溢れ出る想い_Buffer overrun

ロボじゃん

お礼をしたいとか、城に留まってほしいとか。

各種お申し込みに困ってたら、ポケットに入れてた携帯電話が震えた。


「キドです。えー、そちらはどーですか?」


「あ、はい。フィーアです。

森は…… レコンキャスタは逃げ帰ってもういないんですが。

その、ドラゴンが出ちゃいました」


なんだろう? ガチャで当たりでも引いたんだろうか。


「ドラゴン! 分かりました、今助けに行きます」


良く分かんなかったけど、ノリノリの返答をしてみる。

効果があったのか、騒がしい室内に静寂が訪れた。


「勇者様…… もしや」

おどろきと羨望の眼差しで僕を見る領主様に。


「こうなっては、僕が行くしかないでしょう」

ハードボイルドに言い放ち……


「だから、安心してください!」

――フィーアさんにそう伝えて、電話を切った。


全員がフリーズしてたから、チャンスなのは間違いない。

よし、逃げよう!


震えるローラさんの腕をとって。

「急ごう!」って、言ったら。なんか覚悟を決めた顔で頷いた。

まだ倒れている葵さんを抱き上げると。


「あん、これ以上ムリよ」


意識が戻ったのは嬉しいけど……

――艶っぽい表情で首に手をまわしてくる仕草がビミョーすぎる。

こんなキャラでしたっけ?


しかたがないから、近付いてきたローラさんに小声で話しかけた。


「葵さんをお願いします。

その、僕じゃ運び出すのに体力が持たないし。

こんな状態じゃ、精神的にも持ちそうにないです。

ああ、それからドラゴンって。やっぱり凄いんですか?」



ローラさんは、そのツリツリの瞳を大きく開き。

「忘れてたわ…… あんたがバカだったってこと」


――とても嫌そうな顔をした。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



森の入り口までくると、元気よくミキさんが手を振っていた。

それに合わせて例の爆乳がブルンブルン揺れてる。


葵さんが移動中に正気? に戻ってくれたのに……

これじゃ、一難去ってまた一難だ。


「誰? あの娘……」


ローラさんが、変な目で僕を見る。

どうも僕の信用がダダ落ちのような気がしてならない。


「前話した、バザールと森でバッタリ会った人だよ」


「あんた、あーゆーのがつくづく好きよね。

魔王とも知り合いだったんでしょ……

それにルビーとも」


アレ的なアレの話でしょうか?


「ローラさんもなかなかじゃないですか。

それに僕は大きさで差別したりしませんよ」


小さいのは小さいので、ちゃんと需要があるし。


「差別? まあ、あんたみたいな術師には、自然とあんなバケモノみたいなオーラを放つヤツが集まるのかもね。

でも、そうかー、あたしも…… なかなかなのか」


満足げに頷くローラさん。

でも、オーラとかそう言う話ですか……

相手がどれだけの実力があるかとか、僕には全く分かんないんですが。


バトル系少年漫画とか、苦手だったし。


まあ乳神様の時も……

ローラさんや葵さんは、なにかに圧倒されるみたいに動けなくなってたけど。

――僕は意外と動けたから。


『覇気』とか『闘気』じゃなくて、単純に魔力量の関係かもしれないな。

魔力や精霊力って、それ同士で反響してるっぽいから。

その辺は今後の事もあるし、ちゃんと伝えとこう。


「すいません。なかなかなのは、オッパイのことです」


僕がそう言ったら…… いきなりグーで殴られました。

――暴力はいけないよ、ローラさん。


「お前らなにをしてるんだ?」


倒れ込んだ僕を楽しそうにのぞき込むミキさん。

あのね、そもそもの原因はその胸なんですが……



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



森の中は相変わらずの安心の仕様だ。

サディさんはじめ、多くの美女がずらりと並んで頭を下げていたけど。

やっぱりみんなチッパイだ。


森林浴効果ってやつかな? 心が安らぐ。


「キド様、エメラルダからお話は聞きました。

レコンキャスタから我々を救っていただいただけではなく……

このたびは、また森の災害に駆けつけてくれるなど。

――誠になんとお礼を申し上げてよいやら。

ドラゴンはそうとうお怒りのようで、西の山の一部が既に被害にあっております」


その横で偉そうにふんぞり返ってるミキさんに聞いてみる。

「なんでこんなトコにいるの?」


「うむ。ドラゴンがあらわれたとあっては、見に来ない手はないだろう。

――とても珍しいのだ!」


「竜人って言うぐらいだから、付き合いがあるんじゃないの?」


「種族としては近いらしいが、そもそもの成り立ちが違い過ぎる。

ヤツらドラゴンは生き物というより、概念みたいなもんだからな」


――なんだろう、哲学的な話だろうか?


