35 残念女神との私闘

 何故、こうなった?


 目の前はカオスである。


 腕の中のさくらは、またしても怖くてプルプル震えている。


 美人なお姉さんにさくらを渡したまでは良かった。が、情報ギルドの受付嬢とはいえ、世の女性のひとりだったと思い知らされる。


 最初に動いたのがお客がいなかった隣の受付嬢。美人なお姉さんが抱いたさくらに触りたかったのだろうが、さくらは人見知りの上知らない人に触られるのが好きではないので、触られる前にぴょんと飛んで俺の元に戻って来た。


 その受付嬢さんがずるいと言いだし、さくらに触りたいと言ってきたがさくらは嫌がっている。美人なお姉さんが間に入ってくれたが収まりそうもなかったので、妥協案を提示した。


 そう、これが悪かった。あんな事言わなければ、このカオス状態を回避できたかもしれない。既に家事後の妻暇人……もとい、火事あとの火の用心。



「この子の方が毛並みも良いし、抱き心地も良いですよ?」



 うさ子が口を開けた状態で首をギ、ギギーっと回し、お前裏切ったなという目をしてた。


 うさ子、許せ! モフモフされるの好きだだろう? それに、主のさくらを守るのが臣下の役目ってもんだろう? 違うか?……ぐふふっ。


 隣の受付嬢さんはうさ子を見て、一瞬目がキランと光った様に見えたと思ったら抱きついていた。


 そして、間が悪かったんだ。今日の情報ギルドは何故か、女性プレイヤーが多かったんだよ……。


 何もできなかったよ……。さくらを守るのが精一杯。ぺん太も救えなかった……。



「クェ~ェ~」



 と言う泣き? 鳴き声と供に女性陣の波に消えていた。


 もう何を言っても馬耳東風、聞く耳持たず、為す術なし。カオスです……。さくらを抱いたまま茫然と立っている事しかできない。



 どの位経ったのだろうか? このカオスな状態に女神が舞い降り一筋の光明がさす事になる。



「お前達! 何やってんだい! まだ営業中だよ!」



 何ともガラの悪い女神だな。只、立っていれば見目麗しいのに残念だ……ゾクッ……女神の方から殺気が……。



「ほら散った散った! それでお前が元凶かい?」



 濡れ衣だよ。何言ってんですか、犯人はそこですよ。隣の受付嬢さんを指差した。



「レ、エ、ザ! お前かい?」


「ヒッ! ち、違いますヨー 。私じゃ無いですヨー。レイアリーサさんですヨー」


「ほう? あの子がねぇ。それでレイアはどうした?」



 美人なお姉さんはレイアリーサさんて名前だったんだ。そういえば、どこ行った?



「さっきまでここに居ましたよ。サブギル」



 残念女神さんはサブギルさんて名前か……ゾクッ……あれ? また悪寒が殺気と供に……。やだなぁ冗談だよ。ちょっとお茶目にボケただけだよ。ホントだよ?



「まさかな? 取り敢えず、レイアを探せ! おい! お前事情を説明しろ。ついてこい」



 何故、俺がついて行かなければならない? 理不尽だな。こういうのは初めが肝心。



「断る」



 ピシッと音がしそうなくらいこの場の雰囲気が凍りついた。



「ほう。お前、誰に向かって言ってるかわかって言ってんだろうね」


「知るか! 迷惑を被ったのはこっちだぞ! そっちこそどう落とし前つけるんだ?」


「舐めた口を聞くじゃないか、ヒューマン風情の小僧が!」


「ふんっ! エルフの行き遅れババァに言われたくないねぇ」



 ビシッ! さっきの凍りついた場の雰囲気にひびが入ったようだ。因みにエルフとわかったのは鑑定したからだ。



「小僧……死にたい様だね」



 どす黒いオーラを纏ったエルフが居る。や、やばいかな? ここまで来ると引くに引けないんだよねぇ。



「なんだ? ばあさん、行き遅れってのが相当堪えたか、年寄りの冷や水は体に毒だぞ」


「上等だよ。楽に死ねると思うな。外に出な!」



 表に出てきた。さぁーどーしましょー? 何も考えていない。


 どこかで見た西部劇のガンマンの気分だな。るか、られるか。


 うさ子にさくらを預ける。さくらが不安そうな鳴き声をあげた。



「みゃ~みゃん?」


「大丈夫。何とかなるさ」



 サブギルはレイピアを抜いて持っている。まだ、構えてはいない。


 相手の能力は既に鑑定済み。レベルは向こうが上、しかしアドバンテージを活かし先制を仕掛け一気に決める。


『妖怪バァバァだけに化けの皮はがれてんだよ! 目玉のOYAJiの入浴なんかみたくねーからちゃんちゃんこで攻撃するよ作戦』


 着替えたくないが怪しい人装備に変えたが、憤怒の槍は使わないので仕舞う。



「おかしな格好だね。死ぬ準備はできたかい?」


「……」


「怖くて声も出ないかい。ふん。好きな時にかかっておいで!」



 じゃあ遠慮なく。



「西方白虎。金行を用って木行を相剋せよ! 急急如律令!」


「なっ!? 何をした?」



 相手の得意な風属性を封じてみた。


 相手がなにをしたか気付いていないうちにフラッシュバースト!


 アンデット、デーモン以外には微々たるダメージを与えられないが、強烈なフラッシュ効果で相手の視界を一時的に奪える。後は、健脚で一気に間を詰め、相手が気付いた時には俺は目の前に居る。


 軽く相手の脇腹に拳を当てて、内功スキルにより体の中の気を拳から一気に放出!



「ガハッ……ぐぅぬぅ」



 体がくの字に曲がり苦悶の表情になる。運が悪ければあばらが折れたはずだ。脇腹は体の中で鍛え難い場所。なので、直ダメージに繋がる。あばらが逝ったら動くのも困難なはずだ。


 ふっ。完璧すぎる。俺って凄くねぇ? なんて思った時機は一瞬。完全に油断してた。


 気付いた時には腹に蹴りを喰らって、吹っ飛んでいた。


 何が起きた? あの状態から蹴りって化け物かよ!



「なっ!? 魔法が使えないだと!」



 危ない危ない追撃の魔法を使おうとしたらしい。やはり気付いていなかったようだ。


 しかし、あれで決まってくれないと困るんですけど……もう打つ手が無い。


 いやあるにはあるのだよ。相手の動きは確実に鈍ってるから遠くからライトバレット連発すれば、時間は掛かるが確実に勝てる。でもそれをやるとね、試合に勝っても人として負けるって感じだろう? どうよ?


 こうなると相手の土俵にのるしかないのか? しかたない、憤怒の槍を持ち相手の間合いに入る。


 エルフバァバァは一瞬驚いた目をしたが、口元をニヤリとさせ剣撃を振るってくる。こいつ脳筋か?


 数合打ち合ったが全く歯が立たない。どんどんHPが減っていく。おかしいと思ったので再度鑑定したら剣術の見間違えで剣技だった。剣術の上位スキルだな、おそらく……。


 こちらも攻撃を捨て防御に専念してヒールを使いつつ攻撃力UPをはかり、一撃必殺を狙うしかない。


 一種の膠着状態になった時、それは訪れた。



「お前らなにやってんだ?」



 そう。このまの抜けた声はマクモンさん。




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