第2話アホは描く

時が流れるのは早く、あと一週間で夏休みも終わってしまう。


と、まぁあと一週間といっても特にすることもない。

宿題は終わったのか?愚問だな。

僕はそこらにいる無計画なやつらとは違う。

暇潰し程度にしていたらすぐに終わってしまった。しおりの日記に書く嘘にも飽きてきた。

もう少し手応えがあるか、バカみたいに量を増やしてくれたほうが僕は退屈しないんだがな...


それにしてもだ。

毎年毎年夏休みになる度に言ってるのになぜ改善しようとしないんだ?結局困るのは自分なんだぞ。それともなんだ、自分で自分を苦しめたいマゾが小、中学生には多いのか?

人のことを兎や角言う気はないが、きっと夏休みは、気分的にも精神的にも楽しみなんだろう。


「おっと、考え事をしていたら、もう目的地か」

退屈で優雅な夏の終わり。の、はずだった。でも今年はちょっとアブノーマルな事が起きた。久留米との出会いだ。

入学式の日から薄々感ずいてはいたが、まさか予想を遥かに越えるほどとは、、、


そして、僕の夏休みは脅かされる。

それは一本の電話だった。



電話には母さんが応答した。この時点で僕の優雅な時は音をたてて崩れ落ち始めていた。

電話の内容は久留米からの遊びの約束と勉強会の参加勧誘いや、正しくは久留米の宿題の手伝い。確か将来の夢についての作文を手伝って欲しいとか。

そんなことに僕は行きたくない。しかし俺には拒否権がなかった。なぜか、母さんがすべての話に賛成したからだ。

そんなの断ればいいと思うだろうが、ここがうまくいっていれば今ここにいない。

主に原因は二つだ。


僕は基本親には逆らわず、親を怒らせないようにしてきた。なぜか、僕は昔、まだ小学生だったころに親と口喧嘩をした。

親の主張を完全論破してやった。その時は僕も知らなかった。まさか二週間もそのことで機嫌が悪くなるなんて、、、

それ以来、僕は親には逆らわないことにした。

二つ目は僕のせいでもある。

僕は天才で周りの人との会話のレベルが違い過ぎた。同学年のやつと喋っても、おもしろくない。バカなことを言われて僕の気分が悪くなるだけだった。

ここまで来ればもうわかると思うが、僕はボッチだった。客観的に見ると友達のいない子だ。

もちろん親は心配していたが、僕がそれでいいならっと、特に口出しはされなかった。


そんな中で僕に電話がかかってきた。しかも女子だ。この上無く不快だが、彼女と思われても仕方ないくらいだ。

ここからは想像だが、恐らく母さんはこう思った。

私には逆らわないようだし、本人が断ってしまうかもしれない。...なら!私がOKしちゃえばいいや!

っとまぁこんなところだろう。

今思えば母さんも大抵アホなのかもしれない。

「はぁ、全く、さんざんだな」



川。校区に流れる川。深さは最高でも腰あたりまでで夏場は子供達のいい遊び場になっている。実はこの場所を選らんだのは僕だ。

今日の朝のことだ。


僕はどこに行くか、この時まで聞いていなかった。久留米に電話をかけると、あいつは市民プールなんて言いやがった。市民プール。あれはかなり疲れる。今も考えただけで頭が回りそうだ。絶対に行きたくない。