「あんなデカい体で自在に空を飛ぶし、竜力はほぼ無制限に使いたい放題だ。

種によっては高度な術式もこなすらしいし……

――だいたいどうやって殺せるかもいまだにわかっておらん。

それに、あたしも170年ほど生きておるが、生で見たことはないからな!

地の底深くで眠っとるか、空のはるか上…… 星々の世界におるらしい」


「ソレって、退治とか無理じゃない?」


「無理だな!

そもそもそんな記録など、竜人の長い歴史にも残っとらん!」


「じゃあ、なんで怒ってるのか分かんないけど……

説得するしかないね」


「おお、さすがはキドだな!

ドラゴンと話をするなど、そもそもそんな発想すら浮かばなかったぞ」


「話すことも出来ないの?」


「いや、過去ダークマータと呼ばれた竜人が会話をしたと言い伝えに残っとる。

――キドなら、可能かもしれんな」


退治も無理で、会話もできるかどうか分かんないなんて。

もうそれは、天災かなんかだな。

この世界でドラゴンは、地震とか台風とかと同列の扱いなんだろう。


エメラルダさんやフィーアさんを見ると、とても困った顔をしてた。


まあ、可能性があるんなら試してみるか……

――最悪、逃げる方向性で。


「じゃあ、ちょっと西の山に行ってみます。

道を教えてもらえますか?」


僕の言葉にサディさんが頷き、エメラルダさんとフィーアさんが立ち上がった。



▽ ▽ ▽ フィーア視点 ▽ ▽ ▽



――つくづく不思議なヤツだ。


初めて見たのは、人族同士の戦いの中。

盗賊の女の胸を揉みながら、怪しげな術を使ってた。


もう、印象はサイアクだったけど……


その後森の恵みを取り戻してくれたり、襲い来る魔族を軽くあしらうように撃退したり。

人族の教会では、無償で大ケガの人々を救ったり。


少し見方が変わった。


さっきもドラゴン襲来を伝えたら、悩む間もなく「助けに行く」って言った時は……

ちょっとドキッとしたけど。


山道を歩きだしたら、もうバテバテで。

しかもローラって女のスカートが揺れるたびに、それをのぞこうとしたり。

エメラルダが近寄って汗を拭いたりしたら、だらしなく笑ったり。


……まったくカッコ良くない。


「ねえ、ルビー。あいつと上手くやってる?」


昨夜あの豪華な部屋で、エメラルダとルビーの3人で話したけど。

ルビーが転生者で、あいつのことが好きだって事が……

――いまいちまだ、理解できてない。


それ以上におどろいたのが……

実はエメラルダとルビーがいがみ合ってるのは、「ふり」だったことだ。


両方とも素直じゃないだけで、お互いの実力を認め合ってて。

きっと「仲が良いね」って言ったら怒られるだろうけど。


今もあたしの質問にてれたように笑うルビーを見て……

エメラルダがあの男にちょっかいを出した。


そしてその後、ルビーと2人でそれをネタにじゃれてる。

ぱっと見は、陰湿なケンカにしか見えないけどね。


どこか、命がけでドラゴン討伐に向かう雰囲気じゃないな。

ローラって人族も、ミキって言う竜人も。

――なんだかちょっと楽しそうだ。


あたしもそうだけど、あいつといると緊張感がヌケて。

なんだか「次はどうなるんだろう」ってドキドキ感と。

それでも「あいつがなんとかしちゃうだろう」って安心感に包まれる。


ルビーが惚れたのって、きっとそんなとこなんだろう。

――まあ、あたしの勝手な想像だけどね。



しばらく歩くと、西の山が見渡せる開けた場所に出た。


「あれが…… ドラゴン?」

あいつがそう言ったら、隣にいた竜人の娘がそれに答える。


「おー、始めて見るが…… 間違いない。

あんなモノが、そうそうあるわけも無いしな!」


それはあたしの背丈を10倍にしたよりも大きく、翼を持った異形の物体だ。

あたしの横で、ポカーンと口を開けたルビーが呟やいた……


「ロボじゃん」



――なんだろう? あたしの知らない魔術用語だろうか。

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