第44話 塩交易の結果、そして青山ふたたび

「ただいま、弥五郎! 蜂楽屋カンナ、帰ってきたよっ!」


 カンナが、津島に帰ってきた。

 さらにあかりちゃんとおさとさん、次郎兵衛も、戻ってきた。


「はじめての長旅でした……。疲れました~」


「だけど、交易でばっちり稼いできたッスよ、アニキ!」


 というわけで、俺はカンナたちから報告を受ける。


「まず結論から言うと、【54貫435文】が今回の交易の儲けやね。受け取っちゃり!」



《山田弥五郎俊明 銭 63貫921文》

<最終目標  5000貫を貯める>

<直近目標  津島衆に武器を売る>

 商品  ・火縄銃   1

     ・炭    11

     ・早合    1

     ・小型土鍋  1

     ・黄鉄鉱   1



「ず、ずいぶんと儲けたな! すごいじゃないか!」


「えへへ~、大したもんやろ?」


「おかげでわたしたちも少し儲かりました」


「塩の交易って、儲かるんやねえ。宿屋をやめて、商人をやろうかしら」


 あかりちゃんとおさとさんは、顔を見合わせて喜んでいる。


「儲かったのはよかったですけど、塩の売買で儲けられるのは一定の期間だけですよ」


 と、俺は言った。

 来月には、近江のほうから濃尾平野に塩が大量に入ってくる。

 その結果、塩の相場はむしろ下がりはじめるのだ。

 塩の相場が上がっているのは、ここからしばらくの間だけだ。

 だから、この交易は何度も使える手じゃないし、『もちづきや』の廃業なんかとんでもないと俺は思ったのだ。


「やだねえ、山田さん。ほんの軽口だよ、あっははは」


 おさとさんは、豪快に俺の背中をばんばん叩く。

 げほげほ、きっつ。


「……ま、そういうわけでみんな儲かったとよ」


「それはいいけど、どうやったら54貫も儲けたんだ?」


「そりゃもちろん、弥五郎が教えてくれた塩の相場のおかげくさ」


 そう言って、カンナは交易の内容を教えてくれた。



 交易スタート【9貫485文】


→海老原村に赴き、商品輸送のための馬を5頭レンタル。借り賃は5頭で1貫(持ち金【8貫485文】)


→伊勢に移動。塩の相場を調査。1袋につき20文。これを400購入(持ち金【485文】)


→加納に移動。塩の相場を調査。1袋につき53文。ここで塩を400売却(持ち金【21貫685文】) 



「――でね。加納では海産物も値上がりしとったとよ。布海苔ふのりがひとつ、16文。やけんさ、これを伊勢で仕入れてもってきたら、きっと儲かるって思うたんよ」


「布海苔が16文。ずいぶん上がってんなあ!」


 俺は去年、父ちゃんたちと加納市に行ったときのことを思い出した。

 炭団たどんを作るために購入した布海苔。

 あのときは、布海苔ひとつ6文だったのに。


「やけんね、また伊勢に戻って塩と布海苔を仕入れたんよ」



→伊勢に移動。塩の相場を調査。1袋につき20文。これを950購入。布海苔の相場も調査。

1つにつき4文。これを500購入(持ち金【685文】)



「布海苔はあんまり仕入れなかったんだな」


「生活に欠かせん塩なら、仕入れても全部さばけるやろうけど、布海苔は全部はけるかどうか分からんかったけんね」


「なるほど、そりゃそうだ」



→加納に移動。塩の相場を調査。1袋につき51文。ここで950売却。 布海苔の相場も調査。1つにつき16文。ここで500売却(持ち金【57貫135文】) 


→半月経過。交易終了。1泊30文の宿に4人が15日宿泊で、合計で1貫800文の宿泊費(持ち金【55貫335文】)


→あかり、おさと、次郎兵衛にひとり1日20文の給金を支払う。合計で900文の人件費(持ち金【54貫435文】)



「……お手当までいただくのは、なんだか心苦しいです」


 あかりちゃんが言った。


「わたしとお母さんは自分たちのために勝手についていっただけだし、給金や宿代をいただくのは、どうも……」


「あっしだって、濃尾平野の情報収集と、アネキたちのお役に立てればと思ってついていっただけで、お給金まで貰っちまって。……いいんですかい?」


「ええって。あかりちゃんにもおさとさんにも、荷物運びとか手伝ってもらったし、道中、おにぎりを分けてもらったりもしたけんさ。次郎兵衛にも護衛をしてもらったけん、そりゃお金を払わんと。そうやろ、弥五郎?」


