都市伝説のひきこさん(なう)

奈名瀬朋也

第1話 ひきこさんは変わりたい

 人から忘れ去られると『都市伝説』としての自分が消える。

 だから、たまに新しい都市伝説として生まれ変わる奴がいる。


 私だ。


 別に、恥ずかしいとは思わない。

 正直、今時ひきこなんて流行らないかなと思っている。


 それに、こんなことは大なり小なり誰だってやっている。


 例えばさ〇こや、か〇こだってやっていることだ。


 こんなことやらなくても生活できる神都市伝説なんてほんの一握りだ。

 たぶんトイレの〇子さんくらいだと思う。


 というか、花〇はずるい。

 何がずるいって学校のトイレにいるってだけで小学生の支持率を持っていく。

 人間達は小学校という義務教育の間に花〇さんの存在を知り、その後トイレに入る度に〇子さんの存在を思い出す。


 大人になってからもこどもの授業参観で学校のトイレに行く度に思い出す。


 運動会でトイレに行っても思い出す。

 文化祭でトイレに行っても思い出す。


 しかも、大人がこどもを産み、その子が小学校に入学すればまた支持者が増える。


 いわばこれはHANAKO永久機関だ。

 ただトイレという静寂の中で佇んでいるだけで存在感をアピールできる。

 くそ! なんて怠惰な都市伝説なんだ!


 人間が排尿、排便をやめない限り奴が忘れ去られることはない!


 あ、それにこの前、花〇がモデルになったアダルトアニメがあると知った。

 なんて図々しい女だろう。

 排尿、排便だけに飽き足らず、射精にまで手を出すとは……。


 だが、図々しいと思う一方で、こうも思う。


 まざふぁっく! なんてたくましい都市伝説なんだろうと。


 それに比べて私はなんだ!


 雨の日に!?

 こどもを!?

 引きずり回す!?


 流行らんわ!

 浸透しないわ!

 怖さ的にも正直言ってどう?


 私だって、本当はわかってる。

 自分の怖さが引きずっているもの……つまりアイテム死体に依存した怖さっだってこと。


 そりゃ口裂け女先輩やてけてけ先生はいいですよ!

 みためにごっつい特徴あるもん!


 それに比べて私はなに?

 死体を引きずる?

 じゃあ、引きずる死体がなければなんなの私?

 雨の日にそこらを徘徊するただの美少女じゃん!


 ていうかね? 一回あったんですよ。

 雨の日だからって外に出た訳です。

 そりゃひきこさんは雨の日にでる設定だからね?

 そりゃでますよ。

 でもね? 私その日、傘さして家を出たんですよ。


 へ? 家があるのかって?

 ばかにしないでくれます?

 私みたいなマイナーな都市伝説だって家くらいありますぅ~。


 か〇こやと〇おくんしか家に住んでないと思った?

 残念! ひきこも家持ってましたぁ!


 っと、いけね。話を戻します。


 でね、雨が降ってたから傘して家を出た訳です。

 そりゃ私も濡れるからね、人がいない間は傘くらいさすわ。


 で、傘をさしながら待機してたわけです。

 こわがってくれそうな人が通るのをね?


 で、その時がやってきました。


 暗い夜道。

 差す傘を雨音が叩き、また叩き……聞きようによっては女の泣き声にも聞こえる不気味な夜に、かわいそうにも私の前に現れた一人の幼い少年。


 ああ、こわがってくれるかなぁ?

 どんな悲鳴をあげてくれるかなぁ?


 と、そんな期待と高揚感を胸に近付いたわけです。


 しと……しと……。

 長い前髪を伝って雨がしたたる。

 顔に影ができるようにうつむきながら、ゆっくりと少年に近付きました。


 そして、目が合った!


 その瞬間、彼……なんて言ったと思います?


「お姉さん、傘ないの? 傘だけに! なんて、あ! これ貸してあげるよ!」


 背筋がぞっとしました。

 色んな意味で。


 そして、私は不思議に思って訊きました。


「ねぇ、私のこと怖くないの?」


 いるんですよねたまに……おばけとかみても怖がらない、良くないものを見ても笑顔を向けちゃう危なっかしい奴。

 優しくすれば暗闇に囚われた者達にも光を与えられると思っている勘違いな人。


 こいつも、その部類だと思ったんです。


「なんで? なんでお姉さんが怖いの?」


 ほら、やっぱり。

 本当は怖かったり、気味が悪いと思っているくせに……私に優しいふりをする。


 だから私、教えてやろうと思ったんです。

 私が一体何を引きずっているのかを……。


「これを見ても……怖くないの?」


 そう言って、私は引きずる死体を見せようとしました。


 どうなったと思います?





















 なかったんですよ……死体が。




 そう、雨の日に傘をさそうと思ったのが運の尽き。

 忘れてきちゃったんですよね……引きずる用の死体……家に。


 いや、どうりでなんか軽いなと思ったんですよw

 あっはっはw

 そりゃ怖くないわw



 その夜、私は走って帰りました。家に。


 この時程思ったことはありませんね。

 ああ、私が口裂け女先輩だったらよかったのにって。

 裂けてる口とか家に忘れようがありませんから。


 それから、私は酒の席で口裂け女先輩とテケテケ先生に愚痴りましたよ。


 そしたら二人、なんて言ったと思います?


 先輩「あー、わかる。私も口紅忘れて人前出ちゃったことあるよ」だって。

 テケテケ先生「青いねぇ。まあでもなんでも経験だよ。私も義足つけたまま道端這いずってたら大丈夫ですか? って声かけられたことあるよ」だって。


 この時、心の中で思いましたよ私。


 だからお前達はさ〇こに勝てないんだよ!


 ってね。


 そんな訳で、私はモノ死体に頼らない都市伝説になろうって決めたんです。

 で、見つけました。


 この時代に合った、新しい自分。

 ひきこという名を、より活かせるニーズ。


 それが……そう『引き籠り』です!


 引き籠りのひきこさん。

 どうです?

 前よりずっとキャッチーになったでしょう?


 で、結果どうなったと思います?


















 知名度、全然あがりませんでした。

 ちっとも噂にならないんです。


 原因はわかってます。

 だってね?

 引き籠りだから、人と出会わないんですよ。


 そりゃ見たことないもの噂話にもできないよね?

 はぁ……こんなことなら前のままで良かった。


 あ、だめ……やばい。

 消えそうです、ホント消えそう。


 どうにかして、私のことを……もっ……知っ……もら……いと。

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