ダンジョン攻略編
第43話 地下深く潜りしモノ。
「クソッ、クソッ、硬いぞコイツら!」
「
ギチギチと耳障りの悪い音を立てて近付く巨大な
全長2メートル近くある
直径5メートル程の曲がりくねった洞窟内ではプラズマレールガンを使う事も出来ず、サクラは電気エネルギー弾を射出するショックガンで援護射撃を行っていた。
「オーナー、洞窟の奥から熱源多数! 敵の増援です。数はおよそ二十。続々と集まってきます!!」
「クソッ、数が多い。フィー、エルム、撤退するぞ、先に行け! サクラとプラムは俺と
「了解だ、婿殿!」
「了解です、オーナー!」
エルムとシスターモモを逃がす時間を稼ぐ為にその場に残った俺達だが、狭い洞窟内に押し寄せるキラーアントの大群に徐々に追い込まれすぐに撤退を余儀なくされ始めていた。
「オーナー、これを使ってみて下さい」
サクラがマニピュレーターで差し出したのはスプレータイプの芳香剤だ。
眼前まで迫ってきたキラーアントの攻撃を剣で防ぎながらプシュっと一吹きするとギャッ、ギャッっと叫び声を上げ頭を振りながら後退していく。
「オーナー、蟻は
「了解だ。サンキュー、サクラ。フィーやエルム達は距離が取れたかな?」
「私の熱関知レーダーでは近くに反応はありません。充分距離が稼げたのではないかと」
「婿殿、サクラ殿、敵の数が増してきた。我々もそろそろ撤退するとしましょう!」
俺はスプレーボトルの上部を剣で切ると、辺り一面に撒き散らした。原液を撒いた洞窟内は酸っぱ臭い香りが充満し、蟻でなくても顔をそむけたくなった。
ビークルモードに変形したサクラのパイプフレームに俺とミレイがしがみつくと、暗い洞窟内を一気に加速して走り出した。
サクラのわずかなライトのみで洞窟内を疾走して行く様は、まるで某ネズミーランドの【どでか雷山】という絶叫マシンに乗っている気分だ。
必死にしがみつくヘタレな俺と違い、ミレイにはスピードを楽しむ余裕があるようだ。
「ひゃあ、コイツは凄いなサクラ殿!」
「路面が安定していないのでかなり揺れます。舌を噛まないように気を付けて下さい」
舌を噛む、噛まない以前にしゃべる事もままならない俺には必死に掴まっている以外の選択肢などありはしなかった。
暫く進むと天井までの高さがかなりある広い空間の洞窟になった。この場所こそが今回の探索のスタート点となった場所……ドリアードが擬態していた屋敷の地下最下層であった。
オークキングの撃退後、砦の調査に訪れた騎士団が発見したモノで、ナーゲイルの開けた縦穴はこの場所まで貫通していた。
いくつかの通路が複雑に繋がっており、少数の騎士達だけの調査は危険であると判断。危険な洞窟への大人数の調査隊を編成できる程の余裕も砦には無かった為、王都への報告と屋敷の閉鎖、屋外の警備のみとなっていた。
王都より正式に勇者ビートへの依頼がもたらされたのはその日の夕刻であった。もちろんミレイ大隊長から皇国騎士団長への口添えがあった事は言うまでもない。
先日の魔族軍の侵攻を撃退したばかりなので、現状フォールーン砦への魔族の大規模侵攻があるとは考えられないのだが、それでもフォールーンを魔族に奪われれば、王都侵攻への足掛かりとなってしまうので、兵員の増援を上申しているのだ。
そんな中、大幅な人員を割いての調査団など編成出来る訳もなく、かといって魔物の拠点となっていた場所を放置する訳にもいかないので、
当初は俺達のみでの調査だったのだが、ミレイがどうしてもついていくとゴネた為、頭を抱えたアスファルトが彼女の護衛として俺達を雇った形に収まったのだ。
ミレイとしても自分が城主を辞してその後をアスファルトに任せるつもりでいるため、切り盛りを任せる訓練だと言っていた。
だが元々ほとんどの政務をアスファルトが取り仕切っていた為、仕事的にはさほど変わらず、むしろミレイを放って置くとすぐ前線に出たがるため気苦労が絶えなかったらしい。
彼女を越える実力者のいないフォールーンでは彼女を止める術がなく、アスファルトを含めた部下達が戦闘ではなく心労で命を落とすのではないかと噂されていたらしい。
まあ、そんなこんなで探索を始めた日比斗たちであったが、洞窟は入り組んでおり、隠れ潜んでいた数体のゴブリン共を倒したあとに現れたのが先程の蟻であった。
最初の一体は苦も無く倒せたのだが、次々と現れる増援に手が足りなくなって逃げ出した訳だ。
サクラの熱源レーダーには追ってくる蟻共は関知されていない様だし、何とかまいて来れたようだ。
「ビート君、大丈夫?」
エルムが岩陰から姿を現すとこちらに向かって走り出した。
正直言うと全然大丈夫じゃない。サクラのビークルモードには全く慣れる気配が無いのだから困ったモノである。
青い顔をしてへたり込んだ俺に、エルムは光の精霊を近付けて心配そうに覗き込んだ。
精霊の優しい光が若干暖かみを与えてくれたので少しは落ち着いてきた。
「婿殿は意外に意気地が無いのだな。これは馬の早駆け訓練にでも付き合ってやるべきかのう。いや是非とも付き合おう!」
俺にも苦手な事があるのを知って少しばかり気を良くしたのだろうか……。ミレイは得意気に胸を張り、嬉しいそうに笑うとドンと胸を叩いた。
「いや、結構。別にスピードになんて慣れたくないから」
