第4話 サポートせし者。
「おお……勇者よ。死んでしまうとは情けない。復活の呪文を……」
「おはようございます、神父さま。あのーその流れ毎朝やんないとダメですか?」
神父さまは娘のモモから、女神エルムの御神託でそうするようにと言われたとの事で毎朝起こしに来るとき、この台詞で起こしにきた。エルムめ、余計な真似を!
召喚の儀式からすでに三日が過ぎていた。俺は教会の一角に部屋を頂き、神父の親子と共に暮らしている。いわゆる居候だ。
召喚されたあの日、教会主宰で村人たちの歓迎を受けた。いろいろな話を聞き、この村の現状を知った。ささやかな
重いわー。それが俺の正直な感想だ。営業成績も下から数えた方が早い交渉能力の低い俺にはその場上手く切り抜けたり、正直に『無理です』と断ったりする事など出来る訳もなかった。
流石にビジネススーツでは戦えない。次の日、とりあえずこの村に伝説の武器や防具が無いかと尋ね歩いたが、そんな物の話しは誰も聞いた事がないとの事。ゴブリンと戦うにせよ、害獣を駆除するにせよ何かしらの武器が欲しいと神父にお願いして、更に次の日に届いたのが今目の前にあるこれだ。
【こん棒】【木の盾】【布の服】の基本三点セットだ。シスターモモが気を利かせて皮のブーツと手袋を用意してくれたのには、有り難くて泣きそうになった。
「それにしても自分の強さも敵の強さも分からんと戦いようが無いな。いきなり強敵と当たって秒殺とか洒落にならんからな」
『ようやくぼくの出番のようですね、
ブンブンと飛び回るそれを、俺は両手のひらをパチンと合わせて叩き潰した。手の指の隙間からちょこんと顔を出したそれは、緑色の髪の毛をクルクルとカールさせ、透けるような薄い布で出来たふわふわのドレスを身に纏う羽根の生えた少女だ。
『ひどいよマスター。ぼくぺちゃんこになっちゃうよ!』
「うぉっ、ボクっ娘フェアリーだ!」
『ボクっ娘じゃないし。フェアリーでもないよ! ぼくはエルム様のお作りになった勇者さま専用のサポート精霊だよ。名前はマスターが付けてね。よろしく』
「羽虫。」
「マスター、それはあまりにも酷いよ!」
どうやらエルムの部屋にいた時言っていた認識をゲーム風にすると言ってたのはコイツを含めての事の様だ。
それにしても名前かぁ。本当はナビ○って名前を付けたい所だが、各方面から怒られそうなので、どうしたものかな。
「ハムシー、半端神、チビ神………チリ神……! おぉ、ティッシュ! お前の名前はティッシュが……いや、やっぱり長いか。……えーそれじゃあ、お前の名前【ティー】なんてどうだ?」
「マスター、途中から考えが全部声に出ちゃってたけど、それが一番マシそうだからそれでいいや」
半泣き顔で笑うティーが承認すると頭の中に声が流れた。
【アシスト精霊ティーを登録しました】
ティーに促され【ステータス】と唱えると目の前に半透明のステータス画面のウインドウが現れた。
[ステータス]
名前:タダノ ヒビト
名称:[勇者 タダノムラ・ビート]
職業:村人【Lv1】
HP:30《めっちゃ低い》
体力:50《かなり低い》
腕力:25《これマジか》
敏捷:43《やや良い》
運 :82《良い》
魔力:00《まあ当然》
[攻撃装備【1】]
武器 :こん棒 【1】
[防御装備【7】]
防具 :木の盾 【3】
頭 :タオル 【1】
体 :布の服 【1】
手 :皮の手袋 【1】
足 :皮のブーツ 【1】
[経験値]
001/0100
[精霊・獣魔]
【アシスト精霊ティー】《チョー可愛い》
しまった! 朝、顔を洗った時にタオル頭に巻いたままだった。慌ててタオルを外すと防御装備が1下がった。
それにしても数値の隣にあるティーの物と思われるコメントがかなりムカつく。平均値と比べてどうかと言う所を分かり易くコメントとして入れたらしいのだが。やはりもう一度潰すべきか?
それにしても突っ込み処満載のステータスだよ。だが、いくつか分かった事もある。俺の能力はこの世界の村人の平均値よりかなり低いと言う事と、昨日・一昨日と空き時間に少しでも戦える様にと走り込みや筋トレをやってみたのだが、2日分で経験値【001】という事実だ。一年続ければ確実にレベルが2に上がる計算だ。……アホか!
しかもこの村人と言う職業は女・子供しかいないらしい。仕事に着けば農民・商人・職人などの職業にジョブチェンジするからだ。つまりいい年して村人というのは職業を持っていないニートという事だ。俺は異世界に生まれ変わってサラリーマンからニートにクラスチェンジしたのだ。なんかちょっぴり絶望した。
「落ち込んでばかりもいられない。早く冒険者にでもなってニートから卒業だ! 俺はやる、やってやるさ!」
『マスター、誠に言い
「寝る!」
俺は布団を被ってもう一度寝る事にした。目が覚めたらきっとこの悪夢から覚めていると信じて。いや、信じたい。
『マスター、現実逃避はやめて下さい。もうすぐシスターモモが来てしまいますよ』
そうだ、今日はシスターモモの案内で畑の状況やゴブリンの出現する森を偵察に行く事になっていたのだ。
もし、このまま布団を被っている時に彼女が部屋に来てしまったら『メシはドアの前に置いてとっととどっか行け!』とか言ってるクズニートと何ら変わらなくなってしまう。いち社会人としてそれだけはダメだ。
「何をどうすればいいか、全くわからないのは情報が足りないからだ。まずは村を案内してもらって情報収集だ。シスターモモは可愛いし、デート気分を味わえば少しは気分転換にもなるだろう」
『あの、マスター。実に申し上げ
振り返ると顔を真っ赤にして
「の、ノックもせずに入ってしまい申し訳ありません。か、可愛いと……言って頂けたのは、すごく……すごく嬉しいです。でも、お仕事の方も……もっと真面目に取り組んで頂けると、もっと嬉しい……です」
「い━━や━━━━━━っ!!!」
勇者[ニート]の株が大きく下がった瞬間であった。
ーつづくー
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