第2話 ひきこさん、ひきこもりなう

「あぶなっ! やっばい……完全に寝堕ちてた」


 がばりっと体を起こすと目の前にPC画面があった。

 ちらりと時計を見ると夜中の2時……。

 心地の良い深夜だ。


 お仲間は今頃、水を得た魚のように元気に闇夜に紛れて人をおどかしているんだろう。


 でも、私は外に出られない……何故ならひきこもりだから。

 そう、今の私はひきこもりのひきこさん。

 ひきこもりが外に出てはひきこもりじゃなくなってしまう。

 人間を呪い殺そうが、法を犯そうが構わないが……。

 私達はゴーストアイデンティティだけは守らなくてはいけない。


 あの超上位存在、神都市伝説の花〇だって、あれだけ有名でありながら未だに学校のトイレで暮らしているのだ。

 あれだけ有名な存在になりながら、例えば六本木ヒルズのトイレに憑りつかず、今なお学校のトイレにこだわる姿勢……あれこそプロフェッショナルだ。


 彼女が靄や霞でなく、きちんとカメラに映ることができたなら今頃『仕事〇流儀』や『情熱〇陸』に出演していただろう。


 妬ましい……だが、見習うべきところは見習わなければならない。


 今の私はひきこもりのひきこさん。

 ひきこもってこそ都市伝説としての存在価値がある。


 だが、しかし、とは言え……。


「ほんとに、まったく、これっぽっちも話題にならないな……」


 PCを使って再三エゴサーチをすること、はや1週間。

 検索ワード『ひきこもり ひきこさん』では、それらしい記事が1つもヒットしない。


 むしろ、検索ワードの『ひきこさん』に引っかかって以前の『私』が多数ヒットする始末だ。


「…………」


 カチカチとクリック。

 そして、コロコロとスクロールを繰り返す。


 しかし、今更ながら……実は私って、結構知名度あったんだなぁと、しみじみ思ってしまう。


 なんだろうこの感情。

 なんだろうこの違和感。

 この気持ち、誰ならわかってくれるだろう?


 デビュー後、有名作品に嫉妬しながら、特に売れる代表作を作れずに底辺を自称していたが、実は自分の下にはそもそもデビューすることすらできない漫画家志望がたくさんいたということに気付いた売れない漫画家なら理解してくれるんだろうか?


 ああ、私って上ばかり見ていたんだな……そりゃ〇子と比べたら誰だって見劣りするわ。

 花〇とまともにやり合える怪談なんて最近だとぬら〇ひょんかね〇娘くらいだわ。

 もっと……手堅く、みじ……か、な……相手を、み……き……だっ…………。


















「おっと! やっばぁいっ――また、寝堕ちる所だった」


 やばい……睡魔ってやばい。

 寝堕ちる感覚ってマジで成仏のそれだわ。

 成仏したことないけど。


 しかし、最近本当にヤバい。

 霊力が落ちたのかもしれない。

 体力が全然続かない。

 ちょいと気を抜けば昇天してしまいそうになる。

 どこかで霊力の補充をしなければいけない……でないと、本当に消えてしまうことになる。


「なんとか家にいながら、外に一切出ることなく霊力を稼がないと」


 こういう時、誰か人間の同居人がいる家に住んでいればちょっとポルタれば一発なんだが。


(※ポルタる……ポルターガイストを起こすこと)


 あいにく、今の私は一人暮らしだ。

 というか、ポルタって霊力を稼ぐなんてアフィリエイトの収入で生活するようなものだ。


 それはなんというか、私のプライドが許さない。

 でも、かと言って……このままでは、本当に消えてしまう……。


「ぐっ……くぅ……ぐぬぬぬぬぬ」


 私は頭を抱えながら必死になって考えた。


 家を出ず、今すぐに霊力を稼ぐ方法。

 しかも、ポルタに頼らない。

 せめて、私がやっても「ああ、お小遣い稼ぎですか?」みたいに、気軽な感じでやってるんですみたいな、周囲から見て私の印象を貶めない何か……あっ!


 私は、必死に頭を捻った結果思い出した。

 そう言えばずっと昔、私が以前のひきこさんになる前に、口裂け女先輩に教えてもらったバイトがあった!


 あれなら怪しくないし、皆やってることだから今から私がやってもそこまで変なことじゃない!

 それに以前、花〇も住んでる学校が立て直しになってしばらく使えなくなった時、繋ぎとしてそのバイトをしていたこともあるってブログに書いてた。


 そうだ。

 あの〇子ですらやったことがあるんだ。

 なら、私がやってもなにもおかしくない! 変じゃない!


 そう、由緒正しい心霊現象!

 幽霊、怪談。誰もが知ってる、皆一度は通る道!


 その名も! こっくりさんネットワーク!

 Yes! お手軽簡単即日収入! Yes! 心霊派遣安心バイト!

 家にいながら即座にびっくりテレポーテーション!


 あのバイトは怪談最大手と言ってもいい、こっくりさんのお狐様が趣味と実益を兼ねてやってるお仕事だもんね。

 そりゃこっくりさんくらいの大手になると1人じゃ回せっこないし妥当だと思うわ。


 自分の代わりに新人の霊や、私みたいに霊力に困った霊を現場に派遣する。

 こっくりさんは『こっくりさん』を成立させられるし、私達は現場で霊力を得られる。

 なんて素晴らしいシステムだろう。

 まさにwinwin……。


 でも、こっくりさんをする人間にとっては、これって一種の詐欺なんじゃないだろうか?

 いやまあ、そもそも本物のこっくりさんを呼べる程霊力の強い人間なんて現代にいるのかさえ、怪しいけど。


 そう言えば、前にこっくりさんがインタビューに答えた週刊誌にこんなこと書いてあったっけ?




記者『現代だとこっくりさんほどのお方を呼び出せる人間も少ないでしょう? 多様化するニーズに対して、顧客である人間達の質の低下についてはどうお考えですか?』


こっくりさん『そうじゃの。最近は霊感と錯覚の区別もつかん若者が増えておるでな? わらわも困っておる。まあ、だからこそこうやって多くの霊を雇い入れることを思い付いたのじゃが。そもそも、十数年前からは降霊の儀すらまともに執り行えん者が増えておる。そんな状況で、何故わらわが気を回してやらねばならんのじゃ。そうさな……晴明くらいの術者が現代に再び現れるか、T〇KI〇のMATUOKAくんがこっくりさんをしたのなら、出向いてやらんこともない』


――週刊霊春より抜粋——


 なんという上から目線だろう。

 でも、流石最大手。


 花〇がプロフェッショナルなら、こいつはKINGだ。貫禄が違う。


 まあ、そんなことはさておいて、さっそく再登録だ。

 ずっと前に登録したことあったけど、あの時はひきこもりのひきこじゃなかったし。

 前とは住所も連絡先も変わってるし。


 えっと……うわ、今自己アピール欄とか書かされるのか。

 前は口裂け女先輩の紹介で入ったからこういうのなかったなぁ……。




 よし、登録完了。

 これでしばらくは何とかなるだろ。


 けど……今更こっくりさんネットワークのお世話になるなんてなぁ。


 独立したけど、また古巣に戻ることになった失敗起業家ならこの気持ちわかってくれるだろうか?


 はぁ……でも、これからどうしよう?

 いつまでもこっくりさんネットワークに頼った生活は続けられない。


 本気で、もっと真剣に考えよう。

 ひきこもりとして、大成する方法を……。


 〇現在の知名度…圏外

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