14 うさ子、お前はライオンか!?

 ギルドを出る時うさ子を女性陣から引き剥がすのに大変手間取った。


 こんなに可愛い生き物を戦わせるのか、とか私達の癒しを奪う気なのしまいには、抱きついて離れない人までいた。


 そもそも、うさ子の方が強いですから。それに、うさ子は貴方たちのものではありません。うさ子、さっさととその引っ付いてる得体のしれないものポイしなさい。



「キュッ?」



 なんとか、ギルドの建物から脱出できたが扉を出るとき女性の方々が殺意の目で此方を見ていた。怖っわ…。今後、ハンターギルドには近づいてはいけないと心に刻んでおく。


 ハンターギルドに登録できなかったのは痛いが、当初の予定通り午後からはレベル上げをする異にする。


 昼も近くなっていたので街の外に出る前に屋台で昼食でも食べてから行こう。立ち食い蕎麦があったのでそこで昼食を簡単に済ます。自分はうどんより蕎麦派。よく仕事帰りに駅前の立ち食い蕎麦屋で食べていた。うさ子は俺の横でウサギポケットから露天街でもらった野菜を出して食べていた。



 食事も終わり外に出る為門に行くと、昨日の気さくな衛兵さんが居た。



「外に行くなら許可証を提示してくれ」



 昨日と同じようにうさ子の頭をワシワシと撫でながら言ってくる。食われても知りませんよ?


 許可証を見せながら毎回見せないと駄目なのか尋ねると、まぁ仕事だからな、と言われた。面倒だな。


 街を出てだいぶ歩いた気がする。今日は少し遠出をしてレベル上げをしようと思ったからだ。うさ子がいるから多少レベルの高いモンスターでもやり合えると見込んでの事だ。


 昨日より更に遠くに来た所で、遠くにちらほらプレイヤーらしき人達が見えるようになった。彼らもレベル上げでもしているのだろうか? モンスターも結構な数がいるので取り合いになる事はないと思う。


 フッフッフ……今日の俺は一味、いや二味、三味位違うぜ。



「良し。やるぞ、うさ子!」



 天の声が聞こえる。



『うさ子がパーティーから外れました』



 嘘ッ!? うさ子は独りでやんな、とばかりに自分と反対方向に歩いて行ってしまったではないか……。



「う、うさ子さん?」


「……プイッ」



 なんだろう? この断崖絶壁から突き落とされ、石までを投げつけられ沈められた感……。まさかここまで来て独りソロですか?


 俺が豆腐メンタルならもう立ちあがれないと思うぜ……。社会人として世間の荒波にもまれてきてるから、なんとか立ちあがるけど鬼畜過ぎないかい?


 誰だ今日は幸先が良いなんって言った奴、予定が大幅に狂った。まぁ言ったの俺だけどね。


 ゲームを始めて何度も断崖絶壁から叩き落とされているがここが俺にとって、このゲームをやっていくうえでのターニングポイントなのかもしれない。


 やるしかないのだ! 作戦を考えよう。そう、こんな作戦はどうだろう。


 作戦名『トレインして自爆か? と思わせておいての無双しちゃったよ作戦』


 なんと優美で官能的な響き。自分で考えておいて言うのも何だが、あまりの自分の才能におそろしさを感じてしまう。さて、それでは作戦を開始しよう。と、その前に怪しい人装備に変更だ。


 さあ、準備は整った。最初はあいつからだ〈グラスウルフ ♂ Lv5〉に堂々とライトバレットを放つ。こちらに気付き涎を垂らしながら走ってくる。怖ぇーよ。


 掛かってくるが良い。健脚を使いダッシュで逃げる。誰が戦うと言った、フッ。これも作戦の内。逃げながらリンクが切れないように注意し、次の相手を探して更にリンクするように誘導する。


 これこそ自爆覚悟の電車ごっこ……もとい、モンスタートレイン!



「イッヤー! たーすーけーてー!」



 どの位走っているかもう覚えて無い。後ろを見れば無数の黒集り。怖い……自分でやっておいてなんだが、非常に怖い。最初は笑って見ていた周りのプレイヤーは既に見当たらない……当の昔に逃げ出したようだ。


 普通のプレイヤーではこのトレインに巻き込まれたら即、死に戻りだろう。それくらいのモンスターを引き連れている。


 しかし! 自分の防御力なら大丈夫! そう、大丈夫だ。大丈夫だと思う……よ?


 自信は無いが確信はある。


 意を決し今回の鍵となる槍をしっかり握り締め、シールドを構え後ろに向きを変える。強い衝撃があり、一瞬で目の前が真っ暗になる。



「いでででっ! いだだだだっ! ちくしょー。いっそひと思いに殺せ!」



 男の俺がクッコロしても全くモエない……誰得なんだ? 死ぬことは無いと思うが痛覚レベルを低くしたとはいえ、四方八方から針を刺されるかの様な痛みがくる。HPはゆっくりと減少していくが何度か痛みに堪えて、ライトヒールを使って回復をしている。


 まだいける、まだ大丈夫と心の中で自分を励ます。そうでもしないと心が折れそうだ……目を閉じているが、すぐそばにはあのリアルでグロい顔があるのだ。


 シールドと槍を手放さない様に手が痛くなるほど握り締め、体を低く構え耐える。何度も、もう良いよな、まだ駄目だのループを繰り返す。


 そして真の限界が訪れた。



「もう! 限界! だぁー!」



 の声と共に憤怒の槍を振り回す。ただ闇雲に振り回すだけ、そこに武道の心や技など無い。この現状から早く抜け出したいが為に……。



 槍に触れたモンスターは一瞬で光に還る。


 もう何度槍を振ったか覚えていない。気付けば俺しか立って居ない。それを理解した時、緊張の糸が切れたようにへたり込んでしまった。


 魂の抜けかかった俺の肩を何かが触れる。まだ……居たのか? と、ギィギィーと振り返ると……うさ子がそこに立っていた。


 腕を前に突出し可愛いらしい親指? を上をに向いけている。



「Good Job! ってか!」



 コクコク、頷いている。



 って、お前はライオンか! 我が子を千尋の谷に突き落とし這い上がって来た子だけを育てるってやつか!



 で、俺って合格?




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