異常に高すぎる美少女人口密度

『人が想像できる程度のものは、全て現実として起こる。

想像力が枯渇すれば、その先はない』


いつかシンイチが僕に行ったセリフだ。


少し物事が上手く行くと……

――どうしても自惚れて『その先』を考える『想像力』が貧困になる。


今思うと、分かってけど…… 理解できてなかったんだな。



初めはゲーム感覚だった。噂の『痩せガエル』の正体が誰なのか、特定出来たら面白いかなって、その程度の思い付きだった。


でも次第にコトが進むと、どんどん情報が黒くなってく。


マネーロンダリング、武器・麻薬の輸出入、人身売買……

それらを水面下でコントロールして、対立や問題が発生すると警察や政府に売り渡し、自分は双方から利益を得る。


個人なのか組織なのか、そもそもその目的が何なのか。

まったく分からなかったけど、ついついちょっかいを出してしまった。


痩せガエルがコントロールしていた下部組織を、ヤツの名目でハッキングして、世にさらしてやった。

ついでにヤツの資産のほとんどを奪い取って、慈善団体に寄付する。


――正義感? 未だに自分がなんでそんな事したのか、良く分からない。

そんなものは、ずいぶん昔に失くしたと思ってたから。


逃げ切ったと確信してたし、実際、証拠は全て消し去った。コンピュータやネットワークをどれだけ駆使しても、僕の存在にはたどり着けない。


――それ以上のテクノロジーが存在しない限り。

だから、そこで僕の『想像力』は止まってた。


あの実験室で見たモノ。もう一度、記憶のデータベースを開いて再確認する。


驚愕の表情で固まる葵さんと舘山寺さん。

――目線は何処に向いてた? そして、爆発寸前に見た黒い影……


ああ、ホント自惚れてたな。

――こんな世界が存在して、こんな力があるなんて。


予想もしてなかった。 ……僕も、まだまだだな。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



僕の話を葵さんが部分的にフォローしてくれた。

続いて森の状況をエメラルダさんとフィーアさんが報告する。


ローラさんが頭を抱えながら。

「つまり、あんたはこの世界で言うところの黒魔導士ってゆうか……

違うわね、もっとスケールの大きな、 ――暗黒術師みたいなもんだったわけね」


ハッカーが上手く説明できなかったけど、なんとなくニュアンスはつかんでくれたみたい。

暗黒術師ってなんだろう? でも、響きはグーだ。

……なんか厨二病っぽいけど。


「そう考えると、今までの事がなんとなく納得できるような……

ダークマータって竜人の暗黒術師は、世界を征服しかけたって聞くしね。

で、前の世界の暗黒術師同士の戦いで不覚をとって……

――この世界に来たのね」


意味が合ってるかどうか分かんないけど、まあ近いようなモノだろうと頷いたら……

エメラルダさんとフィーアさんが身震いした。


「それでルビーは相手の暗黒術師にダマされて、この世界に移転するきっかけを作って……

巻き込まれて転生したのか」


やっぱり、あの爆発の起点になったガラケーを仕掛けたのは、葵さんだ。


「そうなりますとレコンキャスタ自体が『痩せガエル』か……

あるいはなんらかの形でつながっている可能性が高いですわね。

ねえルビー、何てそそのかされたんですか? その『痩せガエル』に」


問い詰めるエメラルダさんの言葉に、葵さんが固まる。

その部分は言葉をにごしてたから、言いたくないんだろう。


「そこはほら、今、直接関係ないし。

葵さんが話したくなければいいよ。それより、この先の事を話し合おう」


僕が葵さんに笑いかけると、大きな瞳をさらに開いて。


「ありがとう…… もう少しだけまって」


それだけ言うと、言葉を詰まらせた。

――辛い事があったんだろう。


昔シンイチがしてくれたみたいに、葵さんの頭を撫ぜると……

ローラさんが柔らかく微笑み。


「そうね、そうゆうのは無理して言う事ないわ。誰だって、秘密はあるからね」

そう言ったローラさんを見て、葵さんも少し元気になる。


「じゃあ情報も出そろったし、次なにするか決めよう。

エメラルダさんフィーアさん。今、森に連絡できる?

先に事情をサディさん達に伝えてほしいんだ。

レコンキャスタの今後の動きが気になるからね」


「はい、もしもの時のために通信石を持ってまいりました。

この小型な石でも、今の距離なら問題ないでしょう」


エメラルダさんが、石を取り出して呪文を唱えだす。

どうやら『通信石』はアナログ無線方式と同じような仕組みだ。

そう考えると、あの携帯はオーバーテクノロジーで間違いない。


僕はそれを確認しながら……

携帯電話や昨日取り上げた武器関係をテーブルに並べた。


「これも、携帯がそうだったから……

たぶんこっちの技術と、前の世界の技術が混じったモノだと思うんだ。

分解して何かに使えないか知りたい。 ――ねえ、手伝ってくれない?」


葵さんが頷いてくれる。


「それからローラさん」

「なに?」


「今回の件でローラさんは部外者だから迷惑かけたくないんだ。

例の奴隷契約だったら、多分僕の能力で解除できると思うし。

――多少の資金援助もできる。

ドーバーさん達は雲隠れしてるみたいだけど、もしどこかに頼れるところがあれば……」


例のお金をしまう袋を確認したら、昨晩使った金貨は戻ってた。

どうやらあれは1日に使える上限が決まってるだけで…… 無限の財布だ。

あの男は『少しの貯え』って言ってたけど、どんな金銭感覚なんだろう?


