52 出張何でもオメガ君

 再びアルファがいれたお茶を飲んでいる。


「それでどんな状況なのですか」


「食糧が不足している状況です……」



 実はこの島が迷宮【珊瑚に囲まれし島】でその奥の海底に【蒼流神殿】があり、総勢七百もの人魚が暮している。通常は蒼流神殿から人魚だけが使える通路を使い海に出ている。


 迷宮は砦の様なもので迷宮としてはほとんど機能させていない。人魚自体が魔力が多い種族なので自分達から吸収される魔力で、クリスタルから日用品を交換する程度なら十分事足りたそうだ。


 しかし、今回はサハギン族により近海の海から魚どころか海産物が消える事態がおき、日用品に回していた魔力を食糧に充てたが、全く足りていない状況で老人や子供達を優先にしてる為、大人に十分に行き渡らない緊迫した状況になってるようだ。



「全くもって、危機管理がなってないですね」


「申し訳ありません……人間達は私達の仲間を攫っていくので、迷宮を解放して人間と関わりを持ちたくないのです」


「気持ちは察しますが、逆効果なんですよ」


「どういう意味でしょうか」


「貴方達が隠せば隠す程、人間は興味を惹かれ貴方達にちょっかいを出す。人間の心理効果とでも言うものでしょうかね」


「……そうなのですか」


「貴方達だって食欲や性欲、睡眠欲があるでしょう。それが少しばかり、他の生き物より良くも悪くも顕著なんですよ。名誉欲、知識欲挙げたらきりがない」


「それでは我々はどうすれば良かった言うのでしょうか」


「それを今、言った所で意味は無いですよ」


「……」



 残っていたお茶を飲み干した。



「こちらから出す条件は二つ、さくらの傘下に入る事。そして一番大事な条件が貴方達の意識改革をする事です。両方を呑んで頂ければこの話に介入します。片方だけでは不成立です。あしからず」


「傘下に入ると言うのは分かりますが、意識改革とはなんでしょうか」


「あのじいさんを見るに貴方達は選民思想といかないまでも、他種族を見下す傾向があるのが顕著に出ている。今の状況になってさえ変わっていない」


「……」


「貴方達はその見下していた者達によって、今まさに滅ぼされようとしている。この事をどうお考えですか」


「……」


「今の貴方達はこの世界の底辺にいる。まして見下してきた者たちと比べても、比べられない程に最底辺です。その事に気付いていますか? 滅びの時はすぐそこで、滅ぼされないまでも一生魔王に隷属される姿が目に見えています」


「どうすれば良いと」


「現実を謙虚に受け入れれば良い。こざかしい策など労せずに助けてくださいと一言頭を下げれば、俺達じゃなくとも人間達だって助けてくれたはずですよ」


「助けてくださいますか」


「人の話聞いてました?」


「……助けてください。お願いします……」


「はぁ、我々は甘くないですよ。条件はしっかりと呑んでもらいます。で、良いよね。さくら」


「ミャー!」



 さくらはアルファの腕からぴょんと飛び、オーロラの頭に肉球パンチを喰らわせる。



『条件がクリアしました。強制クラス進化します』


『珊瑚に囲まれし島が魔王(笑)の傘下に入りました』



 毎度の如く光に包まれた。光が収まると少し気品が増したオーロラがいる。



「クェー!」



 マーメイドクイーンに進化していて、称号に魔王(笑)の三の臣が付いた。本人は驚きを隠せず唖然。



「クリスタルのある場所に案内してください」


「しょ、承知しました」



 荷物を全て収納して移動。うさ子、いつまで日曜のパパみたくゴロゴロしてる。置いてくぞ。


 オーロラの後に続き森の中を抜けると、崖に洞窟がありそこをさらに抜けると水に浮いた様な神殿を中心にした村があった。


 神殿に入りクリスタルのある場所に着く。それは神殿のど真ん中の広い部屋に無造作にあった。ここからして危機管理がなってない。今は言っても仕方がないので無視。



「さくら、あれお願い」


「みゃ~」



 わかるよ。嫌なのは凄くわかる。でも、頼りはさくらだけ。


 クリスタルにさくらの前足を向ける。さくらも意を決し前足をクリスタルに触れさせた。



「ミャミャ……」



 前よりさらに長い様な気がする。



「ミャッ!」



 合図がきたので前足を離す。ポシュッと気の抜けた音がする。どこも同じか。



「じゅ、十万……」



 オーロラが固まったまま動かなくなった。


 それにしても十万ですか……じゅうまん、じゅうまんじゅう、まんじゅう食いたい。帰ったらクリスタルか出して食べよう。さくらもまんじゅう好きだしな。


 頑張ったさくらにチューしてアルファに渡す。アルファ、なぜ俺がチューした場所をハンカチで拭くのかな。こいつとはいつかしっかりと話をする必要があるな。



「固まってるところ悪いが、転移ゲートを設置して降魔神殿と繋げるぞ」


「えっ、降魔神殿?」


「さくらの今の所の本拠地だ。それから、オーロラが全幅の信頼を寄せる者ふたりを用意してくれ。あのじいさんは却下な。こざかしい小策士はいらん」


「しょ、承知しました」


「このクリスタルに使用権限を付ける。使用出来るのはさくら、俺、アルファ、オーロラ、選ばれたふたり、それに今から連れてくるオメガだ」


「何故、その様な制限を付けるのでしょうか」


「意識改革の一環だな。今は時間が惜しいので後で説明する」



 クリスタルを操作して転移ゲートを設置してクリスタルの使用権限も設定する。もちろん、転移ゲートもだ。


 ゲートを通り。有無を言わせずオメガを引っ張って来る。



「ルーク様、私に何をせよと」



 こいつは頭が良いし話が早くて良い。



「さっき、さくらの傘下に人魚族が入った。現在、別の魔王の配下と交戦中だ。正直旗色が悪い。この場所を守る迷宮があるが、オール以上に手を入れていない状況だ。最悪今回戦いに負けても、籠城して時間を稼げれば良い」


「それを私にやれと」


「もうすぐ人魚側からふたり来るから、そいつらと一緒に頼む。当面はオメガがメインだ」


「ミャ~」


「お嬢様にそう言われれば断れません。謹んでお受け致します」


「よろしく頼む。迷宮と並行して食糧も出してくれ餓死寸前らしい」


「承知しました」



 流石、オメガくんは俺と違って優秀だね。一を聞いて十を知る。素晴らしい人材だ。モンスターだけどな。



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