第66話 激突、無明
俺たち神砲衆は、尾張から、駆けに駆けた。
シガル衆を、倒すために。……大樹村が滅ぼされたあの日から、今日という日を、ずっと待っていたぜ!!
――伊与も昨日の戦いではよくやったからな。弥五郎同様、一人前とみなしてもいいと思ったんだ。
――そうね。弥五郎が敵をひるませたとき、真っ先に小屋から飛び出したもの。
――おう、あれは息がぴったりだった。長年連れ添った夫婦のようだったぞ、わっはっは。
――そりゃ、ふたりはずっと一緒だもの。……そうね、伊与が弥五郎のお嫁さんになってくれたら、義母様はとても安心なのだけど。
父ちゃん。
母ちゃん。
見ていてくれよ、ふたりとも。
もちろん、村のみんなもだ。……俺と伊与の戦いを、見ていてくれ!
思いを胸に秘め、俺は必死になって、走る。
祖父江に向かって、一直線に疾走する。
そして――
「大将、あの森の中。人が何人もいますぜ」
田吾作が言った。
なるほど、遠くに森がある。しかしだれかいるのか? 俺にはまだ見えない。
「わしゃ、目がいいんです。……間違いありやせん。あそこには集団がおりやす」
「数は?」
「ざっと見て、30、40……。森の奥にはもっといるかも。……織田の旗まで持っていますぜ」
ならば、間違いない。やつらだ。シガル衆だ!
あの野郎どもめ。やっと、やっと見つけたぞ。
俺は歯ぎしりしながら、ついに戦いの決意をした。
今日この日のために、5000貫もの大金を必死で集めてきたんだ。必ずブッ倒してやる。絶対にだ!
「よし、いくぞ、 神砲衆。銃を用意しろ。足音を殺しながら、ゆっくり近づくんだ。一斉射撃で奇襲する」
俺は、敵に見つからないよう、森からいったん距離を置き、みんなに準備をさせた。
それから少しずつ、シガル衆に接近していく。敵からは死角になる場所を、静かに近づいていく。
敵はまだ気づかない。いいぞ、そのままこっちに気づくな。……さらに接近。
やがて、敵が銃の射程距離内に入った瞬間――
「撃てーっ!」
俺は号令を下した。
その瞬間、神砲衆は、いっせいに銃弾を発射した。
だだだだだだ、だだだだだだ、だだだだだだだーん!
もちろん、俺も連装銃を発射している。
号令一下、神砲衆が発射した銃弾は確かにシガル衆に命中していく!
「な、なんだっ!?」
「敵だ、敵が来たぞ」
「どこのやつらだ!?」
シガル衆は、慌てふためく。
まだまだ。続けていくぞ。
「連装銃を持った者は、続けて弾込め! リボルバーは、さらに続けて撃ちまくれ!」
ぱーん、ぱーんと銃撃が続く。
シガル衆から、悲鳴が上がる。
いいぞ、神砲衆。優勢だ。このままシガル衆を滅ぼしてやれ!
だが、そのときだった。
「落ち着けえ、てめえら!」
敵の中にいる大男が、叫んだ。
……無明!
やつの顔を、俺はついに視認した。
見つけたぞ、無明! あの顔、あの風体。……忘れるものか!
俺は歯ぎしりしつつ、銃を構えて無明を撃とうとする。……くそっ、まだ少し遠いか?
無明を銃撃するべく、接近していこうとする。――無明は、大声で叫んだ。
「いいか、てめえら。敵の数はせいぜい50人程度と見た。何者か知らんが、数はこっちと同じだ。慌てることはねえ。……見ろ、敵の半分は鉄砲を撃ち尽くし、弾込めの真っ最中だ。いまこそ好機。押し返すぞ!」
無明の指示に、おう、とシガル衆は士気を回復させ――逆襲に転じてきた。
来た。来やがった! シガル衆が、攻めてきた!
「いくぞ、弥五郎。ここからが本番だ。義父様と義母様の仇、今日こそ討つぞ!」
「大将、連装銃の弾込め、急いでくだせえ!」
「ああ!」
俺たちは、それぞれ声をあげ――
しかしその瞬間シガル衆が、弓矢を俺たちに撃ちかけてきた。
五月雨のように降り注いでくる、矢。わあっ、と声が上がり、神砲衆は浮足立った。
「落ち着け、みんな! 鉄砲の準備をするんだ!」
俺は指示を下したが、矢が飛んでくる中、落ち着いて鉄砲の準備ができるはずない。
そうこうしているうちに、シガル衆が、槍を持って攻め込んできた。
「弥五郎、鉄砲を使う余裕はない。こうなれば接近戦だ!」
伊与はそう叫ぶと、刀を抜いてみずからシガル衆と戦闘を開始する。
気がつけば、神砲衆とシガル衆は混戦模様となっていた。
数はどちらも、約50対約50。
ここだけ見たら互角だ。しかし――
「シガル衆、慌てるんじゃねえぞ。敵は素人だ。いいか、弓衆は落ち着いて矢を放て。敵が崩れたところに、槍衆が飛びかかって首をとれ!!」
無明が、てきぱきと指示を下す。
やつは冷静だ。なんて男だ。ただの悪党じゃない。やつは一角の大将だ!
それに比べて、
くそっ、この3カ月、戦いの訓練はしてきたのに……!
俺たちの欠点が、ここに来て明らかになった。
神砲衆は、数はいる。武器もある。だが、たったひとつにして最大の弱点。
経験豊富な統率者がいないのだ。俺も伊与も、衆をまとめることができていない。
数人の集団ならまだ知らず、50人を率いて実戦を行うのは、とても難しい。訓練と実戦は違った。いや、さらに言うなら無明。……あの男! あの男の采配は、俺よりうまい……!
「てめえら、オドオドするんじゃねえぞ。敵は鉄砲持ちらしいが、腕がねえ。実力があれば、弓のほうが役立つってもんよ。――そら、放て。どんどん弓矢をお見舞いしてやれ!」
「神砲衆っ。木陰に隠れろ。隠れながら弾込め。確実に敵を倒していくんだ……!」
俺は必死に指示をくだす。
だが、みんなはもはや逃げ腰だ。
伊与も、自称・聖徳太子たちも、敵とそれぞれ交戦中で、ほかの仲間たちにまで手が回っていない。
戦況は、いよいよ劣勢だった。
……甘かった。先走りすぎた。慢心していた。
強くありさえあれば。俺はつねづね、そう思っていたが、その強さも、御する力があってこそなんだ。
シガル衆は、強かった。
ただのチンピラ集団じゃなかった。
自分たちだけで、勝てる相手じゃなかったんだ。……こんなことになるなんて!
俺はまた負けるのか!? やっぱり俺じゃ、自分も仲間も守れないのか!?
どうしようもないのかよ!! どうすりゃいいんだ。どうすれば、どうすれば――
「はははは、小僧ッ!」
声がした。
目を向けると、無明が。
この世でいちばん憎い男が、俺に向けて弓を引いている。
「何者か知らんが、命運尽きたな。……これまでだッ!」
無明は、邪悪な笑みを浮かべ――
この俺に向けて、矢を放った。
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