第57話 紅き鎧を纏いし者。
日比斗達がメタ=ボウームを撃破する少し前にさかのぼる。
聖なる結界に守られた洞窟内で、シスターモモと
そんな彼女達の前に
そのシスターモモを庇うようにドミニネスの前に立ちはだかったのは、マオーの残した
シスターモモは右手をドミニネスに向けて突き出し、手の平を上に向けて指先をクイッと曲げて挑発する!
「どどど……どデカイだけのアリンコさん。お相手、させて頂きますわ!」
『くぉのおう、化物娘~がっ!!』
触角をムチの様にしてシスターモモへと振るうが、彼女はスッと
ドミニネスは必死になって触角を奮うのだが、モモはその全てを見切ってかわしてしまう。
「あ……貴方の攻撃は工夫が足りないわ」
『小賢しい小娘が! 賢しい、賢しい、賢しい、賢しいぃぃぃ!!』
二本の触角をムチの様に伸ばして、交互に打ち付けるのだがモモはそれらを全て見切りでかわしてしまう。
ほんの一瞬、触角の動きに疲れが出たのか打ち付けるタイミングが少々崩れた。モモはその隙を見逃さず、触角を掴んで引き寄せながらドミニネスの懐へと飛び込んだ。
「なっ!」
慌てるドミニネスは、頭部への攻撃を避けるため、モモの届かない位置まで頭を上げようと身を反した。
だが、その行動を読んでいたモモは、掴んだ触角に体重を乗せておもいっきり引くと、彼女のバランスを崩して頭の位置を下げる事に成功する。
「く、食らいなさい!」
気合いを込めた拳がドミニネスの顔へとめり込み、振り抜いた腕の方向へと頭を振られてしまう。苦悶の表情で顔を
『おのれぇ、お父様にもぶたれた事無いのに!』
どこのお嬢様だよと言いたくなる台詞を吐いたドミニネスだが、モモはまるで聞いていないかの如く、今度は装甲に包まれた胴体に連打を浴びせて行く。
『や、やっ、止めるのじゃ━━っ! 何なのじゃ貴様は! この妾にこんな……いゃあぁぁぁ』
歪んでいく胸部装甲と胸の痛みでドミニネスは悲鳴を上げる。
一方のシスターモモも敵に弱みは見せまいと、言ってる台詞は強気であったものの、実は必死で余裕などこれっぽっちも無かった。声は上ずり、どもり気味なのがその証拠だ。とはいえ、ドミニネスも余裕が無いのでその事には全く気が付いていない。
力を得て、敵の攻撃が見える様になったとはいえ、流石に敵は体長十メートル近い巨大蟻なのだ。モモとて怖くない訳が無い。
先ほどまでの触角による攻撃も余裕で見切っていた訳ではなく、恐くて体が固まってしまい必死で避けていたのがドミニネスにはその様に見えてしまっただけなのだ。
今もモモにはドミニネスの声が聞こえてはいない。必死に連打する事で恐怖を打ち払おうともがいているのだ。
ドミニネスも前足を器用に使い、顎をガチガチと鳴らしてシスターモモへと攻撃を試みるが懐へと入り込まれての戦闘には慣れていない為か、彼女の攻撃を中々
『えぇい、何をボーッと見ておるのだ親衛隊! 早くこの
いつの間にか周りを取り囲んでいた兵隊蟻と赤い鎧姿の親衛隊蟻だが、ドミニネスの叱咤が飛んでもまるで動く気配がない。
『闇魔術、影縛りニャ!』
センセイが周りを取り囲んでいる
「センセイ!」
『そう、長くはもたないニャ。早くクイーンをぶっ飛ばすニャ!」
「はい!」
『やっぱりダメニャ、もうもたないニャ』
「ええっ?」
シスターモモに向かって格好良くそう言ってみたセンセイだったが、なにぶん敵の数が多い。彼なりに頑張ったが、影縛りは一瞬しかもたなかった。
「センセ━━イッ!」
ドミニネスへの攻撃を中断するとセンセイのいる場所に向かって走りだした。
自分がクイーンの相手に集中し過ぎている間、周りを包囲しつつあった敵をセンセイが押さえてくれていたのだ。
センセイに向かって押し寄せる兵隊蟻。
間一髪、センセイと兵隊蟻の間に割り込む事に成功すると、振り回した右拳で二体の蟻を吹き飛ばす。更にセンセイの首ねっこを引っ掴んで抱え込み後方へとジャンプした。
着地地点へと集まっていた兵隊蟻を踏み台にして更に後方へと大きく後退する。最後尾まで蟻達を飛び越えると、振り返り様に攻撃してきた兵隊蟻の頭を叩き割る。
「センセイ、大丈夫?」
モモの腕の中でガクブルと震えるセンセイは必死に声を絞り出す。
『全然大丈夫じゃ無いニャ。アイツら
最初から殺す気満々だと思うけど……。
モモはあえてそれを口にはしなかった。そんな事よりも目の前に溢れ返る蟻・蟻・蟻……。ドミニネスに増援を呼ばれてしまったらしい。流石にこの数は捌き切れない。
襲い来る敵を中心に殴り飛ばしているが、このままでは数の暴力に飲み込まれてしまう。
『お姉ちゃん……』
ルーの声が頭の中に聞こえた。
『私のスキルを使って!』
その瞬間、ルーの声が……スキルの使用方法が頭に流れ込んで来る。
その指示に従い、手甲に力と意識を集中させるとエネルギーの流れを感じる。
ブーンという振動音と共に手甲部分とリング部分が膨張し、まるでボクシングのグローブの様に巨大化した。
『お姉ちゃん、叫んで!』
ルーちゃんの指示でスキル名を叫ぶ!
