むいとく?

葵さんが、魔人の3人を拘束する。

ロープが無いからシーツを破いた布で手足を縛る。

そして、念とためにその上から精霊術をかけた。


「これで安心」

手慣れた作業がなんだか不気味だけど。


「ありがとう」

お礼を言ったら、可愛らしく微笑んでくれた。

――いったい森でどんな生活を送ってたのか…… 聞くのが怖い。


「それで、これからどうしようか……」

ローラさんが、倒れた森人と魔人を見回す。


全員なんか恍惚としてて、色っぽいのが微妙すぎるし。


「むいとく?」

「葵さん…… それはちょっと」


なんかキャラ的に黒くなってるよね…… 前からそうだったっけ?


「でも、このままってのは。魔人の装備だけでも解除しとかないと」

ローラさんの意見で、僕たちは魔人の装備を外しにかかった。


暗視ゴーグル、防弾チョッキ、拳銃、ガラケー。

他にも見たことも無い『計測器』や『手榴弾』のようなものまで出てきた。


「なんだコレ?」

僕が外した武器なんかを眺めてると。


「それはレコンキャスタが使う『新魔法』の魔道具よ」

ローラさんが嫌なモノを見る目で、言い放った。


「前の大戦の末期に、突然その武装をした魔人集団が現れて……

――戦況をひっくり返したの」


ガラケーをいじってた葵さんが、不思議な顔で僕を見る。

「でもコレ、動かない」


受け取ってみると、薄っすらと『文字』が見える。


「電気で動くんじゃなくて、魔力を使ってるのかな? たぶんココ」

携帯の裏側にある小さな穴が、入力口のようだったから、そこを指さして。

葵さんに返す。


「ホントだ。 ――動いた」


折り畳み式のガラケーの液晶画面が薄っすらと輝く。

ボタンは全部知らない記号だし、出てきた画面も魔法と同じで、知らない文字だ。


「なんて書いてあるの?」

「日本の携帯と同じ感じ」


ローラさんも近づいてきて、画面をのぞき込む。


「どう言うこと?」

「僕や葵さんがいた前世にあった道具と、同じものなんだ」


葵さんがカチャカチャボタンを押してると、突然ブルブルと携帯が震えた。

「着信…… 作戦本部だって。 ――どうする?」


僕はもう一度携帯を受け取って……

右手で青い石を握りしめて、大きく深呼吸した。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



「通信再開までずいぶん時間がかかったな、何か問題でもあったのか?

森人も抵抗するようなら始末してかまわん。とにかく急いで戻れ!」


低い男の声は、何処かイラだってるみたいだ。


携帯から流れ出る文字を目で追う。

やっぱり日本の携帯電波で利用してる6センチ刻みの周波数が見える。

世代的には少し前の、CDMA方式…… 「3G回線」の亜種だろうか。


「なんだかいろいろと…… 新しい発見があって」

「ん? なにを言ってるんだ」


セッションが見付からないから、パケット通信はしてないのかな?


電話回線は魔力で何とかなったけど、インターネット的なモノは技術的な問題か相性の問題で、出来てないのかもしれない。


「スマホってないんですか? できれば林檎のヤツが良いんだけど」

「……誰だお前。 ――エレンじゃないな」


「あなただって、ミカサじゃないでしょ」


通信が切れるまで、ジャスト24秒。

CDMA方式なら、128回の往復分は確保できたはずだ。

逆探知するには十分だろう。


「切れちゃった」


葵さんに、携帯を渡す。

青い石を確認すると、通信ログがちゃんと入っていた。


葵さんはなんだかホケッと僕を見詰めてるし、ローラさんはあきれ顔だ。

「あんたって、ホント何者なの?」


普通の高校生のつもりですが……

「ねえ、ローラさん。

ここが戦場になっちゃうより、ボヤ騒ぎの方がマシかな?」


「まあ、そりゃ」


「じゃあ、早速荷造してください。

葵さんも、その人たちの拘束を解いといて。

あまり時間はなさそうだから急ぎましょう」


葵さんがコクコクと頷いて、森人さん達を指さす。


「あれは…… ほっといたら魔人さん達に殺されるかもしれないですね。

んー、しかたない。担いで逃げよう」


一番力が無い僕が荷物を抱えて……

ローラさんと葵さんが森人さん達を抱えてくれた。


――異世界ガールは、やっぱりパワフルです。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



「どうして街の外じゃなくて、中に逃げるの」


葵さんの魔術で黒煙がモクモクとでる宿を後に、僕たちはのんびりと繁華街へ向かった。


「木の葉を隠すなら森の中だけど、人を隠すなら人混みの中でしょ。

ああ、ローラさんも葵さんも、もっと堂々と歩いてください。

――その方が目立たない」


「それで…… 何度も聞くけど、これからどうするの?」


なんだかローラさんは疲れ気味だ。

まあ、こんな時は男の甲斐性が試されるんだろう…… たぶん。


「この街で一番高級な宿は何処ですか?」


「帝国領だから、ゴージャス・パレスじゃない?

