このロボ…… 肉食じゃないよね?

「きゃー!」


しがみ付く葵さんのコスチュームが元に戻り、姿も森人に変わった。

満天の星空が目の前にあるってことは、僕は背中から落ちてるんだろう。


「葵さん、魔力借りるよ」


メカドラゴンに魔力を送って、コントロール・ルームにパスを通す。

制御装置は生きてるみたいだから……


「どーすんの?」

「前足で受け止める!」


できるだけ衝撃を吸収できるように、プログラムを操作する。


「そんなコトできるの」

「なんかこれ、ほぼ自動制御なんだ」


木偶もそうだったけど、命令そのものは単純で、後は本体任せで動かしてた。

人や動物に命令するような感じだ。

AIというか…… 生命自体がプログラムに混入してるような気がする。

この謎が解ければ、前の世界でも魔法が使用できるかもしれない。


背中に衝撃が来て、一瞬息が止まる。

周りを確認すると、ちゃんと前足で受け止めれたようだ。


「我に命令したのは、お前か?」


脳に直接言葉が流れた。

見上げると、メカドラゴンの顔が近付いてくる。


「意識があるんだね」

僕が呟いたら、葵さんがメカドラゴンを見上げて。


「こ、このロボ…… 肉食じゃないよね?」

――微妙なところを心配していた。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



彼に名前は無いらしい。

どうやらドラゴンと言うのはその辺がアバウトみたいだ。


「何千年かぶりに目を覚ましたら、このような格好でな。

しかも思うように、体が動かん」


そっと地面に降ろしてもらったけど、葵さんはガクブル状態だ。

確かに、こんなデカいのがしゃべりだしたら驚くだろう。


しかし意外とドラゴンさんは話し好きのようで、いろんなことを語ってくれた。


「なんとなく状況は理解できたよ。

キミを強制的に制御してるプログラム…… 呪文? があるから。

それを取り払えば、少しはましになるんじゃないかな」


「そうか…… 小さきモノよ。ではその解呪をたのめぬか!

――対価は存分に払おう。

まあ、今の我にできることは少なそうだが……

自由に動ければ、国のひとつやふたつ滅ぼすことぐらいできよう」


「そんなのはいらないよ!

中にいる仲間を助けてくれて、あとこの辺で暴れなきゃOKだ」


「ふむ、欲がないのう。

ではまず、中におる仲間とやらに出ていってもらうか」


メカドラゴンの胸がパカンと開いて、スロープが出てきた。

するとワラワラと、ミキさんやエメラルダさん達が下りてくる。


「キド、どうなったんだ?

お主が飛び出して、急にドラゴンが動き出して……」


はたから見るとそんな感じになるんだろう。


「説明は後でするよ。

今、このドラゴンと話し合い中なんだ」


とりあえず、みんなの安全を確認する。

僕が解呪すると同時に暴れ出さないか心配だったけど……

まあその時はその時で、なんとかなるだろう。


「では、小さきモノよ。 ――たのめるか?」

「じゃあ、僕の手が届くところまで顔を近づけて」


ドラゴンが首を下すと、全員ビックリして後ずさりした。

僕は、鼻? の部分に手を当てて、プログラムを検索する。

不要だと思われるリミッターと、本人より上位からの命令系統を解除すると。


「おお、体が自由に動く!」

大きく息をするように、口を天に向かって広げた。


そして全身が震え、山々に振動が伝わった。


「凄い竜力の嵐だ!」

遠く離れた木の陰から、ミキさんの声が聞こえる。


電力制御から竜力に切り替えたんだろうか?


見たことのない『文字』がドラゴンの体中をめぐり……

――鉄板がウロコに、ギラギラした銀色の身体が深い緑へと変わっていった。


彼がもう一度顔を近づけてくると。

もうそれは、立派な龍という『生き物』だった。


「うーむ。曖昧だった記憶も戻ってきた。どうやら我は、新たな神々に操られておったようだな。

小さきモノよ…… その神々と戦っておるのか?」


「僕は、その気はないんだけどね」


「ふむ。どちらにせよ神々の呪いを解き、我に自由を与えてくれたこと。

――深く礼を言おう。

あの者たちの安全と、この地の安寧。確かに引き受けた。

しかしそれだけでは、ちと足りんな……

対価に見合うモノを授けたいが、構わんか」


竜人もそうだったけど、なにかマイルールでもあるんだろうか?

断ると、それはそれでめんどくさそうだし。


「どっちでもいいけど、気が済めばそれで」

「はっはっは! 面白いヤツじゃな」


ドラゴンは口を大きく開け、舌を出す。

その上には、ピンポン玉ぐらいの金色に輝く石が乗っていた。

僕がそれを受け取ると。


「龍力石じゃ。

なにかあったら、それで我を呼ぶと良い。

それに…… 多少の力の足しにもなるじゃろう」


「ありがとう。大事にするよ」

魔力石や精霊石の竜バージョンみたいなものかな?

なら、なにかに使えるかもしれない。


ドラゴンは嬉しそうに頷くと。

「では、小さきモノよ。また会おう」


大きな羽を広げて、夜空へ舞い上がって行った。

そして、姿が見えなくなり始めた頃……


森が輝き、メカドラゴンに破壊された木々が復活し……

「えっ? なにコレ?」


――ローラさんの声で振り返ると、彼女たち全員が黄金に輝いていた。



どうやらドラゴンの声は、僕にしか聞こえてなかったようで。


「そーゆ―事は、勝手に約束しないでよ!

なんかあたし、また面白人間になったんじゃないでしょうね」

今までのことをみんなに伝えたら、ローラさんに叱られた。


「もう光もおさまったみたいだし、特に体調の変化はないんでしょ?」

怖くて、バイタルデータの確認はしてませんが……


「キドよ! しかし力がみなぎってくる感じはあるぞ」


ミキさんが、嬉しそうに腕を振り回して。

「とー!」

近くの大木を殴った。


ズーン…… と低い音が響き、その木が倒れてゆくのを見ながら。


「ミキさん、前からそのくらい力持ち?」

って、聞いてみたら。


「全力なら、この半分の木なら倒せたかな?」

そんな答えが返ってきました。


うーん、どうしましょ……

――皆さんの目がとっても冷ややかなんですが。


でもこれで、この永い夜は明けそうだ。

あとはベッドにもぐり込んで、ぐっすりと眠りたい。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



サディさんのいる場所まで戻ると、また全員土下座状態で出迎えてくれた。


「エメラルダさん、後はお任せしますから……

――僕はもう帰ります」


「お待ちください、キド様!」

しがみ付くエメラルダさんを振り払って逃げようとしたら、目の前にノイズのようなモノが走った。


「あれ?」

貧血のように足がもつれる。


「キ、キド様!」

エメラルダさんの悲鳴を聞きながら……


――僕はゆっくりと意識を失っていった。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



Warning :Alderson Loop

>Important memory Lost.

>Emotion code Error.

>behavior pattern missing.

>Debug mode time out.

>Next stage start.

>Yes / No >■

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