「ああ。むしろたったの20文で申し訳ないくらいさ。出世したら、もっと払うからな」


「そ、そんなこと。……ありがとうございます」


「山田さん、出世してお金持ちになっても、『もちづきや』のことを忘れんでくださいよ!」


「ええ、もちろん!」


「……というわけで、この【54貫435文】が今回の交易の儲けやね。なかなかいい感じやったね!」


「いい感じどころか、想像以上さ」


「ならよかった~。……で、弥五郎。アンタも早合を作ったんやろ?」


「ああ、早合70を作ったよ」


 早合70を作るのに、紙10、黒色火薬10、漆10、鉛弾70は必要だった。


紙(1個49文)   を  10仕入……計 490文

漆(1個140文)  を  10仕入……計1400文

鉛弾(1個40文)  を  70仕入……計2800文


 火薬は例によって自作した。炭は在庫の分を使った。


硝石(1個278文) を   7仕入……計2780文

硫黄(1個35文)  を   1仕入……計  35文


 材料代は、7貫505文かかった。

 さらに聖徳太子たち(それにしてもややこしい名前だ)5人が15日働いてくれたので、彼らに1日20文の給金を支払って、合計1貫500文。すなわち、合計で9貫5文の経費がかかったのだ。


 その結果、



《山田弥五郎俊明 銭 55貫516文》

<最終目標  5000貫を貯める>

<直近目標  津島衆に武器を売る>

 商品  ・火縄銃   1

     ・炭     9

     ・早合   71

     ・小型土鍋  1

     ・黄鉄鉱   1



 と、現状はこうなった。


「あ、それと『もちづきや』に宿泊費も払わないとな」


「2月の半ばからほとんどおもてなしもできなかったのに、いいんですか?」


「場所を貸してもらっているんだ。それはそれ、これはこれで支払うさ。はい、1貫」


 と、いうわけで。



《山田弥五郎俊明 銭 54貫516文》

<最終目標  5000貫を貯める>

<直近目標  津島衆に武器を売る>

 商品  ・火縄銃   1

     ・炭     9

     ・早合   71

     ・小型土鍋  1

     ・黄鉄鉱   1



 あれこれあった結果、最終的な現状はこうだ。

 うん、持ち金がずいぶんと上がった。

 これに早合を売ればまたお金になるぞ。




 というわけで俺は、大橋家にやってきた。早合を届けるためだ。

 カンナたちは旅で疲れているので、俺ひとりである。

 大橋さん、喜んでくれるかな。……そう思っていたのだが、


「主は本日、留守でございます」


 服部はっとりという若い侍が俺を出迎えて、そう言った。

 あら、不在か。まあ仕方がないな。


「そうですか。残念です。出直すとしますね」


「あ、いえ。実は話は、主よりうかがっております。山田どのの早合が届いたら、ひとつ360文で買い上げるようにと」


「おお、そうですか!」


 さすが大橋さん、準備がいいぜ。


「早合はこちらにできあがっています。お受け取りください」


 俺は早合を、服部さんにすべて渡した。


「……はい、確かに。品質にも問題がなさそうですな。では銭をお受け取りください」



《山田弥五郎俊明 銭 80貫76文》

<最終目標  5000貫を貯める>

<直近目標  津島衆に武器を売る>

 商品  ・火縄銃   1

     ・炭     9

     ・小型土鍋  1

     ・黄鉄鉱   1



 やった! 一気に持ち金が増えたぞ!

 これだけの金があれば、連装銃を作ることができる。

 よし、このまま一気に武器作りをやるぞ。

 俺はウキウキ気分で、『もちづきや』へと駆け戻る――


 と、そのときだった。


「山田どの」


 突然、声をかけられた。

 なんだと思って振り返る。

 すると、そこには――


「青山さん!?」


 例の青山聖之介が立っていたのだ!

 しかも、その手には連装銃を持っている。


「山田どの……」


 青山さんはもう一度、俺の名を呼んだ。

 苦虫を嚙み潰したようような、渋い表情で。

 彼は、連装銃を手に持っているのだ……。

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