第56話 愚痴りし者。
日比斗はその圧倒的な攻撃力をもって押し寄せる敵を粉々に粉砕し、蹂躙し続けていた。ただ、坑道内から次々と湧き出してくる大量の敵の壁にボウームへの攻撃は中々通らず、希にダメージを与えてもすぐに新しい体を造り出す事で致命傷を与える事が出来なかった。
「ウハハハ……どうした、どうしたクソ勇者! このダンジョンは俺達の世界だ。少しばかり強いからと言ってもここでは俺が王だ。俺様に逆らう事など無謀、無謀! 素直に
「ちいっ!」
あちらこちらの穴という穴から次々と這いずり出して来るルーターワームとキラーアントは倒した数以上に増えている。もう既に数百体は倒している筈なのだが、一向に減って行く気配が無い。
更に倒した敵の死骸を別の敵が喰らってすぐに肥大化、狂暴化していくのでたちが悪い。また、キラーアントの死骸を喰らった個体は急激な進化でもしたかのようで、鎧の様な高質化した皮膚装甲を手に入れて、蟻の数を減らしつつあったミレイ達も苦戦し始めている。
このままではいずれジリ貧だ。
日比斗はナーゲイルを横薙ぎ一閃して敵の前衛を切り裂くと、エルムが作り出した幻影を残して一時後退する。
ミレイの
ガチンっという金属音がしたものの、ナーゲイルはその装甲をいとも簡単に切り裂いた。
「婿殿すまない。少しばかり苦戦していたので助かった」
「気にするな、槍は|鎧ミミズとは相性が悪いようだ。俺が優先的にコイツらを叩くからプラムは援護を頼む。サクラはキラーアントの掃討を優先してくれ!」
「了解だ、婿殿!」
「了解です」
雑魚敵のキラーアントをサクラの
アーマワームの装甲をナーゲイルで切り裂き、怯んだ敵の頭部をミレイが串刺しにする。動きの止まったアーマワームを、俺がぶつ切りにしてとどめを刺した。
更に背後に迫っていた別のアーマワームの牙をミレイがショートランスをクロスさせて防ぐと、彼女の脇をスルリと回転しながらすり抜け、回転力を生かしたままガラ空きの胴体を切り裂いた。
二人はまるで演舞でも舞っているかの様に、お互いに背中を預けながらアーマワームを次々と粉砕していく。
「すごい……」
思わず感嘆の声をあげたエルムに向かって突然、日比斗はナーゲイルを投げつけた。
一瞬の事で固まってしまい動けなかったエルムのすぐ横を通り抜けて、背後に迫っていたキラーアントの頭部に深々とナーゲイルが突き刺さる!
「エルム、ボーっとするな! サクラ、エルムの周りも警戒しろ!」
「すみません、オーナー!」
厳しい言葉を投げ掛けてきた日比斗だが、戦闘中でも全周囲警戒は出来ているようだ。
「ごめんなさいビート君。ありがとう🖤」
その表情までは見えないものの、ナーゲイルを投げつけた後も蹴りやパンチでアーマワームを吹き飛ばしていなしながら、日比斗はエルムにサムズアップを向けてくる。謝るエルムもその表情に笑顔を讃えていた。
「さすがは私の婿殿だ!」
自らも踊るように切り裂き、貫いているミレイも日比斗に賛辞を贈る。当然のように自分の所有権もぶち込んで来る。
「当然です! 私の見込んだ
「ビート君は私が召……」
「まだ戦闘中! いい加減そういうのは控えてくれ!!」
自分もと声をあげたエルムを制して日比斗が声を荒げて叫ぶ。エルムの方からは顔が見えないが、慣れない賛辞にどうやら照れて顔を赤くしているようだ。
自分だけ最後まで言わせてもらえず、リスの様に頬を膨らませるエルムは放置して、呼び戻したナーゲイルで目の前に迫っていたアーマワームを袈裟斬りにすると、その勢いそのままにミレイの槍に貫かれ動けなくなっているアーマワームを輪切りにしてとどめを差した。これにより仲間達の周りにいた敵はこれであらかた撃破出来たようだ。
ナーゲイルも実体化して何か言いそうだったが、素早く脳天への【うめぼし攻撃】を実行して黙らせた。
「オーナー熱源減少、キラーアントの増援が途切れたようです。ルーターワームの反応は多少ありますが、おおよそこの洞窟内にいる敵が全てのようです!」
よし! サクラの報告でようやく終わりが見えてきた。死骸を食い散らかし肥え太ったルーターワームが数匹とキラーアントを喰らってアーマワームが多数いるが、メタ=ボウームを除けばそれだけだ 。