行った事ないけど……

どの領もだいたい貴賓や来賓が泊まるように存在してるから」


「ちょうどいいですね。それから、ココの領主様の名前って分かります?」

「……確か、バリオッデって名前だったような」


「宿泊費っていくらぐらいかな」

「分かんないけど、一泊で銅貨数十枚はかかるんじゃない?」


「数十枚? 銀貨じゃなくて?」

「――はあ、銅貨は100枚で銀貨1枚よ」


……どうも、通貨単位を勘違いしてたみたいだ。

まあ細かい事は徐々に覚えていこう。

今はそれより、ゆっくりと休める場所の確保だ。




そのゴージャス・パレスは領主城のすぐ隣にあった。

宿屋というより、既にそれはお城の一部にしか見えない。

正門? のど真ん中を歩いてゆく。


騎士のような恰好をした男が2人駆け寄ってきたので。

「頼むよ」

と、荷物を渡したら……

困ったような顔でそれを受け取り、後を付いてきた。


「ねえ、大丈夫なの?」

ローラさんが小声で聞いてきた。


「安心して、なんとかするから。それより、打ち合わせ通り堂々としてて」

僕の声に不安そうに頷く。


ロビーは大理石が敷き詰められた高級感あふれる造りだった。

僕達が入ると、タキシードのような服を着た初老の男が奥からあらわれる。


「私はこのパレスの支配人をしております。マンデラと申します。

失礼ですが、こんな夜分になに用でしょう」


値踏みするように僕達を見回す瞳は、いかにもって感じだ。


「ああ、悪いね。実は今日しのびでこの領に来たんだが……

あのボヤ騒ぎでね。宿を移らなくちゃいけなくなったんだ。

どうせ明日バリオッデ様と歓談する予定だったし。

少し早いが、面倒になろうと思ってね」


僕がそう言い切ると、老人の左眉がクイッと上がった。


「ほう、ご領主様と。見ればまだお若いようですし、それに身なりも……

おしのびと申されましたが、当方にも事情があります。

差し支えなければ、お名前とご身分を」


態度が完全な上から目線に変わる。

うん、実にコントロールしやすそうだ。


「無礼なヤツだな! 今はまだ名は言えん。

――しかし、お前の立場もあるだろう」


僕はおもむろに青と赤のふたつの石を出し。

明かりのために動いているだろう魔術の文字の一部を書き換える。


「大魔導士…… とだけ、言っておこう」

そして、明かりが一瞬消え…… 強く点滅した後、通常に戻った。


「そ、それは森に伝わる魔石と精霊石では……」

「多少の知識はあるようだな」


驚いた老人の目が、葵さんとローラさんに向く。


僕はローラさんに近付いて……

――エメラルダさんのフードを少しずらし、老人に見せた。


「ちょっと複雑な事情があってね。

知ってるかもしれないが、森の管理で行き違いがあったんだ。

――これ以上見せると、あなた方にまで迷惑が及びかけない」


息を飲む老人に、あと一押しだと確信し。


「まあ、だからコレで手を打ってもらえると嬉しい」

金貨を放り投げる。


老人は受け取った金貨をしばらく見つめ……

「ご無礼いたしました…… 長旅でお疲れでしょう、どうぞこちらへ」

深々と頭を下げた。



老人に呼び出されたメイド服の少女が、兵士から荷物を受け取り、部屋に案内してくれた。

そこは最上階の、見晴らしの良い大きな部屋だった。


30畳以上のリビングが2つ、天蓋付のベッドがある部屋が3つ。

街が一望できるテラスは、50畳以上ありそうだ。


「ね、ローラさん。上手く行ったでしょ」

「なんかね、とても変な奴についてきちゃったって、後悔してるとこよ」


呆れたように苦笑いするローラさん。

その横でなぜか葵さんは、憧れの眼差しで僕を見詰めてますが……


「まあ、今日はゆっくり寝て、あす作戦会議しましょう」

なんだか今日は疲れたから、もうベッドにもぐり込んで犬のように眠りたい。



その後じゃんけんで部屋割りを決めた。

僕とローラさんと葵さんが1部屋ずつ。

森人のフィーアさんとエメラルダさんはソファにねせて……


――僕たちは眠りについた。

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