「いやよ今更、ここまで来たら一蓮托生じゃない!

あたしだって軍にいた頃はそれなりに有名だったのよ。腕は鈍っちゃいないし。

それに…… レコンキャスタには恨みがあるもの。

あんた達といるのも、 ――そうね、なんか楽しいし」


「じゃあ、僕たちの警護をお願い。

でも、危ないことは出来るだけ避けよう。

目的はあくまでも、生き残る事と…… 地味でいいから平和に暮らす事だから」


ローラさんは、豪華な部屋をぐるりと見まわして。

「ふーん、地味ねえ」って、言葉を漏らした。


――確かに。何処かズレてきちゃった感はありますが……



「……あの、キド様。

今森と連絡を取りましたら、レコンキャスタの軍に取り囲まれて……

硬直状態のようです」


色白な顔を更に蒼白に染めて、エメラルダさんがそう言った。

――どうやら、あんまりのんびりできそうにない。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



「確認できるだけで、百人以上。

対する森の戦力は、警備の者は30名ほど……

警備長のフィーアはココにいますし。今サディ様が陣頭指揮をとっておられますが」


「百人以上いるなら、1個中隊が動いたとみて間違いないわね。

相手の指揮官は大尉クラスが出てると思う」


ローラさんが顔を歪める。 ――僕が??? と、悩むと。


「帝国の冒険者やモンスターのクラス分けは、もともと軍の実力分けなのよ。

Fランクが一番下で、B級までが一般兵ね。

A、準S、S級はバケモノよ。

SS級やSSS級は…… もう神の領域ね。

キースとパティはピンでA級。2人でS級の扱いだったわ。

で、百人以上の戦士も脅威だけど…… レコンキャスタの大尉クラスになると。

S級以上のバケモノが出てくるわ。

それは、百の一般兵士より脅威なのよ」


ああ、そのランク分けは分かりやすい。ゲームと一緒だ。


「じゃあ、まずは森の解放から挑戦してみましょうか」

「どうやって?」


「レコンキャスタなら、この携帯を持ってるかもしれません。

昨夜、魔力石でやった『ブラクラ』をこの携帯でやってみます」


森の方角や距離は確認できてるから、力技で飛ばせば可能なはずだ。


「上手く行けば、相手がひるんでスキができるかもしれません」

僕は、心配そうなエメラルダさんに笑いかけ。


「エメラルダさん僕のアタックと同時に、避難するようサディさんに指示してもらえますか」


――安心してください。と、付け加えた。


とにかく今は逃げることが先決だろう。その後の事は…… 状況次第だけど。


エメラルダさんがまた通信石で連絡を始めたから。

「じゃあ、葵さん。何度も申し訳ないけどまたお願いできますか? 手で!」


念の為「手」を強調したら、不貞腐れた顔で右手を出してくれた。


「距離もあるし、人数も多そうですから……

少し多めに魔力を下さい」

そう言って手を取ると。葵さんは、なぜかニヤリと微笑んだ。


携帯のキーを操作しながら、森への方角と距離、そして推定台数……

とりあえず多めに5百台で、『ブラクラ』を昨夜より強力にカスタマイズして設定する。


「じゃ、葵さんエメラルダさん。 ――いきます!」

僕のかけ声で、葵さんの手から高出力の魔力が流れ込む。


「えっ、あれ。ぐわっ!」

しばらくしたら…… ついでとばかり、追加のド級の高出力が来た。


「パシン……」

そして携帯電話が壊れる。


「葵さん…… ダメじゃん」

「まだ半分も出してない」


そっぽを向く仕草はラブいけど……

ちゃんと送れたかな? 残り2台ある携帯の片方であわてて確認すると。


「なんとかなったかな?」

予定通り? 方角と台数は確保して、通信が完了してる。


「どーなんだろ? なーんかいつものパターンのような気がして」

ローラさんが、窓の外を見てる。


「どうかしましたか?」

「あそこで煙が出てるの……」

葵さんと2人で、ローラさんが指さした建物を見る。

「教会よ」


3人で、広がる黒煙を眺めてたら……


「キド様、ありがとうございます!

今、森から。 ――レコンキャスタが全員昏倒したと連絡がありました!

しかも装備は全て破壊されていると。

――ああ、本当にありがとうございます」


エメラルダさんとフィーアさんが、土下座するように深く頭を下げた。


「……で、何度も聞くけど。どうすんの?」


いやね、今回は僕だけの責任じゃないと思うんだけど……

あれ? 葵さんまでなんでそんな目で見るの?


「えーっと、消火活動かな?」


僕の言葉に、ローラさんがため息をもらし……

エメラルダさんとフィーアさんが「ハイ」と、元気よく返事をする。

葵さんは、またそっぽを向いたけど、態度的には責任を感じてそうだ。


「じゃあ、行きますか」


葵さんとの距離感とか、僕の周りで異常に高すぎる美少女人口密度とか。

まだいろいろと加減がつかめない……


――ホント、どうすりゃいいんだろ。

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