「サクラ、プラズマ
「オーナー了解です」
「了解だ、婿殿」
「ビート君オッケー!」
『勇者殿、承知した』
全員の返事を聞いてブンっとナーゲイルをひと振りするとメタ=ボウームに向き直る。
「ん?」
取り巻きのワーム達が防御陣形をとりつつ、メタ=ボウームの周りを三重、四重に取り囲んでいるのだが、その肉の壁の奥から言い争うような声が聴こえてきた。俺の聴覚も強化されているためかろうじて聞こえているようだ。
攻撃準備を整えボウームへと突撃しようとする仲間達を左手一本で制すると、敵の漏らす声に耳を傾ける。
「…………」
『ちょっと待てよクイーン、今兵隊蟻を下げられたらマジ困るんだよ。そうそうこっちはドゲスティ倒した【勇者】とかいう、いけすかないハーレム男と戦ってる訳よ、うん。戦闘中イチャイチャイチャイチャしやがってヨ、マジムカつく訳。少しばかり強いからって言ってもよ、俺らが数で押せばどうって事はない相手だからさ……そっちの状況も分からない訳じゃないんだけど、たかが小娘一人なんだろ? 親衛隊出せば一捻りじゃん。……うんうん。ば、化け物って……それ人間なんだろ? お前や子供達ならどうこう無いだろうが。流石にこっちは4人もいてさぁ、変な技も使うし、うちの子達だけだとさすがに手が足りないってゆうかさぁ……。ああ、ああ……そう、そうだよ。あぁ? ちょ、ちょっと待てよ、何だよその言い方。そうかよ、分かったよ。お前の子供達の死体を食って強くなっちまった俺の事が気に食わない訳だ。はぁん、ちいせぇ……本当に小せぇなぁ。クイーンだなんだったってデカイ
「サクラ、プラズマ
「了解、発射します!」
ドンっという重い音を残し、プラズマ火球が周りの空気を巻き込んでルーターワームの作り出した肉の壁へと突き進んで行くと、ボウームを守る為に集結したワーム達は一瞬に焼き払われあっという間に本体へと到達した。
「な……わっ、ひとが大事な話をしてるって言うのに、卑怯だぞーっクソ勇者っ!!」
メタ=ボウームを取り巻く様に肉玉となっていたアーマワーム達をも一瞬にして蒸発させられ、ボウーム本体も既に半身が黒焦げとなっている。
「話がなげぇーよ!」
文句を言いつつ、走り込んできた日比斗は焼け残ったアーマワームを粉砕するとナーゲイルを大きく上段に振りかぶって、ボウームを縦一文字に切り裂いた。
「ギョエェェエェェ……!」
奇声を上げて倒れ込むボウームの胸の辺りから
砂の様に崩れゆくボウームはそれを見ながら笑った。
「フフフ、これでようやく自由だ……」
「戦闘中に敵をほったらかしで長話とか……お前相当自由だったたと思うがな」
完全に塵となったボウームを見送ると、日比斗は仲間達の方に振り返った。
「みんな、ボウームの話から推測するにシスターモモはフォールーン砦の地下にいる。蟻の女王ととんでもない化け物が戦っている現場にいる可能性が高い。急いで助けに行こう!」
「はい、オーナー!」
「了解だ。」
「モモちゃん待っててね!」
シスターモモの救出に燃える日比斗と仲間たちだが、その化け物が何者なのかここにいる誰も想像もしてはいなかった。
ーつづくー
少し離れた位置に実体化したアスカロンとその隣にあぐらをかいて座っているナーゲイルが、日比斗の事を見つめていた。
『愚弟、お前はあの距離から敵の敵の声が聞こえたか?』
『いえ、全く。ですが我が
ニコニコと笑う愚弟の頭を鷲掴みしてゴリゴリと締め付けながらアスカは思う。
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やっと更新できました。先月の台風襲来からの本部ネットワーク壊滅に、10月は消費税増税とアルバイト時給アップに、更に台風のおかわりとあり得ない忙しさで完全に「ヨムヨム」になっておりました(笑)
またぼちぼち頑張りますので見捨てないでやって下さいね。
またのご来店お待ちしております。m(__)m
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