そこで僕はこう言った。

「市民プールなんてやめておけ。あれは文字通り市民、人の波を泳ぎ、人の波に流されるだけだ」

これを聞いた久留米は、理解してくれたようで、僕も安心して川へ迎える。


そして現在に至る。

「遅い」

待ち合わせの時間にもう15分近く遅れている。人を待たせている感覚はないのか。


「遅いわ、人を待たせている感覚がないのかしら」


ん?微かにだが聞こえた。

思想が近い人がいるもんだ。と声の主を探した。どれだけ探しても該当者は一人しかいなかった。

道を少し行ったところにまだ幼い小学2、3年くらいの女の子が立っていた。

すでに川で遊んでいる子達の友達でもなさそうだ。

きっとあの子も誰かを待っているのだろう。

あんなに小さいのに頭がいいんだな。天才の僕と同じ考えということは、あの子も天才なのかもしれない。


「菜々恵ちゃーーんっ!!」

あの子の友達だろうか、遠くからあの子を呼ぶような声がした。

その直後、あの子の友達だろうか、

「天笠くーーん!!」

遠くから僕を呼ぶような声がした。



「で、これはどういうことだ?」

「美紗、この子がもう一人の子なの?」

なんかこの子この子って逆じゃないか?身長から推定した年齢は10歳にも満たないぞ。

いや、だからこそちょっと背伸びしたいのかもしれないが。

この状況に久留米はというと、二人からの質問責めに対応できずあたふたしている。

すると

「ちょ、ちょっと待って!美紗が混乱しちゃてるから、一旦話を整理しましょ」

お?この小学生やっぱり頭がいいんじゃないか。この状況を整理しつつ、久留米の面倒も見ている。久留米もいい友達がいるじゃないか。


「じゃあ軽く自己紹介をするわ」

そして、僕の隣にいた、ポニーテールの童顔はおかしなことを言い出した。

「始めまして、私は中3の先輩。洲藤すどう菜々恵ななえよ。よろしくね」


へぇ?あれおかしいな、推定年齢を大幅に上回ってる。最近の小学生はこんなジョークが言えるのか?

「あんた、今私のこと疑ってるでしょ」

心まで読めるのか...

洲藤先輩?はもう慣れたと、いうように呆れながら言った。

この様子から察するに本当に先輩なのだろう。にわかには信じがたいが...


その後、僕の自己紹介をして洲藤先輩に話を聞いた。

洲藤先輩は久留米の家の近所に住んでいて、小さい頃に知り合って以来、ずっと仲良くしているそうだ。



「ねぇえー!二人とも話長すぎーー!早く遊ぼうよ!ね!ね!」

と騒ぎながら服を脱ぎ散らかし、水着を披露した。

それを見た洲藤先輩は慣れた手つきで服を回収していた。毎度毎度こんなことをしていては骨が折れるだろうに。苦労したんだろうな。




「キャー!ギャー!!フォー!!!」

久留米は奇声を上げながら川の流れに抗っていた。

それを見て

「ギャハハハハハハハハッッッ!!」

洲藤先輩もネジがぶっ飛んでいた。

案外、似た者同士なのかもしれない。

その後も二人は、周囲の子供達すら軽く引いているレベルで暴走を続けた。周りの空気を読むだとかの発想はないのか。


ちょっとすると子供達が次々と川から離れて行った。いい加減あいつらが邪魔になったのだろうか。まぁ無理もない。

そう思っていたがどうやら違った。

子供が一人、僕に近づいて来た。


「お兄ちゃんたちも早く帰ったほうがいいよ。川は危ないから」

と言い、空を指差した。

そこには大きな積乱雲が、今にも雨を降らしそうに迫って来ている。


遅かった。雨が振りだした。気が付くとあたり一体の空を黒く厚い雲が覆っている。

何度も帰ろうと叫んだが、あいつらには届かなかった。

川の水が徐々に上昇している。

ダメだ、あいつらはそんなのお構い無しに暴走を続けている......


誰か、誰か、誰でもいい、俺はもう無理だったし、誰か別の、大人の人を呼んで来ないと...


「ぷっっはぁあ!気持ち良かったー!あれ?なんか川の水深くない?菜々恵ちゃんは?」


驚きしかない、荒れ狂う川の中を悠々自適に岸まで帰って来やがった。アホは感覚神経がないのか。周りに流されないって物理的にもなのか...!

...これなら、っとほっとしたのはつかの間だった。

洲藤先輩がいない。あいつと同調していたし、もしかしたら、と思ったが甘かった。

僕は久留米がこっちへ向かって泳いでいるのを見つけた時、考えることをやめてしまった。

天才であることが不安になった。



「っぷ...ぐがぁはっ...」

見つけた...!先輩は逆流に悶えながらも、その小さな手でしっかりと岩にしがみついていた。

でも...どうする。溺れた子供を助けに行って、助けに行った人も一緒に亡くなることもないわけじゃない。

何か、何か方法は...そうだ、久留米なら...!

「久留っ...」


久留米の名を呼びかけた時だった。

やつの姿は俺の横にはなかった。

辺りを見回す、こんな時にどこへ...

いた。泳いでいる。

荒波を掻き分ける姿の背には、小さな姿も見える。やった!これで助かる!

僕の見立てに狂いはなかった。そう、僕も本来あの時、久留米に助けに行ってもらうつもりだった。

これで本当にほっとできる。

久留米が岸に手をかける。

「はぁ...はぁ...菜々恵ちゃんはまかせたぁ」


久留米は先輩を僕に渡したことを確認すると、力尽きたように川に沈んだ。

バカやろう...!お前がここで死んだら!

僕も無我夢中で飛び込んだ。

川の流れは想像を絶した。たった数分でこれほどのものになるのか、っと。

よく...こんな中...を...およ...い...で......


体温が低下し、流れに押し潰され、大量の水が体内に流れ込むのを感じながら、


意識を失った。


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