第三部 桶狭間激闘編

第1話 織田信長、桶狭間に散る

 悪い夢を見ている気がした。

 いや、むしろ、これは天罰なのかもしれない。

 思いあがっていたのだ。自分ならば、歴史の先行きを知っている転生者の俺ならば、負けることはないと。


 この世界は、細かいところが違っていても、大筋では史実通りになる世界だ。

 自分が、つまりこの山田弥五郎俊明が獅子奮迅の活躍をすれば、すべての筋書きは歴史通りの流れになる。

 そう思っていた。……思い込んでいたんだ。――それなのに、ああ、それだというのに!!




「三郎さまあああああああああっ!!」




 土砂降りの雨の中、咆哮する。

 織田信長の名前を呼ぶ。しかし返事はない。

 目の前は、ただひたすらに死体、死体、死体。死体の山。死屍累々。


 桶狭間の戦いで、今川義元の軍に戦いを挑み――そして敗北した、織田信長軍の兵士たちのむくろが、みじめなまでに転がっていたのだ。

 俺の部下――神砲衆のみんなの遺体も、この山のどこかに転がっていることだろう。それほど見事な惨敗だった。


 嘘だ。

 これはやっぱり現実じゃない。

 俺の脳みそが必死に訴えている。

 これは夢だ。幻だ。こんな結末、俺は絶対に認めないぞ――


「藤吉郎さん! 前田さん! 滝川さん! ……丹羽さん、佐々さん、小六さん……! ……伊与! カンナ! 次郎兵衛! 五右衛門!! みんな……みんなぁ……!!」


 誰の返事もない。

 声もまるで返ってこない。


 ……いや。

 声は、する。雨の中、はるか遠くから――


「いま、声がしなかったか?」


「織田家の生き残りか!?」


「おう、それなら手柄の立てどころじゃ。織田家の者の首を獲るのだ!」


 声は、どうやら今川軍の兵が発するものらしい。

 まずい。今川軍なら敵だ。俺は雨の中、身を低くしながら、その場から離脱する。


 ああ……しかし。

 逃げて、どうなるものでもないだろうぜ。

 もうこの戦いは、終わったのだから。……負けたのだから。


「……ちくしょう」


 歯を食いしばりつつ、吐き捨てた。

 どうしてこうなったんだ。桶狭間の戦いといえば、細かい説の違いはあれど、大筋としては『織田信長が今川義元を打ち破る』戦いなのは間違いないのに。それなのに織田家が負けるってのは、どういうわけだ!? 俺はどこで選択肢を誤ったんだ……!


 俺は、考える。

 考えて、考えて、考え抜いて……。

 そうだ……おそらくすべての始まりは、1年ほど前……。


 1559年。

 あそこから、今日という物語への伏線は、張られていたような気がするんだ……。

 そう、あのとき、俺は。――そう、この山田弥五郎は――




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というわけで第3部第1話投稿です。

短くて申し訳ないですが、ひとまずプロローグということで。これからもどうぞよろしくお願いします。

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