口を尖らせて語ったのは本心ではない。俺のちっぽけなプライドが言わせた言葉だ。
スーパーエイトフロワー戦で空中に舞い上げられ自由落下した時はもっと余裕があった気がするのだが、エウロト村での山下りで変なトラウマにでもなってしまったのだろうか。
『もう、マスターってば、言い方!』
耳を引っ張りながら、ぷんすか怒るティーのおかげでようやく気が付いた。ミレイの落ち込み具合が半端なかった。膝を抱え、背中を丸めてしゃがみ込み、地面に大量の【の】の字を書いている。
まいった……この世界に来てだいぶ丸くなった俺だが、それでも長年ボッチを貫いてきた時の悪い癖がつい出てしまった。
俺は顔を片手で覆うと『はぁーっ!』と軽くため息をついてから笑顔を作るとミレイに語り掛けた。
「ごめん、プラム。みんなに格好悪い所見せたくなくてキツイ言い方になった、すまない。今度、時間のある時に早馬の乗り方教えてもらえないだろうか?」
「喜んでだ、婿殿!」
キラキラと輝く笑顔で答えるミレイを見て、『単純だなぁ』と思う反面、ヒトってこうして丸くなっていくのかな……と感じていた。
孤独で、周りと関わりを持とうとせず、距離を取って、極身近な人間以外には尖っていたのも自分。
そして周りの人達と強く関わりを持ち、そこに馴染んで行こうとしているのも自分。
どちらも自分なのだ。周りの環境は違えど、自分の心の持ち様ひとつでもしかしたら見える景色も変わっていたのかも知れない。
ここへ来てからの自分は、徐々にそんな風に考えられる様になっていた。
そしてそんなに風に思える様にしてくれた人達の事を守れる自分自身で有りたいと願うようになったのだと思う。
「あれぇー、ビート君、そう言えばモモちゃんは?」
「えっ……お前と先に逃げただろ?」
光の精霊を追って走っているうちに、いつの間にか見えなくなったのだとエルムは言った。どうせ俺を心配したシスターモモが途中で様子でも見ているのだろうと軽く考えており、サクラや俺達と共に戻って来ると思っていたのだ。
「サクラ、近くに人間の反応はあるか?」
「すみません、オーナー。探知出来る範囲に人間の熱源反応はありません」
「くそっ、すぐフィーを探しに戻るぞ!」
慌てて洞窟へ飛び込もうとする俺をミレイは全力で引き留めた。
「ダメです、婿殿! 策も無しに飛び込んでは先程と同じ事になります!!」
「だが、フィーが、フィーが! あいつはろくな武器も持ってないんだぞ!」
ミレイは動転する俺の頬をパンっと張った。
「落ち着いて下さい、婿殿。隊長のあなたが錯乱していては助けられる者も助かりません! モモちゃんは機転の利く賢い子です。私達が助けに行くまできっと大丈夫です!!」
ミレイは俺の両肩を押さえ付け、強い意志のこもった真っ直ぐな眼差しで、動転した俺の心を射抜く。だが、その手は
「はぁーっ。わ、悪かった。だがどうする? まだ探索の終わってない通路がいくつもあるぞ。出会い頭で戦闘になったらまたさっきの二の舞だ」
「私が囮になります。サクラ殿に手を貸して頂けると助かります」
「私はオーナーがよろしければ問題ありません」
二人の視線が俺に集まった。ミレイが囮になる事に不満はあるが、今はとにかく時間が欲しい。俺が頷くとミレイは作戦案を話し始めた。
作戦は単純、ミレイとサクラの攻撃力と起動力を生かして陽動を行い敵を引き付ける。その間にエルムと俺でシスターモモの探索を行うと言うものだ。
囮役にはかなりの危険が伴う。それは俺がやるべきだという案はミレイに却下された。
「囚われている人の救出ならともかく、何処にいるかも分からない人物の探索となると勘や運といったものが成功率を大きく左右する場合がある。これは勇者殿の運の強さに期待してのものだ。……それに、婿殿に探し当てて貰えた方がモモちゃんも嬉しいだろ」
彼女は少し寂しそうに笑った。
「納得はしてないが了解だ。俺はエルムとシスターモモの救出に向かう。エルム、シスターモモに念話は通じるか?」
「さっきからやってるけど全然ダメ。もしかしたら気を失っているのかも……」
「了解だ。サクラ、お前はミレイの援護と敵の弱点を探れ。さっきの芳香剤のように使える物は何でも使え! 料金はいつも通り俺への配当金から引いておいてくれればいい」
「了解です、オーナー!」
俺はサクラにもう一言付け加えた。最優先事項はミレイの身の安全を守る事だと。お前が危険だと判断したらかっさらってでもミレイを連れ帰る事だと説明した。
「婿殿……」
俺は目を潤ませているミレイを抱き寄せると、耳元で囁いた。
「フィーが助かっても君に何かあったら何もならない。俺は必ずフィーを連れて帰る。無理をするなとは言わない、だが必ず生きて戻れ、約束だ!」
「うん……」
俺はもう一度、強く抱きしめると、その場を離れティーとエルムに声を掛ける。
「二人共、フィーを念話で呼び続けてくれ。二人の索敵能力が頼りだ。必ず彼女を助けるぞ!!」
「はい!」
『了解だよマスター!』
先行して洞窟へと侵入して行くサクラとミレイを見送ると、二人を連れて先程逃げ出して来た洞窟へと再び足を踏み入れたのだった。
ーつづくー
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