51 仮面のマーメイドプリンセス

 テーブルを囲んでアルファのいれたお茶を飲んでいる。メンバーは俺、さくらを抱えたアルファ、オーロラ、爺やの四人。うさ子とぺん太は砂浜に敷物を敷いて、その上でゴロゴロしてる。天気が良いので気持ち良さそう。できれば自分もそっちに行きたい。


 そう言えば、ロープでグルグル巻きにしたマーマン二体は解放した。さくらが魔王だとわかると恐縮しきってた。当然か。


 飲んでいたティーカップを皿に置き



「さて、一息着いた事ですし、本題に入りましょうか。まず先程も言いましたが、私が魔王より全権を委任された、魔王(笑)のあるじことルークと言います。お見知り置きを」


「魔王のあるじ……ならば貴公の方が魔王様より偉いと申すか」


「どう取って頂いても構いません。私とさくらは偉い偉くないとか言うくだらない関係ではないので」


「ミャー」


「我らの上に立つかも知れぬと言うに、くだらぬと申すか!」


「えぇ、くだらないですね。本音を言えば、ぺん太が関わらなければ自分達で解決して欲しい所です」


「ぐっ……ぐぬう」


「ですが、ぺん太殿が関わりを持たれた事から、手を貸して頂けるのですな」


「話を聞いてからじゃないと、何とも言えんよ。じいさん」


「それで結構でございます。我々にはもはや十三魔王様に縋る以外、為す術がないのですからな」



 じいさんに説明を促した。


 この世界の海は海神の眷属である海竜王が治めていたが、二百年前に突如情勢が変わった。邪神による魔王の召喚である。その時に一体の魔王が海の中に拠点を置いた。海竜王は二百年の活動期間の後、五十年の休眠期間に入るサイクルを繰り返している。


 海に拠点を置いた魔王は当初は余り動きを見せなかったが、海竜王が休眠期間に入ると勢力を拡大させ始めた。それが今から五十年弱前になる。


 そろそろ海竜王が活動期間に入ると思われる時期のそんな矢先に、第十三魔王の召喚である。海竜王だけでも厄介な上、第十三魔王まで来たら不味いと考えた魔王は海竜王が目覚める前に勢力を拡大させる為、部下に海竜王側や無所属の勢力の切り崩しを部下達に命じた。


 因みに今までは人魚族は近くの海竜王側や無所属の勢力と手を組んで魔王の勢力をけん制したり、多少の海産物等の貢物を贈ってやり過ごす関係だった。


 しかし、魔王の命を受けたサハギン族が人魚族の所に来て、魔王の傘下に入れと言ってきた事から関係が悪化し傘下入りの件を先延ばしにしていた所、痺れを切らしたサハギン族が強行策にでて今に至るらしい。


 味方側の勢力に救援要請を出したが、どの勢力も魔王側の勢力により人魚族と同じ様な状況に陥っている為、助けに来れないそうだ。



「今まで、何やってたの」


「お恥ずかしい話ですが、何もしておりませんでした」


「……」



 戦見て矢を矧ぐって奴な。


 魔王に属していない勢力は比較的、知能が高いモンスターや個体能力が高いモンスターが多く、魔王に属した弱小モンスターなどになど負けるわけがないと高を括っていた訳だ。


 べべん べんべん


 祇園精舎の鐘のこえ~

 諸行無常の響きあり~

 沙羅双樹の花のいろ~

 盛者必衰の理をあらわす~


 べべん べんべん


 この種族助けるべきなのだろうか……。


 さくら以外の魔王の勢力拡大は見過ごせないから助けるのは吝かではないが、選民思想みたいなの持ってるなら逆に潰すか? そこら辺ははっきりさせないと駄目だな。



「それでどうしたいのです。さくらだって魔王の一角ですよ」


「それは重々承知しております、できますれば海竜王様が目覚めるまでの間で構いませんので我らを含めた勢力の盟主となって頂きたく、お受けして頂く訳にはまいりませんでしょうか」


「……」



 何言ってんだこのじいさん、最初から何か変だった。今もそうだがこのじいさん下手にでてるようにみせているが、結局主導権は人魚族が取ると言ってるんじゃねぇ? 流石にここまでくると察しがついてくる。



「勿論、タダでとは申しません。今の貴方方では手に入らない程の財宝を用意致します。事によっては魔王の勢力をそのまま隷属して頂いても構いません。如何でしょう」


「うーん。成程、良くわかりました」


「おぉ流石。第十三魔王様であらせられる」


「はっ? なにを勘違いしてるのですか」


「か、勘違いとは如何なる事ですかな。先程の報酬ではご不満ですかな」


「別にそんな事はどうでも良いです」


「それでは何が良くわかった言うのでしょうか」


「はぁ……貴方たちが俺達の事を、口先で丸め込めるバカ程度と思ってる事がですよ」


「……」


「どこまで上から目線なんだよ。勝手に滅べ」


「お、お待ちください。爺やがあなた方を試した事、お赦しください」


「いや、赦せませんね。そいつは下策を打った。それも最悪な下策だ。この茶番劇自体そいつの考えでしょう。目障りだな失せろ」


「……」


「お下がりなさい。爺や、もう良いのです」


「しかし!」


「下がりなさい」


「はっ……」



 じいさんが席を立ち一礼して、御輿の方に歩いて行った。



「数々のご無礼、なんとお詫びして良いか……」



 先程までの鬼面の様な表情が体貌閑雅に変っている。



「それが本当の貴方ですか」


「お恥ずかし限りです。魔王様と交渉する上で少しでも強気な態度で臨まねば、足元を見られると……」



 いつの間にかぺん太が彼女の足元にいる。



「くぇ~」



 彼女はぺん太を抱きかかえ俯いてしまった。



「そこまで追い詰められているのですか」


「はい……」



 仕方ない。交渉を仕切り直すか。



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