「
今までの攻撃も凄い威力であったが、
二メートル近い巨体の兵隊蟻たちが、殴り付けるだけで簡単に宙を舞う。弾き飛ばされた蟻が別の個体に衝突し、それらも衝突の勢いで弾かれ宙を舞う。まるでボーリングのピンが弾け飛ぶ様を見ているかのようだ。
シスターモモの周りを取り囲んでいた兵隊蟻たちにも動揺が走る。それまでは数の暴力で押し潰さんと距離を詰め群がっていた蟻たちだが、あまりの圧倒的な力の差に恐れを成し距離を取って
モモが距離を詰めようと走り込むと連携の取れた動きで、その部分にいた兵隊蟻が一気に後退し彼女の突撃した位置にサイドから蟻酸の雨が降り注ぐのだ。
圧倒的な力を誇るルーのガントレットだが、モモが傷付いてしまえば彼女はその力を振るうことは出来ない。防御結界で蟻酸を防御しつつ、後退を余儀なくされてしまう。
だがその程度で手詰まりになるようなルーではなかった。シスターモモの頭の中に再び彼女の声が響き渡る。
『お姉ちゃん、次のスキル!』
「はい!」
モモは右手を敵に向かって真っ直ぐに伸ばすと、その腕を支える様に左腕で小手を持って固定しスキル名を叫んだ!
「
小手と手甲部分を繋ぐリングに設置されていた小さな
岩影から覗き見ているセンセイの、大きく開いた目と口がふさがらない。
『何ニャあれ……めちゃくちゃニャ。剣でも槍でも弓でもニャい。あんな戦い方、初めて見るニャ。とんでも無いニャ。敵がちょっぴり可哀想ニャ』
開いた口が塞がらないのはダンジョンクイーンのドミニネスも同様であった。
『何なのよあれは! 化け物なんてそんななま易しい物じゃないわ。勇者は男だと聞いていたけれど、きっと間違いにちがい無いわ。あの娘がそうでなくて誰が勇者だというのよ。この世界にあのクラスの化け物がそうそういてたまるものですか!』
ヒステリックに叫ぶドミニネスの周りを守る様に、赤い鎧姿の親衛隊蟻十二名が立ち上がる。
他の兵隊蟻とは一線を画する親衛隊は、赤い体表に、赤い鋼の鎧を纏い二足歩行をする人型の蟻兵である。
兵隊蟻の中でも特殊な能力を持つ個体が研鑽と淘汰を繰り返し、残った者たちの中でも魔王から魔石を賜った者達だけが、特別な力と個としての意志を持つ別格の個体【
太く発達した二本の後ろ足で立ち、四本の腕で二本の毒槍と二枚の盾を持つ。その姿は魔王軍の中でも、女王陛下を守る【
体長格なのであろうか、先頭の
『陛下、御下がり下さいませ。何とぞここは我らにお任せ下さい。おそれ多い事ではございますが、我ら女王陛下と同じく
「ロケットパンチッ!」
『ぐっふぁあぁぁぁあっ!!』
シスターモモの叫びと共に飛来した拳が、整列していた親衛隊の一部を吹き飛ばし女王の鼻先を掠める。あおりを食らったその他の兵たちもなぎ倒され、鉄壁の盾は一瞬にして瓦解した。
基本、
ーつづくー
蟻どものいない後方へと逃げ延びたセンセイは、最初こそびくびくとしながら岩影から顔をのぞかせていたのだが、モモが兵隊蟻を駆逐し身の安全が確保されると途端にピョンピョンと飛び跳ねながら全身を使って応援を始めた。
『モモ、行けー! 殺るニャ、殲滅するニャ! 右ニャ、左ニャ、そこ、 ラケットパンツニャーッ!』
ニャーニャーうるさいし、口は悪いし、臆病だし、スキル名も間違ってる。苦笑する事も多いけど、それでもセンセイはいつでも私を応援してくれる。
背中を押してくれる。
だから私は戦う、センセイを守る。もう誰かの後ろで見ているのはおしまい。
……そう私は自分の心に誓うのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます