36 制限時間有りのクエスト

「この小僧に教育的指導をしている」


「このババァに世の一般常識を教えてやってる」


「そ、そうか? そうは見えない気がするが……取り敢えずやめろ」



 マクモンさんにそう言われれば仕方がない。仕方がないんだぞ!


 お互い渋々ながら矛を収める。



「で、原因はなんだ?」


「「こいつだ!」」


 ハモった上にお互いを指差す。そして頭に強い衝撃!



「「がっ!」」



 目から火花が出た。余りの痛さにうずくまる。ババァも同じ格好になってる。



「喧嘩両成敗だな。余興は終わりだ! 帰れ帰れ!」



 周りを見れば凄い人だかりになっていた。見てた奴らが、決着付けろだの、キャーお姉さまー、そいつ死ねだの、久しぶりに血染女王見たぜとか好き勝手言ってるな。しかし、血染女王って……素晴らしい二つ名をお持ちで……。



「マクモン、小僧を知ってるのか?」


「知ってるも何もうちの客だ。言っとくがばーちゃんの恩人でもあるからな」


「コリンの恩人だと?」


「こっちの兎はばーちゃんのお気に入りだしな」


「キュッ?」



 うさ子が終わったと思い近寄って来た。



「ミャー!」



 さくらが飛びついて来たので装備を外し普段着に戻って抱っこする。この荒んだ心が癒されていくよ~。心配してくれていたのだろう、顔中ペロペロしてくる。さくらは優しいね。それに比べ、ぺん太ときたらうさ子の後ろで大欠伸。



「ルーク! おいっルーク!」


「なんですか? 今忙しいんですけど」



 さくらとイチャラブ中だからな。



「忙しい様には見えんが? それより何でこうなった?」


「さっきも言いましたが、そちらのババァに因縁つけられたんですよ」


「小僧。さっきからババァ、ババァってほんとに殺すよ!」


「うるせーよ、てめえも小僧って言ってんだろう。バ、バ、ア」


「ハァ……もう一発ほしいか? お前ら」



 ノーセンキューです。何でも聞いて下さい軍曹殿!



「場所変えるぞ。ガレディア、部屋貸せ」


「ふん! 勝手にしろ」



 ギルドの二階に一室に連れてこられた。会議室みたいだな。結局、連れてこられた訳だ。


 軍曹殿マクモンさんと向かい合う。むさい男とお見合いする趣味は無いのだがしかたがない。ほとんど取り調べ室での尋問だ。黙秘権を行使します。弁護士を呼んで下さい。ギロリと睨まれた……洗いざらい喋ったよ、冤罪だと。



「と言ってるがどうなんだ? ガレディア?」


「間違っちゃいないんじゃないかい?」



 聞きました? いや逆に開きなおったのか? 驕る平家は久しからずってな何様ですか?



「こいつはガレディア。うちのばーちゃんの昔っから知り合いでな、俺の飲み仲間でもある。悪い奴じゃないんだが見ての通り口が悪いせいで、誤解されやすくてな。今回は俺に免じて赦してやっちゃくれないか?」



 マクモンさんにそこまで言われると、こっちとしても強くでれない。



「わかりました。マクモンさんの顔を立てましょう」


「そうか。わりーな」


「なんだい? まるで私が悪いみたいじゃないか!」


「「お前が悪いんだよ!」」



 扉を叩く音がして一人の女性が入ってきた。



「サブギル。お話中申し訳ありませんが、レイアリーサの行方が知れません。ウルガ様の手の者を見たと言う報告も受けております。如何なさいますか?」


「ウルガだと? 奴が白昼堂々と攫ったってのかい?」


「あくまでも予想の範疇ですが、十分考えられます」


「それで追ってるんだろうね?」


「数名追わせていますが難しいかと」


「わかった。そいつらが戻ったら知らせておくれ」


「承知しました」



 おぉー、なんかかっけー。さっきの秘書さんみたいな女性の事だよ。間違っても残念エルフの事じゃないからな。



「レイアリーサになんかあったのか?」


「攫われた可能性が高い」


「どうして? ギルドにいれば安全だと言ってたろ!」


「さっきこの小僧が言った騒ぎの間にやられた……」


「やられたで済むと思ってるのか!」



 何やら怪しい雲行きになってきた。



「ルーク!」



 ほらきた。



「頼むレイアリーサを救ってくれ!」



 天の声インフォが聞こえる。



『情報ギルドの受付嬢レイアリーサを救え。が発生しました』



 マクモンさんも絡んでるし、受けないわけにはいかないな。


 内容を確認すると、このクエストの発生条件は結構難しい。マクモン、コリン、ガレディア、レイアリーサの四人と知り合ってないと起きないクエスト。なかなかレアじゃないかな?



「マクモンさん。全く話が見えません。説明をお願いします」


「あぁ。すまない、気ばかりがあせっちまって」



 レイアリーサさんのご両親が、コリンさんとガレディアの友人だったそうだ。


 レイアリーサさんのご両親はハンターで依頼を受けている間、コリンさんとガレディアが面倒を見ていたらしく。小さい頃からマクモンさんを兄の様に慕っていたらしい。レイアリーサさんのご両親は王都を拠点にしているので、ガレディアがいる情報ギルドに勤めている。


 攫われた理由は、レイアリーサさんが純エンジェール(天使族)。ようするに、レア種族なのと容姿端麗な事から領主の息子に目を付けられたって事。何度かちょっかいを出してきた事があったが、ガレディアが事如く潰してきたお陰でこの頃はおとなしくなっていたそうだ。


 現領主のバーデン辺境伯は人柄、治世共に良く、領民からも慕われているが長男のウルガは早くに母親を亡くした事から甘く育て我儘し放題になった。父親である領主も匙を投げていて、次男を領主にすべく画策しているとさえ言われている。



「ここの領主クズですね。 ちゃんと責任もてよ」


「「……」」


「で? どうすれば良いんですか? 領主の屋敷に襲撃をかければ良いのですか?」


「襲撃ってお前……」


「ウルガは屋敷にはいまい。どこかに隠れ家があるはずだ」


「だからそれはどこ?」


「今、探っている……」


「それだと手の出しようがない」


「わかっている! わかっているさそんな事!」


「ハァ……報酬は貰うぞ。そちらから出せる戦力は?」


「無い。情報ギルドが関わっている事が知られるのは不味い。極秘裏に進めたい」


「マジっすか!? でウルガと手下はどうする?」


「……処分して欲しい」



 し、処分って凄いこと言いな。ガレディアの顔を伺うに、腹に一物、背中に荷物、三四がなくて、赤子にオムツって感じだ。



「利用されるのって嫌なんだけど……終わったらバッサリなんてないよな?」


「悪い様にはしないさ。只、情報ギルドも一枚岩じゃないんでね。これを機に掃除でもしようかと」


「どうぞご自由に、マクモンさん。この依頼を受けますよ」


「お、おぅ頼む。レイアリーサを救ってくれ!」



『クエストが開始しされます。クエスト開始によりカウントダウンを始めます』



 時間制限ありっすか? 大変なクエスト受けてしまったな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る