかった。初心者セットにはリール無しのエサ釣り竿とルアー用のスピニングリール付きの竿があり、大物狙いでルアーを選らんだがさっぱり。魚がスレてるのか、魚群が薄いのかピクリともしない。宮城の釣りキチ助平の名が泣くぜ。


 初心に戻りエサ釣りに変え様と思ったが、どうやら昼食の様だ。いつの間にかオーロラとぺん太、エリーナが来ている。ぺん太、ここに居たのね。


 エリーナ達が貝に海老、魚を焼いて持ってきてテーブルに並べていくと、さくらが絶賛大興奮。さっきまで砂遊びをしていたのか、さくらとうさ子が砂まみれだったので浄化の魔法を掛けておいた。



「冷める前にお召し上がりください」


「では、お言葉に甘えて、いただきます」


「ミャミャー」



 アルファがさくらに魚の身をほぐして皿に載せて渡している。さくらは満面の笑みでハムハム。本来なら自分が釣った魚があそこにあったはずなのに、無念。



「ぺん太なんか色変わってないかい」


「クェー」



 久しぶり? に見たペン太の色が青味がかって見える。鑑定で見てみるとフロストペグミンとなっており、人魚の加護なる称号を持っている。



「お前、いつの間に進化したんだ」


「クェー」


「申し訳ありません。私がこの子に何かお礼と思いまして、私の加護を与えましたら進化してしまいました」


「お礼される様な事、お前したか?」


「クェッ!?」


「この子が私達の元に来なければ、今の私達はありませんでした」


「こいつの食意地がした事ですよ?」


「ク、クェ~」


「フフ……それでもです」


「そんなに気に入ったならあげましょうか?」


「!?」


「冗談だよ」


「クェッ!」



 さて、腹も膨れた事だし、宮城の太公望に戻ろう。


 針は付けて釣るけどな。



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