お前は夢を描いているか?
@P-mankaroten
第1話 天才は描く
天笠
天才も楽ではなく、苦労も多い。
だが、天才だから回避も容易いのだ。
まぁ周りのレベルが低いのはわかっているし、僕が多少我慢すれば大抵うまくいくし。
「天笠!お前また宿題を忘れたのか!」
はぁ、僕はこの言葉をこの6年間で何回聞いただろうか。そして僕はいったい何回この返事をしなくてはならないのだろうか。
「忘れたのではなく、しなかったんです」
そうすると先生は相も変わらずにこう言う...
「どっちも似たようなもんだ!くだらん屁理屈言ってないで宿題をしろ!」って。
くだらないのはどっちだ。
宿題なんて僕には必要ない。あんなの時間の無駄。宿題は家で勉強が出来ないからそのために出してるんだろう。
なら家で勉強もしないバカなやつらに合わせて宿題をしようとは思わないし、バカなやつは宿題をしない。
先生はこのことに気付いても面倒だから動かない。先生がそんなだから生徒もバカになるんだ。
そんな学校でも義務教育だから一応来ている。僕は天才だから変に不登校になったりせずに普通に学校生活を送るのだ。
「おい聞いているのか!天笠!話はまだ終わってないぞ!」
今日は早く帰りたいのに。
でもこういう時の対処法がある。伊達に6年間もこんな茶番を続けていない。
「先生、じゃあ問題を出してください。解けたら帰ります」
こうすればすぐに帰れると僕は学んだ。
先生の出す問題は楽勝過ぎる。
「よし、じゃあとびきり難しいやつだ。(350+106)+2×22はいくつだ!」
教科書の問題だ。なにが難しいだ。そんな問題なんてとっくに確認済み。
「500です。帰ります、さようなら」
はぁ、疲れる。周りに合わせるというのも苦労するものだ。
しかしこんな小学生生活ももうすぐ終わる。
中学はもう少しましなところだろう。
ーと思っていた。
中学受験という選択もあった。
自分の力を試したかったが、僕の住む地域は校区が決められて、基本そこの学校に通うという制度があった。
まぁ、公立でも僕の天才っぷりは存分に発揮できるだろう。
どれだけ僕に付いてこれるやつがいるか楽しみだ。
桜の花が散り、葉桜が芽生えている。そんな葉桜並木の通学路を歩いていると、傘でチャンバラをしている同じ制服を着たやつがいた。
薄々気付いて、いや気付きたくなくて逃げていたのかもしれんが...
どうもこれは少し前と変わらん気がする。
俺はまた昔と同じ生活に戻るのかと呆れている。そして俺が前と変わらないのではと疑う原因もなんとなくわかっている。
「天笠くーーーんっ!!おはよーん!」
...こいつだ。
久留米
こいつはかなりアホだ。久留米とは運悪く、入学初日から出会ってしまった。
天才といっても運までは左右できない。
そして出会いは入学式、学校を散策していた時ことだ。
ーさて入学式も終わったし、校内の散策にでも行こう。
しばらく散策していると中庭に出た。
中庭は風通しがよく、木々やビオトープもあった。ここの学校はかなり古そうだが手入れも行き届いているし管理がしっかりされているように思う。
そんな手入れのされた木の上から声が聞こえた。猫の鳴き声...?
いや全然違う。これは人だ。
猫ならよかったんだが...人がいる。
よし、関わりたくない。
逃げよう。
ここで逃げるのは賢い選択だろう。
あんなとこにいたらいつ落ちるか危なっかしくて見てら...
「キャッ!!」
不覚にも振り返ってしまった。
そしてバッチリ見えてしまった。
白い布地の小さなリボンが付いたもの。
そう、俗に言うパンチラってやつ。
僕はそんな気はなかったんだ、そう不可抗力だ。普通に考えて木の上なんて下からまる見えだ。このことに気付けなかった自分が悔しいような、なんというか。
というかなんであいつはあんなとこにいるんだ、アホのすることはわからん。
「あー!今見たでしょーパンツ!みんなに言われたくなかったら降りるの手伝ってよ!」
こうなる気はしてた。
あー、なんかはめられた気がした。
あんなアホそうなやつにはめられるなんて...
しかし入学早々でそんなこと言いふらされるのはごめんだ。きっと変態野郎だとかパンツ見たマンとか言われるに違いない。
...しかたない。ー
っとこれが久留米との出会いだった。今思い返すとほんと最悪な出会いだ。
そしてそれからというものなんでか知らんが、こいつは俺に付きまとうようになった。
そういえばあの時、久留米は何か手に持っていたな。何か光っていた気がする。木に登っていたのはそれを取るためだったのだろうか。それにしてあんな場所に登って、危ないとは思わなかったのか。
余程大切な物でもなきゃあんな危険なことをする意味はないだろう。
ましてや他人の物なら余計にそう思う。
「先生、ノートの提出に来ました」
クラスのノートを集めて、担任の北見先生に提出しに来ていた。
先生はまだ若いが日頃の授業からは、先生になりに頑張ろうという意思が見える。
まぁ努力しても劣るところはあるが。
「うん、ありがとう天笠くん。明日には返すよ、じゃ、さようなら」カチャ...
職員室の戸を半分くらいまで閉めた時。
「先生、落としました」
先生の髪を纏めていた、サファイアを模した髪飾りが落ちた。
「あら?ありがとう天笠くん。また落としちゃったわ、もうこの髪飾りも寿命かしらね」
「また、ですか?」
先生は先日も同じように髪飾りを落としてしまったらしい。
あの髪飾りは子供の頃に亡くなった母の遺品でとても大切に使っていた。しかし物にも寿命がある。数十年間使い続けた髪飾りはもうその力を十分に発揮できなくなった。
そして先日どこかで落とした。
悲しみと母への謝罪の気持ちでかなり落ち込んでいたらしい。
しかしその数日後に、中庭の木の根元に置いてあったらしい。
話から察するにその木は久留米が登っていた木だった。どういう経路で木の上に登ったのかはわからない。
そしてどうしてか、久留米はそれを見つけた。そして、それを取った。
久留米は間接的に人を助けていた。
しかも自分の手柄にもしていない。人の見ていないところでそんなことをしても称賛も無い。そんなことに意味があるのだろうか。
俺は天才だが、わからん。
「あ!天笠くーん!!」
職員室からの帰り、中庭を横切ろうとした。
久留米が木の上にいる。まさかまた何かあったのか?
「おい久留米、そんなとこで何してる?」
「ここねーすんごい景色がいいんだー!
あ、天笠くんも来る?いいよー隣の枝が空いてるよー。ほれっほれっ」
わからない意味がわかった気がする。
あいつがアホだからじゃないだろうか。
いや、まぁ今はそういうことにしとくか。
「あー!またパンツ見ようと思ってたの?ごめんね余計なこといって」
よし、アホだからだ。違いない。
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